そのデタラメな曲がり方の関節をしているゴツゴツとした手がぎりりと肉に食い込む。
「楠眠! コンニャロテケテケめ! 離しやがれ!」
気絶一歩手前で何故か澄んでいる脳がはじき出した自分の未来の姿は、腰から上しか残っていなかった。
喉の奥が泣いている。
最悪……最悪だ。明日《みらい》ちゃん……私なんかが友達作ろうとしたから……柄にもなく人を思いやったから……神様が天罰を下してきたんだ。
もはや私を捕らえている手も、引っ張ってくれる飛鳥兄ちゃんの手も、力がかかっていることを認識することができなかった。
「クソッ……クソぉッ! おい電話越しの巫女!! テケテケを楠眠から引き剥がすにゃどうすりゃいい!!」
死にたくない私は思うように動かない手を動かしてポケットのスマホを取り出す。
「陰狼さん? 陰狼さん、返事をください、引き剥がすってなんですか、まさか捕まったとか言わないでくださいよ、お願いですから……」
「そのまさかだよ巫女! 本職だろうが、対処法を言いやがれっ!!」
スカ兄ちゃんがここまで荒々しい言葉を使うなんて珍しいな……。
もはや命の危機への恐怖なんてどこかに消えてしまった。
「そんなの……テケテケの弱点を突く……いや、効かないんですよね、えっと、あっ……もしかしたら……」
スカ兄ちゃんと同じくらい焦っていることが機械を通しても伝わってくる。
「テケテケじゃ……ないのかも……」
「はぁ!?」
「ご当地テケテケって言うんですか……? テケテケには似た妖怪としてカシマレイコって居ますし、似た妖怪ってだけでテケテケではなかったので、テケテケの弱点として伝えられていることが効かなかった。なにか、聞いた話にその妖怪の弱点はないんですか」
スカ兄ちゃんは細い眉を吊り上げて、上半身だけの怪異を見つめた。
「……徴税馬車……」
足の先にいきなり血が流れる。
テケテケはあからさまに力を緩めた。
「ビンゴっ! その馬車ならあっちに行ったぜ!」
テケテケが遠ざかると同時に、私は崩れ落ちる。
…………なぜ、なんで? 私の妄想? なにが起こったんだ?
―・―・―・―・―・―・―・―・―
「あっづぅ〜〜〜〜……」
灼熱地獄と化した畳の上に寝転がっていた。
スカ兄ちゃんがなにを思ったかいきなり発した言葉を聞いて、明後日の方向へ去ったテケテケは、しばらく待つと明日ちゃんの管理下? に戻って綺麗さっぱり消えてしまったそうだ。
明日ちゃんがもう大丈夫、と言ってくれたあとにすぐ眠ってしまった私は、いつの間にかお腹を丸出しにして転がっていて、スカ兄ちゃんがどんな魔法を使ったのか確かめるタイミングはなかった。
大口であくびをしながらふらふらと外に面した廊下に出る。
「よっ、おはよーさん」
「どわっ!?」
夢だったような気もしてきたが、昨日散々怖い思いしたんだから後ろから声をかけるな。
私と違って着替えているスカ兄ちゃんは、意味を知らないけど字面がそんな感じの四字熟語に当てはめると明朗快活であった。改めて、意味は知らない。
「人の顔見るや飛び跳ねるってのはちっとばっかひどくねえか」
「そんなん私の背後に立つのが悪い」
「殺し屋か」
そんなスカ兄ちゃんの姿を見ていると、昨日の出来事はまるっきり出来の悪い嘘で、性格の悪いスカ兄ちゃんか一人で寂しい明日ちゃんが私に押し付けたはた迷惑な大規模ドッキリだったのかと思えてくる。
「ねぇスカ兄ちゃん、昨日の夜ってさ、私が知ってるもの?」
「知らねぇよ。俺は上半身だけの妖怪が出てくるデタラメな夢なら見たぜ」
素直にそうだよって言えよ。
「じゃあさ、あんとき、どうやって追い払ったの?」
私の足には、まだあざがのこっている。
スカ兄ちゃんが向いている斜め上の方向を見てみたが、天井しかなかった。
「あの妖怪はさ、下半身が欲しいわけじゃん。でもさ、妖怪って言うくらいだからこの世になんか未練があるわけだろ? 自分が苦しんでるときにひき逃げするような相手を一回殺しただけで復讐心っつーか恨みが消えるとは思えねーし、ヘイトを押し付けるんなら馬車にしか押し付けらんねーかなって」
…………。
…………なにを言ってるやら。
ささっての方向に視線を追いやっているスカ兄ちゃんがなにを考えていて、なぜそんな嬉しそうな顔をしているのか、さっぱり分からなかった。
