私の彼女は怪異を連れて…………

「楠眠ぃ〜〜!! ごはん〜〜!!」
 近年稀に見るカマチョムーブをかましてしまってバツが悪くなった私がなにもできずにいると、下からそんな声が聞こえてきた。
「……食べてく?」
 とっくに自動スリープで暗くなっていたテレビの前で未だにふわふわしている明日ちゃんに声をかける。
「っは、はいっ!?」
 ようやく現実に帰ってきた明日ちゃんがキョロキョロと周りを見渡した。
「いっ、今、な、なんて言いましたっ!?」
 さすがに赤みが引いた明日ちゃんは顔をぐいっと近づけてくる。
「だから、食べてくかなって」
「いいん、っですっかぁっ!!??」
 キラッキラな瞳が、長らく輝きを失っていた私の瞳を見つめた。
「いいよ。行こ」
「はぁいっ!」

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 ちょっとだけ偉い子ぶりたい私が全く切られていない一枚のほうれん草をむしゃむしゃ食ってると、明日ちゃんは輝いた瞳をあちこちに向けるのに忙しそうにしていた。
「明日ちゃん食べて食べて〜。もう今日は張り切っちゃったんだから」
 箸を持ちながら手を叩いて明日ちゃんを急かす。
「はいっ!!」
 チョー薄切りのローストビーフでご飯を包んで口の中に運ぶ。
「んん〜〜〜っ!! んまぃっ!」
 次から次へと口に運ぶ。喉に詰まりそうでこっちがヒヤヒヤする。
 ハンバーグが食べたいけれど、幻滅されないかな。食い意地張った馬鹿に見られないかな。
 切ってないほうれん草のおひたしをヤギの如く貪り食っていた。

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 結局あまり肉っ気のない食事を終えて、リビングのテレビの前に座り、二人でゲームを始めた。
「クラフトって面倒ですね。クリエイティブで十分な気がします」
「分かってないよ、サバイバルにはサバイバルの面白さがあるんだから」
「楠眠ぃ〜、お風呂〜」
 食器を食洗機に突っ込んでいくおかーさんが私を催促する。
「うぃ〜」
 適当に返事をしてゲームを続ける。
「明日ちゃん泊まってく〜?」
「いいんですかお母様っ!!」
 コントローラーを投げ出してカウンターからキッチンを覗き込む。
「いいよぉ〜」
「いいわけないだろっ!! バカなの? 二人ともバカなの? マトモなの私だけ!?」
 喜びの舞に身体を預けている明日ちゃんは、私の言葉に耳を貸さなかった。
 だ……ダメだ……。バカしかいない……。
「ほら早くお風呂〜」
 開いた口をふさぐために、お風呂へ逃げた。

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 明日ちゃんはまだリビングで舞っているだろうか。舞自体がおしとやかでもいきなり舞い始めるのはかなり怖い人でしかない。
「ふあぁぁぁ〜〜……」
 顔面にシャワーを浴びて、今日はなにもしていないのに何故か身体を支配している疲れを洗い流す。
「うるぶるる……がらがらぺっ」
 いい加減切らないと洗うのがめんどくさい長すぎる髪をシャワーで濡らしながらも、落ち着かない感覚を鎮めようとした。
 明日ちゃんがいる家でお風呂に入るのは落ち着かない。入ってきたりしそう。
 シャワーを止めたその時、コンコン、という音が後ろから聞こえた。
「入って……いいですよね……」
「ふあっ!?」
 いいわけがない。
 後ろを向くと、すりガラスの奥には本当に人影がある。
「だめっ……だめだめだめっ!?」
 さー、と、扉が開けられてしまった。
 反射的に身体の前面を隠す。
「もー裸なわけないじゃないですか〜」
「えっ?」
 首だけを後ろに向けてみる。
 こ、こいつ……自分だけ水着着てやがる……!
「ふつーに考えてそんな簡単に身体さらすわけないですし〜」
 軽快な言葉は、本当に愉快そうでそれは大変結構だが、とにかく、とにかく……
「や……見ないで……。わっ、私……は……裸……だから……」
「へ?」
 家の外を通る車の音が、無音の時間を作らなかった。
「ぶはぁっ!!」
 鼻血を吹きながら、勢いよく後ろ向きに倒れた。
 ばたっという音は、正直死んだんじゃないかと思うくらいだったが、滑って転びそうになりながら駆け寄ってみると、顔を真っ赤にしてぴくぴくしていて、どうやら気絶しているだけなようだ。
 せっかく綺麗な白い水着なのに、鼻血で汚れてしまっている。
 シミにならないうちに洗ってあげたいところではあるけれど、これを洗うとなると明日ちゃんの身体をまさぐるか身ぐるみ剥がすかしかない。あきらめよう。
「……自業自得だからね」
 せめてもの情けということで鼻血をティッシュで拭いておいて、脱衣所から追い出し鍵を閉めた。最初からこうしとけばよかった。

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「…………ホント……ありが、すみませんでした……」
 今なんつった。
 私の部屋に無理やりスペースを開けておかーさんが敷いた布団に正座する明日ちゃんを、ベッドの上であぐらをかいて見下ろした。
「もういいよ。でももうやんないでよ、ホント」
「…………ハイ」
 反省して縮こまっている明日ちゃんの頭を撫でて、部屋の電気を消した。
「寝るよ。明日ちゃんはお肌大事にしなきゃいけないでしょ」
「うぇ……ふへ……おやすみなさい……へへ……へへへ」
 気味の悪い笑みを浮かべながら、薄い布に身を包んだ。
 今更ながらベッドを譲るべきだっただろうか。
 自分の髪を撫でる明日ちゃんの後頭部を見つめながら、空虚な時間を過ごすのだった。

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 どれだけ見つめていただろうか。
 さすがに暇すぎた私が口を開く。
「……起きてる?」