冬の魔物

 困っている事態を把握した俺は、無言のまま自販機を揺らすと、硬貨がカランと音をさせて釣り口に落ちてきた。

「……! すごい。どうして?」

 まるで目の前で魔法でも使ったように驚いた表情の綾川さんに、俺は苦笑いするしかない。

 いや、物理で解決したんで、褒められるようなことでもないんだけど。

「いや、なんかこの自販機はお釣り返却のときに、たびたび詰まることがあって、こうしたら大抵戻ってくるんだ。先輩からの知恵だから、綾川さんは知らなくても無理ないよ」

「そうなんだ……! 先輩からの知恵……!」

 俺の話を聞いた清涼飲料水を脇に抱えた綾川さんの目は、とてもキラキラしている。

 そんな彼女を見て俺はなんだか、複雑な気持ちになった。これを教えてくれたのは、あんまり好きではない先輩だったし、卒業してもう会わなくなってほっと安心した人だったからだ。

 そんなことも、彼女にとっては特別に思えるのだろうか。

「うん。まあね……もしかして、そういうのも、憧れるの?」

「憧れるよ! すごい。私もそういうのしたかったな~……お礼に一本奢るよ。佐倉くん」