名前を呼ぶには、近すぎる。


「蓮、大好き」

「じゃあね」と言ってまめが背を向け、足早に電車に乗り込んだ。後ろ姿の耳もうなじも、真っ赤に染まっていた。

 耳元に、まめが吐いた息の温もりがまだ残っていた。
 電車のドアが閉まるのと同時に、俺はへなへなと力が抜け、片膝をついた。その体勢のまま、驚いた顔のまめと目が合った。
 ドア越しに対峙したまま電車はゆっくりと発進し、まめを連れていってしまった。静けさの戻ったホームに、まるで俺の気持ちだけが置き去りにされたようだった。

 すぐにスマホが震えた。まめからだ。
『大丈夫?』
『大丈夫』『びっくりしただけ』

 そう、慌てて矢継ぎ早に返信をする。
 すると、まめから再び返信があった。

『武士か!笑』

 意味がわからず首を傾げていると、続いてスタンプが送られてきた。
 「いざ参らん」と片膝をつく武士。

「いつの間に買ったんだよこのスタンプ……」

 ーーなぁ、ブー。お前諦めなくてもいいよ。ちゃんとかっこ悪い俺のことを好きでいてくれる奴が現れるよ。

 俺は片膝をついたまま、泣きたいような、おかしいような、不思議な気持ちで笑っていた。
 そして、立ち上がると、返信をした。

『俺も大好きだよ、誠』


【完】