私の彼女は怪異を連れて…………

 混ざりきっていないカフェラテのようなカラーリングの髪を思い出していると、ゾッと背筋が冷たくなるような寒気が私を襲った傍らで、実は雑食だったのか、あんなに怖い思いをさせられたのにも関わらず初めての告白に喜びも感じていた。
「くっすっみーんっ!! ばいばいっ!」
「ひっ!?」
 いきなり加えられた肩への衝撃に思わず声を上げる。
 黒髪黒目、秀麗な顔立ち……普通の人間。いつもの陽キャグループのリーダー……。
 名前は……滝沢ナントカ…………人の名前を覚えられないから私はいつまで経っても陰キャなんだ……。
「どーしたのそんな驚いてさーぁ? また明日ね、くすみん!」
「あ、ぁ、ぅ、ま、また……」
 陽キャ、と言っても、嫌味な感じがしないから滝沢ナントカは好き。かといって普通に話すことができるかは別である。
 滝沢ナントカは教室を飛び出ると、いつものメンバーを四人引き連れ、大仰な動きをつけて階段に走っていった。
 その時、プルルルル、と携帯が着信を告げる。
 自分でも簡素すぎると思うほど飾りっ気のない携帯を取り出すと、液晶には『非通知設定』と表示されていた。
 …………詐欺? いやいや、あんな怖い思いしたあとに詐欺にあうなんてこと……ないでしょ……。
 応答ボタンを押した。
「はっはいぃ……」
 …………
「……もしもしぃ……?」
 …………
「あっあのぉ…………」
「…………あたし……メリーさん……」
 スマホから発せられた幼子のような声には、思わず誰もいない教室で呆けて固まってしまうことも致し方ないことだと思う。
「今……ゴミ捨て場にいるの…………」
 なんで……なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで………………。
 通話の切れたスマホを手からこぼすと、自らの身体も崩れてしまった。
 私は人形なんか捨ててない。どころか最近ティッシュ以外のゴミを出してすらいない……。だって家にほかってるから……。
 それにそれに、メリーさん的な人形は小二で卒業してフィギュアに変わった。しかもその人形も多分どこかに置いてある……。
 絶対おかしい。私がメリーさんに狙われる筋合いは到底ないはず……なのに……なんでぇ……。
 いつの間にか涙まで流れていた。
「…………逃げなきゃ……」
 ゴミ捨て場っていうのがどこかは分からない。
 でも、とにかく逃げなくちゃいけない。
 とりあえず家に帰ろう……帰らなくちゃ……。
「なんで私がっ…………」
 カバンを引っ掛け、滝沢ナントカと同じように教室を飛び出たところで、ふと思い出し、二つの事象を結びつけた。
 きっとあの子だ。
 きっと、あの子がこのメリーさんを呼び出して、私に怖い思いをさせようとしてるんだ。
 流れ出す涙の味が、恐れから少し変わった気がした。
 急いで靴を取り出し、適当に上履きを下駄箱に突っ込んで勢いよく閉めると跳ね返って開きっぱなしになってしまったが、それを直す心の余裕など到底存在せず、扉が動きを止めた頃には校門までの果てしなく感じる道を全力疾走していた。
 メリーさんなどという科学とは遠く離れたファンタジーな現象に巻き込まれた現在でも物理法則は仕事をこなしているようで涙が横に流れるようなことはなかった。
 幸いなことに私の家は学校の間に踏み切りが一つしかないほどに近い――――だが、
「…………うっあぁっ……そうだった……」
 だが、今日は両親が家にいなかった。
 いつもなら最高の一日になるというのに、親というものはなぜいてほしいときにいないのだろうか。
 恐怖が逆に冷静にさせた思考回路は、素早く、そして確実にマイナスな方面へ向かっていく。
 そんな私へ追い打ちをかけるように、ポケットが震える。
「ああああああぁぁっ!!」
 言語化できなかった。そもそもなにを言葉にしたかったのかも分からない。
 もつれそうな足をそのままに、震える手でスマホを取り出す。
 もしかしたら、誰かとても頼りになる人の連絡かもしれない。私をこの恐怖から救ってくれるに違いない。
 表面上はそう考えながらも、思考の中身は現実主義で、そもそも今この状況で頼りになる人など私の連絡先の中にそんな人がいるはずがなく、そして実際に、その相手はさっき見た非通知設定だった。
「あぁっあああっ!!」
「……あたし……メリーさん……」
「…………っ!?」
 なんでなんでなんでっ!! 私は応答ボタンなんて押してないっ!
「今……校門の前にいるの……(プツッツーツーツー)」
 切ってもないっ!!
「あわっ」
 恐怖に締め付けられた足の筋肉は、それ以上の走りを不可能だと告げてきた。

 カーン カーン カーン カーン

「ハッ、踏み切り!」
 家までの道はほとんど一直線だ。だから道を見ずに走ったが、もう踏み切りまで来ていた!
 踏み切りを越して一度曲がればもう家……メリーさんは家の扉を全部閉めれば大丈夫だと聞いたことがある。
 あの子の呼び出したメリーさんが都市伝説に則しているならば、きっとそれはこのメリーさんにも有効なはず。
 っていうかどうせ呼び出すならかわいい二次創作メリーさんにして欲しかった……。
 我が家が近付いている安心感からか、心が落ち着いてきた……歩いて行けば、きっと、きっと大丈夫。
 踏み切りの音とランプの点滅が微妙にズレていることにいつも通り気持ち悪さを覚えながら、メリーさんの対処法を検索する。

 …………シュークリームを渡す……?