「これ、よかったらどうぞ」
お母さんが光里の前に、自動販売機で買った缶のココアを差し出した。
「ありがとうございます……」
病院の待合ロビーにあるテーブルスペースで、斜めに向かい合うふたり。そして、ふたりの周辺をうろうろと立ち歩く私。
「お名前を聞いてもいいかしら。恥ずかしい話なのだけれど、今のお友だちの名前をひとりも知らないの……。母親なのにね」
眉尻を下げて弱々しく笑むお母さんを見て、ちくりと胸が痛んだ。
「あたしは光里っていいます。さくらからは『みっこ』って呼んでもらってて……。今日は来てないんですけど、他に『なっこ』と『あっこ』って子がいて、いつも4人一緒にいます」
お母さんが驚いたような表情をしたのち、目にうっすらと涙を浮かべふわりと微笑んだ。
「よかった。いいお友だちが沢山いるのね」
「いい友だちなんかじゃ……」
お母さんに聞こえないくらい小さな声で、ぽつりと呟いた。
普段と違って、少したどたどしく話す光里。孕んだ緊張感が伝わってくる。
「あ、あの、さくらはいつ退院しますか?」
「……わからないわ」
「え……? でも、ケガはたいしたことなかったって担任の先生が言ってて……」
「本当にわからないのよ。お医者さんは、体に異常はないっておっしゃっているの。本来なら、もうとっくに目覚めてるって。なのに、あの子はいつまでも目を開けないの」
「なんで……?」
「もしかしたら、私のせいかもしれないわ。私が駄目な母親だから、こんな親の元には戻りたくないって思っているのかも」
「違うっ!」
思わず叫んでいた。
そんなこと思ってない。私にいなくなってほしいのは、お母さんの方でしょう?
やっぱり、ふたりに私の声は届いていない。
今の私はただの傍観者で、なにも伝えることはできない。この悲しみも、苛立ちも、やるせなさも。
光里が口を開きかけたところで、私の担当医が通りがかって「今後について、ちょっとお話いいですか?」と、お母さんに声をかけた。
「せっかくだから、顔を見て行ってあげてね」
「……はい」
お母さんが光里の前に、自動販売機で買った缶のココアを差し出した。
「ありがとうございます……」
病院の待合ロビーにあるテーブルスペースで、斜めに向かい合うふたり。そして、ふたりの周辺をうろうろと立ち歩く私。
「お名前を聞いてもいいかしら。恥ずかしい話なのだけれど、今のお友だちの名前をひとりも知らないの……。母親なのにね」
眉尻を下げて弱々しく笑むお母さんを見て、ちくりと胸が痛んだ。
「あたしは光里っていいます。さくらからは『みっこ』って呼んでもらってて……。今日は来てないんですけど、他に『なっこ』と『あっこ』って子がいて、いつも4人一緒にいます」
お母さんが驚いたような表情をしたのち、目にうっすらと涙を浮かべふわりと微笑んだ。
「よかった。いいお友だちが沢山いるのね」
「いい友だちなんかじゃ……」
お母さんに聞こえないくらい小さな声で、ぽつりと呟いた。
普段と違って、少したどたどしく話す光里。孕んだ緊張感が伝わってくる。
「あ、あの、さくらはいつ退院しますか?」
「……わからないわ」
「え……? でも、ケガはたいしたことなかったって担任の先生が言ってて……」
「本当にわからないのよ。お医者さんは、体に異常はないっておっしゃっているの。本来なら、もうとっくに目覚めてるって。なのに、あの子はいつまでも目を開けないの」
「なんで……?」
「もしかしたら、私のせいかもしれないわ。私が駄目な母親だから、こんな親の元には戻りたくないって思っているのかも」
「違うっ!」
思わず叫んでいた。
そんなこと思ってない。私にいなくなってほしいのは、お母さんの方でしょう?
やっぱり、ふたりに私の声は届いていない。
今の私はただの傍観者で、なにも伝えることはできない。この悲しみも、苛立ちも、やるせなさも。
光里が口を開きかけたところで、私の担当医が通りがかって「今後について、ちょっとお話いいですか?」と、お母さんに声をかけた。
「せっかくだから、顔を見て行ってあげてね」
「……はい」
