冬の魔物

「謝ることなんてないよ! そういうわけじゃない。何も……うん。綾川さんは何も悪くないよ。ごめん。俺こそうまく言えなくて」

 ここまで感じた素直な気持ちを言えば、無表情だった綾川さんはふふっと楽しそうに微笑んだ。

「ううん。佐倉くんは気にしないで。私にとっては心臓が悪いっていう状態も、もう普通なんだけど、ほかの人にはそうでもないもんね……うん。私の心臓は少しだけ不良品なんだけど、頑張ってくれてなんとかここまで生きていられるんだ。だから、完全に治るかもしれないし。もう少し……頑張って欲しくて」

 思いのほか初めて見た笑顔が可愛く、参ったなと思った。やばいやばい。もうすぐ他人になる予定の女の子を可愛く感じて、何か俺にメリットが?

 ないないない。何もない。恋は始まらない。やめてくれよ。

「心臓が頑張ってくれているって、いいな。俺も近くに心臓外科医の名医がいるって、聞いたことある。手術うまくいくといいな……」

 これは、そつなく会話が出来たはず。俺の脳みそのスペックだと、これ以上、いい感じに返せそうにない。