太陽の墓

「そんな……君……本当に…………」
「……ここだよ……掘って……」
「…………」
「……少し掘ったら……箱が……出てくるから」
「あ……」
「……そうしたらそれを…………僕に渡して……」
「…………」


 なぜ僕は、動けるのだろう。
 なぜ僕は……震えながらもしっかり動いて、言われるがままに作業を進めているのだろう…………。

「ありがとう……。……これで、……薬が飲めるよ……」
「飲んだら治るの?」
「……ふふ、何言ってるの……。……逆、だよ……治らないために……飲むんだ…………」
「…………」




 穴を掘っていた。
 どこまでも。
 どこまでも。
 どこまでも……。
 深い、深い、……深い穴を。

 いつまで掘り続けるのだろう。終わりは来るのか。永遠に穴を掘り続けるのかもしれない。僕は今、どこにいる……?

 ……何も考えられない。

 いつしか、そんな僕の姿をどこからか眺めている僕の存在に気がついた。
 僕は、僕を見て思い出した。
 この姿は、そう遠くもない未来へと、確かに思い描いていたものだ。
 予期していた? いや違う。そうじゃない。
 これは……そう、僕が心のどこかで望んでいたことなのだ。
 ……けれど1つだけ違うのは、思い描いたビジョンの中で穴の中に入るのは『彼』ではない。


(そうだ…………僕は…………)


 やっと、はっきりと自覚した。
 僕がこの場所を、『墓場』をこんなにも愛していたのは、僕の嫌いなあいつらを、いつかここへ葬るという夢想によって、自分を守っていたからなのだった。


『そっか。そんなキミと出会えたのは、僕にとっては奇跡だったのかもしれないね』
『教えて。君はなぜ墓に入るの?』
『僕は、誰のものにもなりたくないんだ』
『……?』
『このままいくと、望まない人の所有物にならなければいけないところだった。あまり詳しくは言いたくないけど』
『…………』
『僕は最後まで僕だけのものであり続ける。自分の意思で終わりを決めて、――自分の選んだ人に見届けてもらう。そう決めていたから』
『…………そっか』



 永遠にも思えた長い時間を終えて、深い穴から戻って来ると……。

「……おやすみ」


 小箱を手に入れた彼は、鮮やかな赤色の苦痛から解放されて、色のない世界で穏やかに眠っていた。
 そこから、永遠のような穴の中へ、――僕の手によって、深く、深く、…………。




 僕達は二人とも、この墓場の中に、それぞれの思い描く墓標を夢見ていた。
 僕は葬る夢を。彼は、葬られる夢を。
 彼は望んだ通りの夢を手に入れたのだろうか?
 僕のほうは、とても望まないものを葬ることになってしまったけれど、それでも、そうまでして彼の望みを叶えたのはなぜなのか。
 わかるようなわからないような曖昧な思いを抱えながら、少し盛り上がった土の上に、彼が以前から用意していた墓石を置く。

「……へぇ、あの子、こんな名前だったんだ。僕は結局名前も教えてなかったな」


 僕が作った墓の中には、いま、太陽が眠っている。


――終――