「楠眠! コンニャロテケテケめ! 離しやがれ!」
気絶一歩手前で何故か澄んでいる脳がはじき出した自分の未来の姿は、腰から上しか残っていなかった。
喉の奥が泣いている。
最悪……最悪だ。明日《みらい》ちゃん……私なんかが友達作ろうとしたから……柄にもなく人を思いやったから……神様が天罰を下してきたんだ。
もはや私を捕らえている手も、引っ張ってくれる飛鳥兄ちゃんの手も、力がかかっていることを認識することができなかった。
「クソッ……クソぉッ! おい電話越しの巫女!! テケテケを楠眠から引き剥がすにゃどうすりゃいい!!」
死にたくない私は思うように動かない手を動かしてポケットのスマホを取り出す。
「陰狼さん? 陰狼さん、返事をください、引き剥がすってなんですか、まさか捕まったとか言わないでくださいよ、お願いですから……」
「そのまさかだよ巫女! 本職だろうが、対処法を言いやがれっ!!」
スカ兄ちゃんがここまで荒々しい言葉を使うなんて珍しいな……。
もはや命の危機への恐怖なんてどこかに消えてしまった。
「そんなの……テケテケの弱点を突く……いや、効かないんですよね、えっと、あっ……もしかしたら……」
スカ兄ちゃんと同じくらい焦っていることが機械を通しても伝わってくる。
「テケテケじゃ……ないのかも……」
「はぁ!?」
「ご当地テケテケって言うんですか……? テケテケには似た妖怪としてカシマレイコって居ますし、似た妖怪ってだけでテケテケではなかったので、テケテケの弱点として伝えられていることが効かなかった。なにか、聞いた話にその妖怪の弱点はないんですか」
スカ兄ちゃんは細い眉を吊り上げて、上半身だけの怪異を見つめた。
「……徴税馬車……」
足の先にいきなり血が流れる。
テケテケはあからさまに力を緩めた。
「ビンゴっ! その馬車ならあっちに行ったぜ!」
テケテケが遠ざかると同時に、私は崩れ落ちる。
…………なぜ、なんで? 私の妄想? なにが起こったんだ?
―・―・―・―・―・―・―・―・―
「あっづぅ〜〜〜〜……」
灼熱地獄と化した畳の上に寝転がっていた。
スカ兄ちゃんがなにを思ったかいきなり発した言葉を聞いて、明後日の方向へ去ったテケテケは、しばらく待つと明日ちゃんの管理下? に戻って綺麗さっぱり消えてしまったそうだ。
明日ちゃんがもう大丈夫、と言ってくれたあとにすぐ眠ってしまった私は、いつの間にかお腹を丸出しにして転がっていて、スカ兄ちゃんがどんな魔法を使ったのか確かめるタイミングはなかった。
大口であくびをしながらふらふらと外に面した廊下に出る。
「よっ、おはよーさん」
「どわっ!?」
夢だったような気もしてきたが、昨日散々怖い思いしたんだから後ろから声をかけるな。
私と違って着替えているスカ兄ちゃんは、意味を知らないけど字面がそんな感じの四字熟語に当てはめると明朗快活であった。改めて、意味は知らない。
「人の顔見るや飛び跳ねるってのはちっとばっかひどくねえか」
「そんなん私の背後に立つのが悪い」
「殺し屋か」
そんなスカ兄ちゃんの姿を見ていると、昨日の出来事はまるっきり出来の悪い嘘で、性格の悪いスカ兄ちゃんか一人で寂しい明日ちゃんが私に押し付けたはた迷惑な大規模ドッキリだったのかと思えてくる。
「ねぇスカ兄ちゃん、昨日の夜ってさ、私が知ってるもの?」
「知らねぇよ。俺は上半身だけの妖怪が出てくるデタラメな夢なら見たぜ」
素直にそうだよって言えよ。
「じゃあさ、あんとき、どうやって追い払ったの?」
私の足には、まだあざがのこっている。
スカ兄ちゃんが向いている斜め上の方向を見てみたが、天井しかなかった。
「あの妖怪はさ、下半身が欲しいわけじゃん。でもさ、妖怪って言うくらいだからこの世になんか未練があるわけだろ? 自分が苦しんでるときにひき逃げするような相手を一回殺しただけで復讐心っつーか恨みが消えるとは思えねーし、ヘイトを押し付けるんなら馬車にしか押し付けらんねーかなって」
…………。
…………なにを言ってるやら。
ささっての方向に視線を追いやっているスカ兄ちゃんがなにを考えていて、なぜそんな嬉しそうな顔をしているのか、さっぱり分からなかった。


