今後の人生、もう出てくることはないであろう勇気を振り絞る。
「……じゃあ……あなたの、本当を聞かせて。あなたがその体質で送らされた、その人生を」
初めて家族以外の人を抱きしめた。
甘いのかもしれない。
きっと、距離をとって二度と会わず、この子にはこれからも感情を抑えて生きてもらうのが、私にとって一番安全で安定だろう。
そもそもこの子の言っていることが本当である確証はどこにあるというのか。
「…………ぁ…………」
でも、私には分かる。
人に歩み寄ったことがないからこそ、分かることだ。
この子の奥にある、深い闇を明るく照らすのはきっと、私にしかできない。
「あなたも……ちゃんと人間なんだよね。あなたにも、しっかり人生があるんだよね。だから、好きとか嫌いとか……私が、あなたを知った後にしようよ」
ぎこちない私の腕に抱かれたその子には、まくしたてるように私への愛を語っていた頃の面影はもうない。
もう玄関扉がガチャガチャ言うようなこともなく、子供のような嗚咽が聞こえるばかりだった。
とはいえ、人に、そして自分のことを好きと言ってくる相手を抱きしめているこの状況は、中々、恥ずかしい。
「……ほ、ほら、ね? 私はあなたを知りたいよ。自分の魅力をアピールするチャンスだよ? だから、泣いてないであなたのことを教えてってば」
「……う、うっ……ううぅ……。……私……今、とっても……幸せですぅ……!」
髪からなんかいい匂いがする。あったかい。
こんなかわいい子を私なんかが抱きしめてるって……すっごく悲しくなってくる。私にもこのくらいの美貌をください……。
………あ……そういえば……私今すごく汗臭いんじゃ……。今すぐ離れなきゃ……。
「あっあの……ちょっと……離れ……て……ください……」
「うぇっ……あぅ……やっぱり……私なんかと触れ合いたくないですよね……うぅ……っ……んぐっ……ぐすっ……」
メンヘラか。
「いや、そんなんじゃ……。……っと、とにかく、そろそろ、あなたの話を……」
「あっ……そっ、そうでずよね……。…………えっと……なにから話せば……」
いつの間にか私の方が抱きしめられて捕らわれていたが、その子はようやく離れて礼儀正しく正座した。
自分の身体の匂いを嗅いで見るが、その子のいい匂いで上書きされているようだった。
朝学校行く前に抱きしめれば香水とか要らないじゃん。香水と違って匂いがキツくないし。
「えと……私、生まれたときから……っていうか、物心ついたときからずっとこの体質なんです。まぁ私にとって怪異の類は友達でしたから、保育園で私が呼び出した怪異で人を傷つけるまでは別に感情のセーブなんかしてませんでした」
「ちなみに、保育園でっていうのはどんな……?」
なんで聞いちゃうんだ私……魔法の類か?
「ふふ、ホラーが苦手なのに、聞くんですか? まぁ、大雑把に言えば、死者2名、怪我人3名ですね」
「あっ……」
ダメだ。やっぱり……追い返すべきだった。
「ふふっ、ジョーダンですよ! ……って、明るく言えるほど冗談でもないんですけど……ね……」
こういう冗談を言う人とは体質以前に距離を置くべきな気がしないでもない。
「ポルターガイストってあるでしょう? 窓ガラスに血の手形がついたりとかも。入園して初めてのお遊戯会のときですね〜……。そこら辺のメジャーなものがまとめて出たんです」
がんばって、明るく努めようとしているんだろう。
目が疲れていた。
「それが、ある一人にトラウマを植え付けてしまったんですよ……。あとで先生に聞いたんですが、前々から声が聞こえる、とか親や先生に相談していたそうです。……その時は、保育園に入園したばかりのストレスから来る幻覚幻聴……ってことになったそうですけど……あれは私が……あの子の人生を狂わせてしまったんです……」
また泣き出しそうな、震えた唇はそれでも美しさを失っていない。
「それからの人生は…………なーんにも覚えてないですね!」
その子は目を伏せた。
「…………もう一回抱きしめてもいいですか……?」
「……体質?」
「……そろそろ」
…………まぁ、妖怪が出てくるよりマシか……。
二度目のハグはまだ嬉しい。妖怪さえ呼ばなければ、この子はかわいいしいい匂いするしあったかいしぜひともお友達になりたい。
「……ハグすると、おさまるの?」
「……不思議ですよね……。私、陰狼さんとこんな近くにいるのに……ドキドキよりも、落ち着きが勝つんです……。感情が沸き立って今にも爆発しそうなのに……落ち着く……。……やっぱり私、陰狼さんのことが好きです」
だから好き嫌いは後だっての……。
「……すみません、ありがとうございます」
私が離れると、その子の真っ赤な顔がしっかり見える。
「……えっと……本当に陰狼さんを見つけるまでなにをしたかはなにも覚えてないんですけど……見つけてからは、ずっと陰狼さんのことを考えてましたよ。私には怪異という最強の味方たちがいますからね、あなたのことはよく知れました。そして、知れば知るほどあなたのダメ人間ぶりが見えてきたんですよ。毎日あなたへの愛が増えました……」
本当に、顔と言っていることは恋する乙女そのものだ。
「メリーさんは……。……あの、今から言うこと、本当に……怒らないでほしいんですけど……私……妖怪を使ってあなたの部屋をずっと覗いてたんです……」
「は…………?(ぽかーん)」
……
…………
変態だっっっ!!
