ガラスの靴の殺人姫

─── ❦ ───

「…」

モローとはそれから、口数が減ってしまった。

使用人の間では喧嘩したのではないかと噂が流れていて。
もちろんそんなことはないのだが。

「…今日も朝食後、稽古しますよ」
なんともなさそうに話しかけて来るのだが、どこか気まずそうで、冗談を言うことも減った。

「…うん」

“跨いではいけない線なんですよ”

“国境を跨ぐことは許されなかった”


「…」

そんなに、区分ってだいじ?
みんな仲良く、じゃだめなの?

意味分かんない…


─── ❦ ───


「…ここに足をかけて、肘で押すと、」

目の前にバタ、とモローが倒れる。

「…その調子です」

組み合うのはいいのに、抱きしめるのはだめなの?

モローに手を差し伸ばすも、モローは目を逸らし、立ち上がった。

「…」

「…今日はもう終わりにします」
モローはドアノブに手をかけ、
「ねぇモロー…」
私の呼びかけにも答えず、あっけなくドアは閉まってしまった。

「…」

窓の外から、鳥のさえずりが聞こえた。


─── ❦ ───


「セレネ、イムレと結婚するのだろう?」
「…はい」

夕食時になっても、気分が浮かれることなく、食欲が湧くこともなく、父上と母上と話すために食堂に座っている。

「結婚したら、イムレに行くんだろう?」
「…え?」

結婚したら、イムレに行かなきゃなの?

「寂しくなるなぁ」
「…」

モローは、ついてくるのかな…

「式はいつ挙げるんだ?」
「…わかんない、」
「イムレともよく相談して、国民にいつ報告するのかも考えなきゃな、」
「…うん」


胸に穴が開いたみたいに。
風ばかり通り抜けていく。

「…部屋、戻るね」
「あぁ。おやすみ。」


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夜中。
寒くて。

足を擦り合わせても、中々温まらなくて。
部屋を月明かりが照らしていて。

時計を見ると、2時だった。

夕食をとっていないのに、お腹は空かなくて。

気がついたら、モローの部屋の前にいた。

“Moreau”

「…」

ドアを開けてそっと覗くと、部屋の狭さに驚く。

小さなベッドに、素朴な机。
積まれた本。壁にかかった服。

勉強机に座ったまま、本に顔を突っ伏して寝ている。


「…セレ…ネ…まっ、てよ…」

寝言…

部屋に入り、音を立てないようにそっとドアを閉めた。

抱きしめちゃ、だめなんだよね…?

ベッドで寝るのはいいかな…?


ベッドに足を踏みかけると、ミシ、と音が鳴り、横になると、モローの匂いが全身を包む。

あったかい…気がする…

狭くて、天井低いけど、なんかいいなぁ。


モローの背中、こう見ると小さく見えるなぁ。
執事服以外、見たことないけど…、セーター、似合うなぁ。

剣術に、武術に、立ち回りの本。

モローも勉強してんだよなぁ、私には実戦でしか教えてくれないくせに。

小さな窓から差し込む月明かりに、あくびをした。