冬の魔物

 綾川さんはただ、目を見開いて驚いていただけで、嫌がりはしなかった。

「ごめん……」

 俺は謝った。彼女からの了解を得ずになんてことをしてしまったんだろうと思った。

 俺たちはそういう仲でもない。まだ告白し合った仲ならわかるけど、俺はただのたまに話すだけのクラスメイトであって、突然キスするなんて、許されるはずなんて……。

「謝らないで」

 その時、綾川さんの目がやけに色っぽく見えたのが、不思議だった。何となく人形めいていた彼女の目に、生きている光が灯ったというか。

 ……え?

「……そんなこと、言われたら……その気になっちゃうよ」

 自分でも何を言っているか、わからずにそう言った。そうだ。こんな……やめてくれ。騙しても金なんてないんで……どうか、正気に戻らせてください。

 小声の訴えに綾川さんは黙って微笑むだけだった。俺は荷物をまとめて、彼女と共に公共の場所から移動することにした。何をしているんだ。誰が来るかもわからない場所で。

「……ああ。私、高校生になれて良かったな……そう思うの。佐倉くん。ありがとう」

「は?」