結末から生まれた子ども

——僕の人生は、誰のものだろう。

ここは、エルセア王国。別名、レールの国と呼ばれている。 

人は、生まれた瞬間から、自分の人生を知らされている。
十六歳で出会う親友の名前も。
十八歳で選ぶ進路も。
二十二歳で就く仕事も。
いつ、誰を好きになり、何を失い、どんな大人になっていくのかも。
そして、人生の最後に何を思うのかさえ。
すべては、一冊の本に記されている。
このエルセア王国では、赤ん坊が生まれると同時に、一冊の本がどこからか現れる。
表紙には、その子どもの名前が刻まれていて、その中には、その子が歩む人生の誕生から最期の瞬間までの全てが書かれている。
人々はそれを、『人生書』と呼んだ。
人生書に書かれた道を歩めば、間違いはない。
どの学校へ進めばいいのか。
どんな仕事に就けば幸せになれるのか。
誰と結ばれ、誰と別れるのか。
迷ったときは、本を開けばいい。
自分の未来がわかっているのだから、選択に悩む必要なんてない。
少なくとも、この国の人々はそう信じていた。
だから、人生書に逆らう人間はいなかった。
正確に言えば、逆らおうとする人間がいなくなったのだ。
本に書かれているから、その道を選ぶ。
本に書かれているから、夢を諦める。
本に書かれているから、好きな人への気持ちを胸の奥にしまい込む。
そうして人々は、自分で選んでいるつもりの人生を、少しずつ本に委ねていった。
やがて誰も、自分の未来を疑わなくなった。
——僕も、その一人になるはずだった。
十六歳の誕生日を迎える、前日までは。