たとえば私がいないほうが。

 家に帰り、自転車で夕飯の買い物にでかけた。ぼうっとしていたから、買い物リュックじゃなくて学校用のリュックを背負っていることにも気づかないまま。
 モヤモヤしている心に反して、澄み渡る綺麗な青空。
 空は広くて、高いビルや学校もなくて、なんの障害物もない。ただただ自由だ。あそこに行きたい。雲の上で寝ころびたい。

 私は真上を見上げながら下り坂でペダルを思い切り漕いだ。
 風が髪を巻き上げて、まるで上昇気流に乗れたような気分だ。ペダルから両足を放して真っすぐに伸ばし、両手を挙げると、そのまま空に飛んでいけそうな気がした。

 気がしただけで、結局空には行けないまま自転車に強い衝撃を受けた。
 下り坂の突き当りのガードレールに思い切り突っ込んで、私は宙を舞った。
 一瞬の世界が切り取られて、ゆっくりと景色が流れていく。本当に空を飛んでいるみたいだった。

 死ぬつもりだったわけじゃない。自傷行為のつもりもなかった。
 一瞬、気持ちがいいほどに頭の中が空っぽになって、あの時の私は紛れもなく、本物の自由を手に入れた気分だった。

 遠くで、救急車のサイレンが聞こえる。
 そういえば今日は私の誕生日だったな、と薄れゆく思考の中で十七歳を迎えて、そのまま意識を手放した。