私の彼女は怪異を連れて…………

 スマホを取り出して、会場に繋がっているはずだった道の塀をズームで撮影する。
 左を向いてどこかにつながっていた可能性のある道を撮影する。後ろの塀も同様に撮影して、財布からいつのものかも分からない色の抜けたレシートに重石をのせて置いておき、さっき戻ってきた道を再び進む。
 角になるたびに塀を撮影して、左、左、左、ともし仮にロの字状に道ができているとしたらさっきレシートを置いたその場所に戻ってきた。
「……ある……。本当はどこかの塀がないはずなんだ」
 その場にうずくまって撮った写真を一枚ずつ確認していく。
 そのどれにも違和感はなかった。
「う〜〜む……。そもそもこれは、妖怪なのかな……どうせ明日ちゃんだよなぁ……」
 ここにずっといて大丈夫なのか? 実はここが妖怪の胃袋で……ってことはない?
 マイナス思考になっていても仕方がない。
 写真を撮りながら、2周目に入る。
 角のたびに写真を撮るのを今度は2周まとめてやってみた。
 スマホの画像フォルダを漁りながら、歩を緩めて頭をかく。
「なんだよぅ……。他にできることって言ったら……全速力で走ったら道が出てくるとかないかな……。それか何周かしたら出てくるとか……」
 意味も分からず道を歩いて囚われのロの字をぐるぐる回る。
 7周目に辿り着いてようやく何周目か目印を作るべきだと気が付いてレシートの横に石を6つ置いた。これで重石と合わせて7つ。
「……はぁ……私……もうここから出られないのかな……」
 足の疲れを癒すために、寝っ転がって塀の写真を眺めた。
「うぅ〜……なにをしろってんだ……」
 明日ちゃんがもう帰ってるとしたら、きっと連絡が来るだろう。明日ちゃんは寂しんぼだから。
 それがないってことは明日ちゃんはまだどこかでなにかをやっているんだろう。さすがに邪魔はできない。
 起き上がって再び歩き出す。
 石の塀はデザインとしての穴は一切なく、当然事故や風化による穴もない。ジャンプをしても奥は見えず、今私がどこにいるのかも分からなかった。
「……なんなんだよぅ……寂しいよぅ……」
 世界が私一人でないということは、踏み切りの音が証明してくれている。
 それでも尚、隣に誰かが居てくれないことを苦しいと思ってしまった。
 さっきの場所に戻ってくる。
 目を閉じて深く息を吸った。
「一人でなんとかするって決めたんだろ、私」
 もう一度、周りを注意深く見渡しながら、ロの字を辿っていく。
 二度左折した箇所に、家があるが、草が生い茂っていてとても人が住んでいるようには見えない。不法侵入にならないものかとビクビクしながら足を踏み入れてみると、玄関の扉に『空き物件』の看板がかけられていた。
 しかし、それさえも朽ちていて、もはや不動産も売る気がないんじゃなかろうか。大通りの反対側にしか入口がないような欠陥ものだし仕方ない。
 そもそも私が囚われているのとこの家には関係があるはずもないか。どうせ明日ちゃんの妖怪だし。
 元の場所に戻りながら、再びまじまじと写真を見つめた。
 この写真は、今いるところの塀。
 見比べてみたら、どうだろうか。
 ふとそう思い至って、手に持ったスマホと塀を横に並べてみた。
「……なっ……」
 『写真の中の塀が消えていた』。
 奥に大通りが写っている。
「なんで……?」
 一応ほかの写真も並べて見てみた。するとやはり、写真の塀が消えて奥に続く道や民家が見えるようになる。
 どういうことだよ……。
「……。あっ!」
 そういうことかっ!
 塀から視線を外して、写真フォルダの一覧表を見てみる。私が撮った小さな塀の写真がズラっと並んでいるが、なんと、『一番最初に撮った一枚以外全て塀が消えていた』。

「やっぱり……!! 写真含めて、どこか一つにしか現れないんだ!!」

 目の前の塀に触れてみると、普通の塀と同じ感触がするが、これはきっとぬりかべ的なやつなんだ。
 パッと後ろを向く。会場に続いているはずの道は塀に閉ざされている。
 こんな子供騙しが通じるとは思わないが、後ろを向くふりをしてもう一度会場側の塀を見てみるが、さすがに期待したような結果は得られなかった。一瞬消えたりしたら明確にできたんだけど。
 暗くなって見えづらくなる会場側の塀を見据えながら、スマホを人生で初めてインカメにして後ろの塀を見てみる。そこには確かに、帰宅ラッシュの大通りが見えた。
「っ……やっっっっ……たぁ…………っ!」
 身を縮めて小さくガッツポーズをする。そんな声が漏れてしまうのも、仕方がないだろう。1時間ほど四苦八苦していたのだから。
 車がリアカメラを見ながらバックするように、インカメを見ながら後ろに下がっていく。
 私が歩道に出たところで、会場側の塀が消え去った。当然インカメには車道のみが写っている。
「ーーーーっ」
 声にならない声が私から漏れる。同時に、
「あれ、陰狼さんじゃないですか、何してるんです?」
 左耳を貫いたその声は、私の疲れ切った脳みそを優しくほぐし、血液を透明にする身体のはたらきを活発にさせた。
「……っ」
 明日ちゃんに思わず飛びついてしまった。