冬の魔物

「先生……すみません。俺が無理させたかもしれません。ご両親にも謝罪したいです。どうしても、無理ですか」

 どうして、昨日連絡先を聞かなかったのだろう。どうして、これまでにいくらでも機会はあったのに、毎日教室で会えていたから……ずっと、そんな日が続くとそう思っていたのに。

 ただの勘違いだったと、ようやく気がついたのだ。

「駄目だ。いま、彼女のご両親の気持ちを考えろ。とにかく、落ち着けば本人から連絡が来るだろう。佐倉。早く授業に戻りなさい。受験にも響く」

 俺はそれ以上は何も言えず、教室へと戻った。ああ、そんな……もう、会えなくなるかもしれないのに。

 何も出来ないのだ。

 目の前にあったノートにぽつりと涙がこぼれた。文字が滲んだ。俺は両目を慌ててこすった。泣けない。駄目だ。

 だって、俺が泣いたら彼女とは、もう二度と会えなくなるみたいじゃないか。


◇◆◇


 受験日をこえて、俺は合格した。どうしても、綾川さんのことを言い訳にしたくなくて、より必死で勉強に励んだ。