「……じゃあ……あなたの、本当を聞かせて。あなたがその体質で送らされた、その人生を」
初めて家族以外の人を抱きしめた。
甘いのかもしれない。
きっと、距離をとって二度と会わず、この子にはこれからも感情を抑えて生きてもらうのが、私にとって一番安全で安定だろう。
そもそもこの子の言っていることが本当である確証はどこにあるというのか。
「…………ぁ…………」
でも、私には分かる。
人に歩み寄ったことがないからこそ、分かることだ。
この子の奥にある、深い闇を明るく照らすのはきっと、私にしかできない。
「あなたも……ちゃんと人間なんだよね。あなたにも、しっかり人生があるんだよね。だから、好きとか嫌いとか……私が、あなたを知った後にしようよ」
ぎこちない私の腕に抱かれたその子には、まくしたてるように私への愛を語っていた頃の面影はもうない。
もう玄関扉がガチャガチャ言うようなこともなく、子供のような嗚咽が聞こえるばかりだった。
とはいえ、人に、そして自分のことを好きと言ってくる相手を抱きしめているこの状況は、中々、恥ずかしい。
「……ほ、ほら、ね? 私はあなたを知りたいよ。自分の魅力をアピールするチャンスだよ? だから、泣いてないであなたのことを教えてってば」
「……う、うっ……ううぅ……。……私……今、とっても……幸せですぅ……!」
髪からなんかいい匂いがする。あったかい。
こんなかわいい子を私なんかが抱きしめてるって……すっごく悲しくなってくる。私にもこのくらいの美貌をください……。
………あ……そういえば……私今すごく汗臭いんじゃ……。今すぐ離れなきゃ……。
「あっあの……ちょっと……離れ……て……ください……」
「うぇっ……あぅ……やっぱり……私なんかと触れ合いたくないですよね……うぅ……っ……んぐっ……ぐすっ……」
メンヘラか。
「いや、そんなんじゃ……。……っと、とにかく、そろそろ、あなたの話を……」
「あっ……そっ、そうでずよね……。…………えっと……なにから話せば……」
いつの間にか私の方が抱きしめられて捕らわれていたが、その子はようやく離れて礼儀正しく正座した。
自分の身体の匂いを嗅いで見るが、その子のいい匂いで上書きされているようだった。
朝学校行く前に抱きしめれば香水とか要らないじゃん。香水と違って匂いがキツくないし。
「えと……私、生まれたときから……っていうか、物心ついたときからずっとこの体質なんです。まぁ私にとって怪異の類は友達でしたから、保育園で私が呼び出した怪異で人を傷つけるまでは別に感情のセーブなんかしてませんでした」
「ちなみに、保育園でっていうのはどんな……?」
なんで聞いちゃうんだ私……魔法の類か?
「ふふ、ホラーが苦手なのに、聞くんですか? まぁ、大雑把に言えば、死者2名、怪我人3名ですね」
「あっ……」
ダメだ。やっぱり……追い返すべきだった。
「ふふっ、ジョーダンですよ! ……って、明るく言えるほど冗談でもないんですけど……ね……」
こういう冗談を言う人とは体質以前に距離を置くべきな気がしないでもない。
「ポルターガイストってあるでしょう? 窓ガラスに血の手形がついたりとかも。入園して初めてのお遊戯会のときですね〜……。そこら辺のメジャーなものがまとめて出たんです」
がんばって、明るく努めようとしているんだろう。
目が疲れていた。
「それが、ある一人にトラウマを植え付けてしまったんですよ……。あとで先生に聞いたんですが、前々から声が聞こえる、とか親や先生に相談していたそうです。……その時は、保育園に入園したばかりのストレスから来る幻覚幻聴……ってことになったそうですけど……あれは私が……あの子の人生を狂わせてしまったんです……」
また泣き出しそうな、震えた唇はそれでも美しさを失っていない。
「それからの人生は…………なーんにも覚えてないですね!」
その子は目を伏せた。
「…………もう一回抱きしめてもいいですか……?」
「……体質?」
「……そろそろ」
…………まぁ、妖怪が出てくるよりマシか……。
二度目のハグはまだ嬉しい。妖怪さえ呼ばなければ、この子はかわいいしいい匂いするしあったかいしぜひともお友達になりたい。
「……ハグすると、おさまるの?」
「……不思議ですよね……。私、陰狼さんとこんな近くにいるのに……ドキドキよりも、落ち着きが勝つんです……。感情が沸き立って今にも爆発しそうなのに……落ち着く……。……やっぱり私、陰狼さんのことが好きです」
だから好き嫌いは後だっての……。
「……すみません、ありがとうございます」
私が離れると、その子の真っ赤な顔がしっかり見える。
「……えっと……本当に陰狼さんを見つけるまでなにをしたかはなにも覚えてないんですけど……見つけてからは、ずっと陰狼さんのことを考えてましたよ。私には怪異という最強の味方たちがいますからね、あなたのことはよく知れました。そして、知れば知るほどあなたのダメ人間ぶりが見えてきたんですよ。毎日あなたへの愛が増えました……」
本当に、顔と言っていることは恋する乙女そのものだ。
「メリーさんは……。……あの、今から言うこと、本当に……怒らないでほしいんですけど……私……妖怪を使ってあなたの部屋をずっと覗いてたんです……」
「は…………?(ぽかーん)」
……
…………
変態だっっっ!!


