冬の魔物

 そういえば、近くに腕のいい心臓外科医がいると何処かで聞いたことがある。その人の腕を信じて、全国から患者が集まるのだと。

 余程名医なのだろうなと思っていたら、彼女もそんな医者を頼ってこんな辺鄙な田舎に引っ越してきたらしい。

「そうそう。もうこれで、何度目の手術……? って感じだけど、とにかく手術を受けて、生きている時間を引き延ばすの。だって、どうにかして生きていたいもん」

 俺はここで何か言葉を返そうと思ったんだけど、何故か何も言えなかった。

 軽口を返せるような場面でもなく、真面目に返せば『生きるとは何か』みたいな、そんな重い展開に……?

 ああ。無理だ無理だ。余命短かそうな彼女と、どんな会話交わせばいいんだよ。

 こういう事態をどうにかする方法を、義務教育の教科書に書いておいてくれよ。

 上手く……気持ちが楽になるような、そんな励まし方を。

「あ。ごめん。変な話しちゃって……ごめんね」

 俺がそんな話を聞いて戸惑ったのを察したのか、綾川さんはそう言ったので、慌てて首を横に振った。