誰もいない家で目覚める。
今何時…………
「……八時ぃ!?」
珍しく早寝したのに……。
いっそ休んでしまおうかと思ったが、私は今日初めての友達を作らなくちゃならない。
制服に身をつつみ、部屋を飛び出して階段を駆け下りる。
キッチンに置いてあるバターロールを適当に掴んでそのまま家を出た。
うぅぅ……間に合えぇ……。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
廊下の窓から見える景色は綺麗な街並みだった。
昼放課、購買にパンを買いに行く前にあの子がいる場所を探す。あの子はどこのクラスだっけ。
適当に全ての教室を覗きに行こうとするが、教室を覗きに行くと少なからず注目されてしまう。
「あれ? 陰狼さん。なにしてるんです?」
よ、よかった……。
「ぅ……あ、あなたのこと……探して……ました……」
その子は顔もちゃんとあるし、周りから変な音も聞こえてこない。
「ふふ、なんの御用ですか?」
「あぅ……え……えっと……な……名前を……教えて欲しくて……」
シーンとした。
周りは騒がしいけれど。
「あ〜…………えっと……私、文恋明日っていいます。いや、うん、仕方ないですよね。あんな自己紹介じゃ……」
「いや……あの……ごめんなさい…………」
…………。
…………気まずい。
「……あと……その……連絡先も……交換したくて…………」
「ぜひ!!」
顔を目前に突き出してくる。
コノヒトコワイ……。
「……じゃあ……」
「ふふ、これでまず一歩、お友達ですね!」
―・―・―・―・―・―・―・―・―
一昨日、私は生まれて初めての友達が出来た。
しかしせっかくの週末はおばあちゃん家に連れて行かれていた。
私の両親はなにを考えて旅行から帰った次の日にこんなド田舎に来たがるのやら。
ところで、私は死ぬほどホラーが苦手なのだが、それは親戚、いとこの兄ちゃんのせいだ。
会うたびに怖い話を吹き込んできやがるから私はここに来たくない。
超絶古臭い木製の家が田んぼだらけの村にあるだけで電波がちょー弱くWi−Fiなんか設置されていないというスマホ中毒にはキツイ環境だし。
「楠眠ちゃんお待ちかねの怪談タイムだ! 今日は兄ちゃんが昨日ばあちゃんから聞いたばっかりの聞きたてほやほや、この辺りに伝わってる怪談を聞かせてやるよ」
また始まった……。
もしかしたら私がこんなド陰キャになったのはこんな話を聞かせてくるスカ兄ちゃん、本名望月飛鳥のせいかもしれない。ただの責任転嫁である。
この性悪兄ちゃんは顔だけ見ればそれなりに良さげなくせに人が嫌うものを嬉々として話すってほんともったいないっていうか一回地獄で性根叩き直してほしいっていうか……。
「江戸時代の末にな、この村に住んでいた独り身の女性がいたらしい。その女性が川に洗濯しに行ったんだと」
桃太郎か。
「それでだな、その女性は体調を崩してしまい、その場にうずくまっていると、税を回収にやってきた幕府の馬車に轢かれてしまったんだと」
「……うるさい……」
薄着しすぎたということもないが、冷たい背筋を温めるために震えている明日ちゃんのプロフィール画面を見る。
「お、いいね、怖くなってきたでしょ。普通の馬車ならそんなことはないが、米俵の重さで腹から真っ二つになっちまったんだと」
ゴトッという音を立ててスマホが私の手から逃げ出した。
も……もう……逃げないでよ……。
「そんで、下半身は川に流されてしまったが、その女性は何故か生きていたんだ。その女性は自分を轢いて逃げた幕府の遣いを上半身だけで追いかけ出したんだと」
…………お腹痛い……。ゾワゾワする……。
「そしてその女性はその馬車に追いつき、遣いの下半身を奪ったんだとよ。でも、他人の身体だから合わなくて別の人を襲うようになったんだってさ」
私の足も……奪われちゃう……?
