私の彼女は怪異を連れて…………

「……起きてる?」
 何呼吸か置いた後、布団がこすれる音とともに明日ちゃんが上半身を起こした。
「なんですか」
 目をこするでもなく、ただ私を見つめる。
「私はさ……明日ちゃんも知っての通り、友達がいないんだよ。中二の頃から、友達がほしいとも思わなくなった。友達なんて要らないとかじゃなくて、友達がいない今をなんとも思わなくなったの。寂しいって感情がなくなった。強がりとか粋がりとかじゃなくて、本当になんとも思わなくなったんだよ、中二で」
 薄い布をかぶりながら、動くことなく言う。
 明日ちゃんはなにも言わずに聞いてくれた。
「それから、三年くらい……ゲームだけがお友達の生活をしてた。そんなときに、何故か私宛にラブレターが来たんだよ。結構嬉しかったよ? 明日ちゃんだったからっていう訳じゃないけど。まぁ私が普通の生活をしてたんなら、女子校だしこんな人間だし、イタズラだと思ったんだろうけど、なんてったって友達がいないからそんなイタズラしてくれる人もいないの。だから、あのとき嬉しかったのはそういう話」
 明日ちゃんはサイレントでしゅんとする。
「明日ちゃんの告白は、イタズラ? それとも本当?」
「いっ、いたずらなわけないじゃないですかぁ……。めっっっちゃ緊張したんですよ?」
 声を裏返して否定しながら、ジト目で自分の気持ちをぶつけてくる。
 身体が熱くなってきたのに何故か布をさらに深く被りながら、
「……まぁ、一旦置いといて……。明日ちゃんから告白されたとき、怖かったのはもちろんだけど、少しだけシンパシーみたいなものを感じたんだ。明日ちゃんが言ってた体質が本当なら、私と一緒で友達いないんじゃないかって。私にしちゃ珍しくね……なんか……一人にさせたくない……って……思っ……ちゃっ……た」
 壁を見つめながら、自分の背後に話しかける。
「まっ、まぁ? まさかメリーさんだとかテケテケだとかって話になるとは思わなかったけど? もうちょっと普通のお友達らしい関係になると思ったけど?」
「…………なにが言いたいんですか」
 ベッドに腕を乗せて顔を覗き込もうとしてくる。
「明日ちゃんは強引で過激な変態ってことっ!!」
 ベッドから逃げ出して、部屋の電気を付けた。
 顔だけ後ろを向いて、
「……もう、寝れないから。ゲームするでしょ」
 眩しそうな明日ちゃんはとびっきりの笑顔を見せながら、
「はいっ!」

 ―・―・―・―・―・―・―・―・―

「ふはははははは!! 雑魚っ!! 弱すぎるよ明日ちゃんっ!!」
 威勢良く答えた明日ちゃんが一度もやったことがないというス◯ブラに誘い込んで人生初の対戦相手が隣にいるゲームを実現させた。
「大人げない……。性格悪いですね」
「いやあ楽しいなぁ。愉快すぎる……へっへっへ」
 今まで誰にだって見せたことがない本性をあらわにした私に対して不満げな顔で頬を膨らませていた。かわいいね。
「ぶーぶー、自分の土俵に持ち込むなんてズルいですよー」
 可愛い子を不機嫌にさせることに愉悦を感じてゾーンに入っている私はお腹辺りを狙った明日ちゃんのツンツン攻撃の全てに指先をぴったり合わせることができた。
「にひひ。早く明日ちゃんもこのレベルに登ってくることだね。次行こ次」
「うへぇ〜……ご褒美くれたらいいですよ」
「勝ったらね」

 ―・―・―・―・―・―・―・―・―

 結局日が昇るまでス◯ブラを続けることはできずに様々なゲームに手を出しては初心者狩りをしていた。
「うぇへえぇぇ〜〜〜ん……いやだ……もうやだ……」
 完全にしなびてしまった明日ちゃんは昨日のように照れることもなく私にしがみつく。
「ちょ……そんなべたべたしないでよ……」
「えぇ〜ん……」
 右腕をぎちぎち言わせながら、明日ちゃんは泣き真似を続ける。
 柔らかいなぁ……。
「もっ……もうっ……だ、だめだってば。ちょっとぉ……」
 ち、力が強い……。
「んぐぐ……離してよ……」
 私は明日ちゃんを煽りに煽った。→明日ちゃんに嫌われた。→明日ちゃんは嫌いな人から煽られる。→恨む。→殺す。
 こ、こんな矢印が成立してるんじゃないだろうな……。寒気がする……。
「ぎゅーしてくださいよぉ……。労いのぎゅー……」
「しんわっ!!」
 だっ、誰がそんなスケベな……まだ出会ってから2週間くらいしか経ってないのに。
「神話ぁ……? そんなそーだいなこと言ってないですぅ……。ぎゅーしてほしいだけですぅ……」
 神話……?
 つややかな声でハグをねだる明日ちゃんにはついつい揺らいでしまいそうだが、そんなわけにはいかない。私たちは友達なんだ。
「だからしないって。やめてよぉ……」
 あれ? でも世間では友達とでもハグはするのか? いやでも、明日ちゃんは少なからずそういう気持ちもあるんだったらよくない? でもこれを断るということは私は意識していることになる? でもでもっ、邪な気持ちを抱いているのは明日ちゃんなわけで、それを受け入れてしまったらロクなことにならない?
 ぐるぐる回る思考に目が回りそうになっていると、
「とりゃっ」
「どひゃっ!?」
 隙をついた明日ちゃんが飛びついてきたせいで二人してすっ転んでしまった。
「えへへ……陰狼さんは……やっぱりかわいいですね……」
 私の胸に乗っかりながら、媚薬でも飲まされたんじゃないかと思うくらいうっとりした目で私の顔に近付いてきた。
「えぇっ!? だっ、だめっ、だめだめだめだめっ!?」
 明日ちゃんは、唇を薄く開いて目を閉じた