冬の魔物

 早くこの場から逃げたいなと心の何処かでは思うけど、俺の中の常識だったり倫理観が騒めいた。そんな人でなしなことをして、もうすぐ卒業とは言え、もし変なことになったらどうする。

 そこは本人の彼女が拒んだとしても、それはすべきだろう。床に寝かせたまま、流石にここは離れられない。

 俺は彼女の許可を得て肩を貸すと、近くに置かれていた椅子へと導いた。隣に座り彼女の様子が落ち着くまで待った。

「ごめんなさい。私、心臓悪いんだよね……同じクラスの、佐倉文也くん?」

 顔をあげた彼女の瞳は、なんだか透き通っていた。吸い寄せられるような力を感じる目だ。俺はあまり直視しないように、何度か頷いた。

「うん……綾川雪乃さんだよね。よかったら保健室まで付き添うけど」

 ここで倒れていたのだから、なんかしらの体調不良を起こしていたはずだ。けれど、彼女は首を横に振った。

「ううん。いいの。たまにああなってしまうだけで、じっとしていたら治るんだよね……もう少しで、手術するから……これで、治るといいんだけど」

「あ。そうなんだ」

 俺は綾川さんの季節外れの転校の理由を悟った。