僕は汗をだらだら垂らしながら大耕山を登った。ふっと横を見ると、多音は汗一つかいておらず、平気な様子だった。僕の微生物の雨のような大粒の汗を見ると、多音はふふふと口角を上げた。
「あれ、歩、もしかしてちょっと弱い?このくらい疲れずに登ってよ」
「いやいや、多音ちゃんが元気すぎるだけだよ。なんで汗一つもかいてないの?もともと結構運動するタイプなの?」
「いや、そんなに運動しない。私は自分がそんなに活発に動いてはいけないと知っているから」
「い、いきなりどうしたの?」
僕は、足を休める目的を込めてその場に立ち止まる。多音は振り返ることもなく続ける。
「私、人よりも先に動くというか、よく日付を勘違いするというか」
「あ、あれってやっぱり自覚があったんだ」
「いや、自覚があるというか、そういうものだと思ってる。だから、私は直感的に動いてはいけないと思っている。。だからこそ力が有り余ってる」
「なるほどね」
人よりも直感的に生きている自覚はあったのか。
「まあ、でもその能力があったからこそ歩と巡り会えた。だからいいことではある」
「多音、」
確かに入学式の多音の奇行がなかったらもしかしたら未だに話していないかもしれない。そういう意味では、やっぱり効果があったのではないかと思う。
「歩、あともう一つ私に能力があるって話する?」
「お、なんのこと?」
「私が、想像以上の方向音痴っていうこと」
「は?」
僕は、疲れ果てて周りに構っている暇がなかったからか、近くにいたはずの仲間たちが全員視界から消え去っていた。今この場にいるのは僕と多音の二人っきりになってしまった。何故道に迷った後に方向音痴であることの告白をしてきたんだよ。
「え?なんで周りに誰もいないの?さっきまでみんないたじゃないか。どうしてこんなことに」
「それは、私が方向音痴だから」
「そうだけどこうはならないでしょ。みんなとはぐれるほど道もなかったはずだし。僕たち迷っちゃったんだよ」
「そうみたいね」
どうしてこの状況で冷静でいられるのかと思う。私はみんなよりも一歩先を進んでるとか意味の分からないことも話してたくせに。
「歩、疲れた?」
「ああ、もうだいぶ疲れた。足の裏がじんじんしてる」
「それじゃ、一旦休めるような場所を探さないと。歩、私が絶対に助けるからね」
「そんな大げさに言わなくても」
「いや、駄目だったら私は歩を放置して一人で下山するから」
「ひどい」
そうして、再び僕たちは険しい山道を踏みしめながら進んでいった。土の湿った地面が足元を引っかけるトラップのようになっていて歩きづらい。内側の筋肉まで圧迫された状態でなんとかベンチのあるところを探した。歯を食いしばり、集中しているところに多音が突然尋ねてきた。
「歩、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「副クラス長の大辻さんのことなんだけど」
「そ、それがどうしたの?」
何も心当たりがないのにいきなりどうしたのかと少し僕は身構えた。
「二人は知り合いなの?」
「え?」
「さっき登山口で話してたこと。大辻さんが歩のことを知ってるって」
「ああ、あれは向こうの勘違いなんじゃないかな。全く記憶にないし」
「ほんとのほんと?」
「うん、多分。大辻なんて苗字今まで聞いたことないしな」
「それならよかった」
「どうして?」
「いや、特に深い理由はないけど」
「あっそ。まあ、本当はどこかで会ったことあるかもしれないけどね。僕が覚えていないだけで」
「そう。その可能性があるなら確かめなきゃいけないよね」
「?」
僕には多音が何を言っているのか分からなかった。しかし、今回はいつものややダウナーな感じではなく、瞳に熱いものを感じた。「まあ、気のせいか」と思っていたのもこの時だけだった。そして、それ以上は何もなく二人は黙々と歩き続けた。すると、休憩できるようなスペースが見えてきた。
「歩、着いたよ。ここで少し休んでいこう」
そこは、小さな公園で2つのベンチと小さなトイレ、ボロボロのブランコがあった。人はおらず、静かな中で風が揺らす葉っぱの音だけが流れている落ち着いた環境だった。歩はゆっくりとベンチに腰掛けると、ひざの関節がバキバキと悲鳴を上げていた。受験期も相まってこんなに運動したのは久しぶりだ。
「歩」
「ん」
「どうして私が道に迷ったと思う?」
「それは、方向音痴だからじゃないの?」
「本当にそうなのかもしれない。でも、神様のいたずらの可能性もあるかもしれないね」
「おいおい、いきなり変なこと、」
僕がそう言い終わる瞬間だった。山の中からくすくすとした笑い声、話し声が聞こえてきた。誰かと思っていると、小さな小道から大辻尋絵とその友達が「休憩しようか」と話しながらこちらに来ていたのだ。
「ふふふ、やっぱりね」
多音は何かを察したかのように口角を上げた。そして、二人を見つけた大辻は、大きく手を振って呼んでくれた。
