君は俺の右隣

「はーい、出席番号順に窓側の席から座れー」

ベテランっぽいおじいちゃん先生が胸に造花を飾った初々しい俺たち新入生に新たな教室でそんな指示を出す。
俺は前から席を数え窓際から3列目、前から4番目の席に座った。
「(あぁ、めちゃくちゃ教員に見られる席じゃん...)」
若干の落胆を見せながらまだ見慣れないクラスメイト達が席に着くのを待った。
「あ!ここだ!」
ぼーっと時間を過ごしていると横にダボダボの制服を着た小柄な男の子が座る。
同性の俺から見てもとても可愛らしい男の子だった。
無意識のうちに彼を凝視してしまっていたのか彼がこちらを向く。
「ん?何?僕の顔、何かついてる?」
「あ...いや...」
「もう!気になるじゃん!」
「いや...可愛いな。お前。」
「あー、僕の背が低いからバカにしてんだろ?」
「ち、違う!バカにしようとか思ってない!」
「そっか!あ、僕は椿弥生!」
「椿...綺麗な名前だな...」
「えっと...城山光希...くん?」
椿は入学者名簿を取り出すと俺の名前を探り当てた。
ふと名前を呼ばれ胸が高鳴るのを覚える。
椿はニコッと微笑み「よろしくな!」と言ったところでおじいちゃん先生が話し出しす。
俺は椿に言葉を返すタイミングを失い、小さな頷きだけを返した。
失敗したと直感する。
それでも椿は俺の小さな頷きを見逃さなかった。
嬉しそうに椿も大きく頷く。
顔が急激に熱くなっていくのを感じてバッと椿から顔を背けてしまった。

「そういうわけで、今日から君たちは高校生だ。」
先生のありがたい言葉も右から左に流れていく。
頭の中はもう椿のことでいっぱいだった。
成長するからと大きめに作られたダボダボの制服。
警戒心皆無の屈託のないあの笑顔。
先ほどまでの椿の姿が脳内でリピートされる。
コミュニケーション能力を思春期で失った俺には眩しすぎた。



入学早々、俺は恋に落ちてしまったのかもしれない。





それからというもの、俺は椿のことから目が離せなかった。
よく椿を観察してみると椿は喜怒哀楽がはっきりした人だということが分かった。
嬉しいときは笑顔でぴょこぴょこ跳ねる。
怒っているときは顔を真っ赤にして頬を膨らませる。
悲しいときはあからさまに口数が減り今にも泣き出しそう。
楽しいときは...

「光希!」

俺の名前を呼ぶ。
それがいかに俺の心を弄んでいることになるのか椿は知るよしもないだろう。
なんせ椿は無自覚なのだから。

椿は人間関係の構成が苦手な俺を輪の中に入れてくれた。
「光希は優しいし頭良いしイケメンだし!コミュ力ないくらいの欠点ないと逆に怖い!」
そう言って俺の全てを受け入れてくれた。
俺は椿がいないと高校生活が儘ならないと自覚する。
それと同時に椿は俺じゃなくてもいいという現実も突きつけられたような気がした。
なんとか俺なりに椿の特別になれるようにと頑張るものの空回りしてしまう。
椿の好きな飲み物を買おうとすれば季節外れのおしるこが出てきたり、先生に頼まれた荷物運びを手伝えば段ボールの底が抜けたり...
椿はその度に「光希は不器用だなぁ。」と微笑みながら俺の背中を慰めるように撫でてくれる。
そして俺の胸はありえないくらい鼓動するのだ。
「(でもなぁ...椿は皆にも同じだろうからなぁ...)」
「光希?どうしたの?」
「ううん。何でもないよ。」
「そう?でも何か悲しそうな顔してる。」
椿は俺の頬をつまむとぐいーっと引っ張り笑顔を作らせる。
「僕は光希の笑顔が見たいなぁ。」
「ふふっ」
「あ!笑った!」
「そりゃあ笑うよ。」
「えへへっ!光希が笑うと僕も嬉しい!」
無邪気な椿をずっと隣で見てたい。
そう願ったのも束の間だった。

「はい。今から席替えします。」



1度目の席替えが始まる。