私の彼女は怪異を連れて…………

 隣に天使と悪魔を混在させて生きている天使を座らせていると落ち着かないので、一心不乱に弁当を貪り食った。
 いつもより美味しく感じる。
 が、それで済ますわけにもいかない。厚焼き玉子を飲み込むと、深く息をついた。
「昨日……一昨日? えっと……こないだ、ありがとね」
 うまく笑えていた気がしない。
 私のことを眺めながら優雅に弁当をつついていた明日ちゃんを見ていたら、感謝の言葉の一つでも述べないと罪悪感で砂時計の砂にされてしまいそうだった。
「いえいえ。私はこうして陰狼さんとご飯を食べられて幸せです。まあでも、私のこと好きになってくれてもいいんですよ」
 くっ、まぶしいっ。
 新たに恒星として天体図鑑に載るのではないかと思うほどの眩い笑顔は、私が日に焼かれた吸血鬼の如く灰と化してしまうのに十分すぎた。
「は……はは……」
 うん、私頑張った。返事できた。
 明日ちゃんの笑顔が髪色に似つかわしいカフェラテのような笑顔に変わる。
「さみしいですね〜……。彼にしてたみたいにツッコんでほしかったんですけど」
「うぅ……。陰キャにそれを期待するのは酷……」
 私の満足は規模の小さいものだったんだ。惨め。

 ぱちんっ

 いきなり鳴った破裂音のような音に猫のような反応をしてしまう。
「夏休み、一緒にプール行きましょう!」
 思いっきり顔をしかめた。
 いかにエンジェルスマイルを向けられようが、明日ちゃんが言っていることを理解するのはナントカの定理を解き明かすことよりも難しい。
「はっ、はぁっ!? 行かんし!」
 あまりに輝かしいイベントを前に、顔をぷいっと背けてしまった。
「いきましょーよー」
 野に咲く一輪の花のように、エアコンの風に揺られている。
 晴れやかで涼やかで煌びやか、私についていけるはずがなかった。
「行かないっ! わざわざ金払って遠く行って濡れてくたびれに行くなんてバカだし。そんなことしてる奴みんな陽キャで金持ちで能天気のノータリンで…………」
 涙目で泡を吹きそうになっている私をにこやかに見守っているマリーゴールド。
 私を見てなんでこんな笑顔でいれるんだ。
「大丈夫ですって。楽しいですよ、私ももう何年も行ってませんけど」
「とにかく行かない! そんなとこ行くのはバカのすることだからっ!」

 ―・―・―・―・―・―・―・―・―

 ばっしゃぁーーーーーんっ!
「飛び込み禁止っ!!」
 き、来てしまった……。
 時は夏休み初日、場所は市営の温水プール。
 肩を並べてやってきたのは当然明日ちゃん。
 深いプールの底を見つめながら、縁に座った。
 久々に来てみると思ったよりもデカい屋内プールには子供用プール、ノーマル没個性プール、流れるプール、ウォータースライダー、ミニ滑り台、25mプールと種類豊富なプールがついている。
「ぬるいですねーっ!」
 勢いよく顔を出した明日ちゃんは眩しいまでの笑顔を見せた。
 バシャバシャと水飛沫を立ててワーワーキャーキャーといまいち聞き取れないことを言っている人たちの多くが家族連れ、もしくはカップルで、心の底からいけ好かない。
「陰狼さんの身体くらい温かいです!」
「こわ……」
 輝く瞳で変なことを言い出す明日ちゃんから逃げるように後退りする。
「もー冗談じゃないですかもー。そんなことより陰狼さんも早く入りましょうよー」
 よく見たらつま先立ちで顔を出している明日ちゃんはスタイルがハチャメチャに良くて、フリルがついた赤リボン柄白ビキニをバツグンのくびれで際立たせるというモーレツにズルいことをしている。
 さて、そこに学校で使ってるパツパツスク水の猫背ストレートネックが隣へ立ったらどうなるだろう。
 過激派に殴られる……。
「……泳げんし……」
 周りに古いタイプのスク水がいないことが恥ずかしくて体育座りで丸まっていた。
 これならマシな水着を買うべきだった。
「じゃあ流れるプール行きましょう!」
 プールから上がると、いつの間にか手首から口に移動していたヘアゴムで綺麗なポニーテールを作る。
 綺麗なウインクには思わず惚れてしまいそうだった。
 意気揚々とレンタル用の浮き輪を取りに行く
「とひゃっ!?」
 …………。
 ずってんっ! と、盛大な音を立てて顔面からずっこけた。
「……大丈夫?」
 ピクピク震えている明日ちゃんのそばにしゃがんでツンツンつついてみる。
「……うっうぅ……。いだいですぅうぅぅ……」
 高2とは思えない幼稚な泣き顔を見せる明日ちゃんは、どうしようもなく庇護欲を駆られた。
 かわいい……。
「あ、あぁ、だ、大丈夫だから……。えっと……ど、どう……うぅ……泣かないでってば……」
 大粒の涙をこぼしながらへたり込んでいる明日ちゃんの泣きやまし方が分かるほど私は利口でも経験豊富でもない。
「も……どうすればいいの……」
「あれー? くすみんじゃんっ!」