「おーい!歩君と多音ちゃん、だっけ?一緒に休んでもいいー?」
「あれ、歩、もしかしてちょっと弱い?このくらい疲れずに登ってよ」
「いやいや、多音ちゃんが元気すぎるだけだよ。なんで汗一つもかいてないの?もともと結構運動するタイプなの?」
「いや、そんなに運動しない。私は自分がそんなに活発に動いてはいけないと知っているから」
「い、いきなりどうしたの?」
僕は、足を休める目的を込めてその場に立ち止まる。多音は振り返ることもなく続ける。
「私、人よりも先に動くというか、よく日付を勘違いするというか」
「あ、あれってやっぱり自覚があったんだ」
「いや、自覚があるというか、そういうものだと思ってる。だから、私は直感的に動いてはいけないと思っている。。だからこそ力が有り余ってる」
「なるほどね」
人よりも直感的に生きている自覚はあったのか。
「まあ、でもその能力があったからこそ歩と巡り会えた。だからいいことではある」
「多音、」
確かに入学式の多音の奇行がなかったらもしかしたら未だに話していないかもしれない。そういう意味では、やっぱり効果があったのではないかと思う。
「歩、あともう一つ私に能力があるって話する?」
「お、なんのこと?」
「私が、想像以上の方向音痴っていうこと」
「は?」
僕は、疲れ果てて周りに構っている暇がなかったからか、近くにいたはずの仲間たちが全員視界から消え去っていた。今この場にいるのは僕と多音の二人っきりになってしまった。何故道に迷った後に方向音痴であることの告白をしてきたんだよ。
「え?なんで周りに誰もいないの?さっきまでみんないたじゃないか。どうしてこんなことに」
「それは、私が方向音痴だから」
「そうだけどこうはならないでしょ。みんなとはぐれるほど道もなかったはずだし。僕たち迷っちゃったんだよ」
「そうみたいね」
どうしてこの状況で冷静でいられるのかと思う。私はみんなよりも一歩先を進んでるとか意味の分からないことも話してたくせに。
「歩、疲れた?」
「ああ、もうだいぶ疲れた。足の裏がじんじんしてる」
「それじゃ、一旦休めるような場所を探さないと。歩、私が絶対に助けるからね」
「そんな大げさに言わなくても」
「いや、駄目だったら私は歩を放置して一人で下山するから」
「ひどい」
そうして、再び僕たちは険しい山道を踏みしめながら進んでいった。土の湿った地面が足元を引っかけるトラップのようになっていて歩きづらい。内側の筋肉まで圧迫された状態でなんとかベンチのあるところを探した。歯を食いしばり、集中しているところに多音が突然尋ねてきた。
「歩、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「副クラス長の大辻さんのことなんだけど」
「そ、それがどうしたの?」
何も心当たりがないのにいきなりどうしたのかと少し僕は身構えた。
「二人は知り合いなの?」
「え?」
「さっき登山口で話してたこと。大辻さんが歩のことを知ってるって」
「ああ、あれは向こうの勘違いなんじゃないかな。全く記憶にないし」
「ほんとのほんと?」
「うん、多分。大辻なんて苗字今まで聞いたことないしな」
「それならよかった」
「どうして?」
「いや、特に深い理由はないけど」
「あっそ。まあ、本当はどこかで会ったことあるかもしれないけどね。僕が覚えていないだけで」
「そう。その可能性があるなら確かめなきゃいけないよね」
「?」
僕には多音が何を言っているのか分からなかった。しかし、今回はいつものややダウナーな感じではなく、瞳に熱いものを感じた。「まあ、気のせいか」と思っていたのもこの時だけだった。そして、それ以上は何もなく二人は黙々と歩き続けた。すると、休憩できるようなスペースが見えてきた。
「歩、着いたよ。ここで少し休んでいこう」
そこは、小さな公園で2つのベンチと小さなトイレ、ボロボロのブランコがあった。人はおらず、静かな中で風が揺らす葉っぱの音だけが流れている落ち着いた環境だった。歩はゆっくりとベンチに腰掛けると、ひざの関節がバキバキと悲鳴を上げていた。受験期も相まってこんなに運動したのは久しぶりだ。
「歩」
「ん」
「どうして私が道に迷ったと思う?」
「それは、方向音痴だからじゃないの?」
「本当にそうなのかもしれない。でも、神様のいたずらの可能性もあるかもしれないね」
「おいおい、いきなり変なこと、」
僕がそう言い終わる瞬間だった。山の中からくすくすとした笑い声、話し声が聞こえてきた。誰かと思っていると、小さな小道から大辻尋絵とその友達が「休憩しようか」と話しながらこちらに来ていたのだ。
「ふふふ、やっぱりね」
多音は何かを察したかのように口角を上げた。そして、二人を見つけた大辻は、大きく手を振って呼んでくれた。
「おーい!歩君と多音ちゃん、だっけ?一緒に休んでもいいー?」

