名前を呼ぶには、近すぎる。

 カフェを出て、俺達は行く当てもなく辺りをぶらついていた。
 不意に、腕がぶつかりそうな程まめが近付いてきて、ドキッとした。高校時代は、俺が追うばかりでまめはいつもその距離をただ受け入れるだけだった。離れたら離れたでそのまま、まめが自ら距離を詰めることなんてなかったのに。
 俺ってあの時、恋人でもないのにこんなに距離が近かったのかと、過去の自分の大胆さに驚くと共に、恋人になった途端前のように行動できなくなった自分に気付いて、戸惑う。

「ねぇのむ。……今、楽しい?」

 歩きながら、まめが上目遣いで聞いてくる。かわいい。意識しているわけではなく、元々頭ひとつ分の身長差があるので上目遣いにならざるを得ない、というのが正しいのだけれど。俺は内心、身長差に感謝した。
 ちなみに答えは、言うまでもない。

「楽しい」
「ほんとにー?」
「ほんとにー」

 まめに口調を合わせる。まめが少し安心したように、微笑んだ。
 しかし、雲行きが怪しくなったのはそこからだった。

「よかった……だってなんかのむ、様子が変なんだもん」
「ん?」
「もしかしたらのむ、友達の時の方が楽しかったかなぁ、なんて」

 ーーえ?そんなわけないだろ。
 思いがけない言葉に、咄嗟に返事ができなかった。

「2人きりだと俺の様子伺って世話ばっか焼いて、疲れちゃわない?」

 ーーは?疲れないが?むしろご褒美だが?

「それって、俺が頼りないからだよね。……もっと雑に扱っていいのにさ」

 ーーまめが頼りない?雑に?何言ってんだ。まめを雑に扱う奴がいたら、俺がまとめて消しますが?

 先ほどまで微笑んでいたまめは、口を開く度に自信なさげに目線が下がり、ついには地面を見つめてしまった。
 何か言わないと、と口を開いた。けれど、言葉は頭の中をぐるぐる回るばかりで、声にならなかった。
 これはまずい。手に嫌な汗がにじむ。どうやらまめと俺は、とんでもない認識のズレがあるようだった。
 俺がしたくてしていることで、まめを悩ませ、落ち込ませているなんて気付かなかった。

「待って。話そう、まめ」
「……」

 縋(すが)るように話しかける俺を、まめが見上げる。

「話そう。……いや、俺が話したい。まめに誤解されたままなの嫌だ」

 そう言うと、まめは不安げに、こくんと頷いた。