大切な足を抱きしめて横に倒れる。
「だーっはっはっは! どーだ今日のは! 怖かっただろ〜?」
「……バカ」
開放感ある開かれたガラス障子の向こうに見える田んぼが歪んで見えた。
「ま、平たく言えばテケテケだよな。二番煎じのオリジナリティない怪談さ。そんな怖がることないだろ〜?」
スカ兄ちゃんは何様なのか、私の前髪に少し触れてから頭をぐしぐし撫でてくる。
「撫でんな。バカ。アホ。死ね。叔母さんのおなかの中からやり直せ」
「ひっでぇ。大丈夫だっつの、所詮怪談だぜ? そもそも身体がちぎれて生きてるなんてあり得ないって。それにいくら米俵を積んでようが身体がちぎれるわけないっしょ」
そうだ、私にはもう友達がいるんだ。正直超常と共に育ってきた明日ちゃんに聞いてもいい答えが返ってくるとは思えないけど、とにかくテケテケなんかいないって否定してもらいたい。
逃げ出したままのスマホを回収して明日ちゃんとのトーク画面を開く。
…………。
なんて打てばいいんだろう。
…………。
『テケテケって本当にいると思いますか?』
結局当たり障りのない、そして突拍子もない内容になった。
三秒と待たずに返信が来る。ずっとスマホの前で待ち構えてたのかな。
『どうでしょう』
『私は呼んだことありませんけど、いるかもしれませんね』
否定してよぉ……。
勝手に画面を覗き込んで、私が親や親戚以外とメッセージを送りあっていることに衝撃を受けているスカ兄ちゃんを蹴って遠ざけながら文字を打ち込んだ。
『いないよ』
『いないでしょ?』
『きっといないって』
いないと思ってるならそもそも聞くなよ、というのは私が一番思っている。
『じゃあいるかもしれませんね』
『陰狼さんが怯える姿をどこかで見ているかもしれませんよ』
ふざけんな……。
スマホの前でニヤニヤしている姿が見える。
『下半身奪われちゃえ』
味方なんかいなかった……。
『膝枕できなくなっちゃいますよ』
『それは困る』
『結婚しましょう』
文脈という言葉を知らないらしい明日ちゃんはもはやカップルもすっ飛ばすつもりらしい。
…………。
……なんて答えるべきだ?
『すみません、いきなりすぎましたね』
『あなたが私の想いを受け取る勇気が出たら、その時は』
明日ちゃんの感情、だいぶ揺れてる。なにかしら出てこないといいけど……っていうか出てくんな!
今何時…………
「……八時ぃ!?」
珍しく早寝したのに……。
いっそ休んでしまおうかと思ったが、私は今日初めての友達を作らなくちゃならない。
制服に身をつつみ、部屋を飛び出して階段を駆け下りる。
キッチンに置いてあるバターロールを適当に掴んでそのまま家を出た。
うぅぅ……間に合えぇ……。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
廊下の窓から見える景色は綺麗な街並みだった。
昼放課、購買にパンを買いに行く前にあの子がいる場所を探す。あの子はどこのクラスだっけ。
適当に全ての教室を覗きに行こうとするが、教室を覗きに行くと少なからず注目されてしまう。
「あれ? 陰狼さん。なにしてるんです?」
よ、よかった……。
「ぅ……あ、あなたのこと……探して……ました……」
その子は顔もちゃんとあるし、周りから変な音も聞こえてこない。
「ふふ、なんの御用ですか?」
「あぅ……え……えっと……な……名前を……教えて欲しくて……」
シーンとした。
周りは騒がしいけれど。
「あ〜…………えっと……私、文恋明日っていいます。いや、うん、仕方ないですよね。あんな自己紹介じゃ……」
「いや……あの……ごめんなさい…………」
…………。
…………気まずい。
「……あと……その……連絡先も……交換したくて…………」
「ぜひ!!」
顔を目前に突き出してくる。
コノヒトコワイ……。
「……じゃあ……」
「ふふ、これでまず一歩、お友達ですね!」
―・―・―・―・―・―・―・―・―
一昨日、私は生まれて初めての友達が出来た。
しかしせっかくの週末はおばあちゃん家に連れて行かれていた。
私の両親はなにを考えて旅行から帰った次の日にこんなド田舎に来たがるのやら。
ところで、私は死ぬほどホラーが苦手なのだが、それは親戚、いとこの兄ちゃんのせいだ。
会うたびに怖い話を吹き込んできやがるから私はここに来たくない。
超絶古臭い木製の家が田んぼだらけの村にあるだけで電波がちょー弱くWi−Fiなんか設置されていないというスマホ中毒にはキツイ環境だし。
「楠眠ちゃんお待ちかねの怪談タイムだ! 今日は兄ちゃんが昨日ばあちゃんから聞いたばっかりの聞きたてほやほや、この辺りに伝わってる怪談を聞かせてやるよ」
また始まった……。
もしかしたら私がこんなド陰キャになったのはこんな話を聞かせてくるスカ兄ちゃん、本名望月飛鳥のせいかもしれない。ただの責任転嫁である。
この性悪兄ちゃんは顔だけ見ればそれなりに良さげなくせに人が嫌うものを嬉々として話すってほんともったいないっていうか一回地獄で性根叩き直してほしいっていうか……。
「江戸時代の末にな、この村に住んでいた独り身の女性がいたらしい。その女性が川に洗濯しに行ったんだと」
桃太郎か。
「それでだな、その女性は体調を崩してしまい、その場にうずくまっていると、税を回収にやってきた幕府の馬車に轢かれてしまったんだと」
「……うるさい……」
薄着しすぎたということもないが、冷たい背筋を温めるために震えている明日ちゃんのプロフィール画面を見る。
「お、いいね、怖くなってきたでしょ。普通の馬車ならそんなことはないが、米俵の重さで腹から真っ二つになっちまったんだと」
ゴトッという音を立ててスマホが私の手から逃げ出した。
も……もう……逃げないでよ……。
「そんで、下半身は川に流されてしまったが、その女性は何故か生きていたんだ。その女性は自分を轢いて逃げた幕府の遣いを上半身だけで追いかけ出したんだと」
…………お腹痛い……。ゾワゾワする……。
「そしてその女性はその馬車に追いつき、遣いの下半身を奪ったんだとよ。でも、他人の身体だから合わなくて別の人を襲うようになったんだってさ」
私の足も……奪われちゃう……?
大切な足を抱きしめて横に倒れる。
「だーっはっはっは! どーだ今日のは! 怖かっただろ〜?」
「……バカ」
開放感ある開かれたガラス障子の向こうに見える田んぼが歪んで見えた。
「ま、平たく言えばテケテケだよな。二番煎じのオリジナリティない怪談さ。そんな怖がることないだろ〜?」
スカ兄ちゃんは何様なのか、私の前髪に少し触れてから頭をぐしぐし撫でてくる。
「撫でんな。バカ。アホ。死ね。叔母さんのおなかの中からやり直せ」
「ひっでぇ。大丈夫だっつの、所詮怪談だぜ? そもそも身体がちぎれて生きてるなんてあり得ないって。それにいくら米俵を積んでようが身体がちぎれるわけないっしょ」
そうだ、私にはもう友達がいるんだ。正直超常と共に育ってきた明日ちゃんに聞いてもいい答えが返ってくるとは思えないけど、とにかくテケテケなんかいないって否定してもらいたい。
逃げ出したままのスマホを回収して明日ちゃんとのトーク画面を開く。
…………。
なんて打てばいいんだろう。
…………。
『テケテケって本当にいると思いますか?』
結局当たり障りのない、そして突拍子もない内容になった。
三秒と待たずに返信が来る。ずっとスマホの前で待ち構えてたのかな。
『どうでしょう』
『私は呼んだことありませんけど、いるかもしれませんね』
否定してよぉ……。
勝手に画面を覗き込んで、私が親や親戚以外とメッセージを送りあっていることに衝撃を受けているスカ兄ちゃんを蹴って遠ざけながら文字を打ち込んだ。
『いないよ』
『いないでしょ?』
『きっといないって』
いないと思ってるならそもそも聞くなよ、というのは私が一番思っている。
『じゃあいるかもしれませんね』
『陰狼さんが怯える姿をどこかで見ているかもしれませんよ』
ふざけんな……。
スマホの前でニヤニヤしている姿が見える。
『下半身奪われちゃえ』
味方なんかいなかった……。
『膝枕できなくなっちゃいますよ』
『それは困る』
『結婚しましょう』
文脈という言葉を知らないらしい明日ちゃんはもはやカップルもすっ飛ばすつもりらしい。
…………。
……なんて答えるべきだ?
『すみません、いきなりすぎましたね』
『あなたが私の想いを受け取る勇気が出たら、その時は』
明日ちゃんの感情、だいぶ揺れてる。なにかしら出てこないといいけど……っていうか出てくんな!


