私は言い捨てて歩き出した。
「あっ、待てやわがまま楠眠!」
「近いって! もっと後ろから追ってこないとでしょうが!!」
足を止めて振り返り、指を突きつける。
「うるせぇ! 楠眠を囮にして危険にさらすくらいなら二人まとめて追っかけられた方がマシだ!」
「そうならないために私が注意を引くって言ってんじゃん!!」
「楠眠より俺の方がまだ逃げられんだろうが!! 合理的に考えてんのかそうじゃないのかはっきりしろ!」
「うるさい!! だったら私が捕まる前にテケテケを帰らせればいいでしょ!!」
最後に言い放ち、身体を翻して足早にその場から逃げた。
スカ兄ちゃんのことは絶対生かして帰すって言ってんだから素直に従えばいいのに。
テケテケテケテケテケテケ
「っ!」
その音は一気にテンポを上げた。
やはりというべきか、テケテケさんは律儀に田んぼを避けて通るようなことはしない。
「……やっ……やっぱ……っ……ヘルプっ、明日ちゃっ……」
下手くそなフォームで走りながら、ひとまず最初の曲がり角を目指した。
遠い……遠い……っ。
テケテケが突っ切ってこれないような曲がり角までは、私の足だと十秒ほどかかるんじゃないかという程度だったが、とても遠くに感じた。
「陰狼さん? どうしました? 見つかりましたか? だったら早くテケテケさんを弱らせてください!」
弱らせる? 無理無理無理、死ぬ。
でもどうにかしないとジリ貧で追いつかれちゃう……。
「おい! テケテケの野郎! 持ってくなら俺の足を持っていきやがれ!」
スカ兄ちゃんのその言葉はかなり遅れてきた。
そう、ちょうどスカ兄ちゃんの目の前をテケテケが突っ切っていったときだ。
テケテケテケテケテケテケ
スカ兄ちゃんの言葉は届いていないかのように足音は一直線だった。
「おい無視しやがんなテケテケ! 下半身もない分際でうちの楠眠に手ぇ出すんじゃねぇ!!」
曲がり角を滑るように曲がる。
ぎぎぎぃーーーーーっ
耳をつんざくような音が夜中の村に響く。
とっさに耳を押さえて立ち止まった。
死にたくないという本能のもとにうごきを再開したが、どれだけその角から遠ざかろうとも足音が一向に聞こえてこない。
「陰狼さん? 大丈夫ですか、テケテケの動きが止まっているのに制御が利きません、なにかあったんですか」
その場に立ち尽くす私よりも焦った声がスマホから飛び出して耳を撫でた。
心が穢れている今はなんとも思わないが、小三のときまでは綺麗でここにしかないと思っていた星空に声が消えていくと、もう田舎の深夜には虫以外の声は存在しない。
「スカ兄ちゃん……」
なにかヤバイ予感がした。
とても人間のものとは思えない、ぐおおおおおおおぉ、という長く激しい咆哮が辺りに響き渡るとともに、
デケデケデケデケデケデケ
そんな殺気を1音1音に織り交ぜた不快な音が遠ざかっていく。
スカ兄ちゃんがヘイトを買ったんだ。
私を追っかけるテケテケに言い放ったスカ兄ちゃんの言葉、そのどれかがテケテケにとって逆鱗だったから、あんな怒気に溢れた足? 音を立ててるんだ。
ドゴッバタバタ
鈍い音が耳をかすめて遠く遠く飛んでいく。
確か、スカ兄ちゃんが私の反対方向に進んでいったら、右に曲がるはずだ。
止まっている足音がなにを示しているのか、バタバタという音はなんなのか、それはバカな私にはわからない。
でも、行かなきゃいけない。今スカ兄ちゃんが走っているはずの場所へ。
田舎でよかった、というべきか、一部しか壁と呼べる塀はなく、あぜ道を突っ切っていく。
曲がり角の方を見てみると、角を曲がりきれなかったのか、未だジタバタしている血みどろでさえなかったら可愛くも思えるテケテケがいた。
しかしスカ兄ちゃんが見当たらない。
あんなジタバタしてるテケテケがスカ兄ちゃんを捕まえた後とは考えにくいし、どこかに逃げたはず。
探さないと。一人であんなのに勝てるわけがない。
「楠眠! こっちだ!」
珍しく真面目なスカ兄ちゃんの声が耳より高いところから聞こえた。
どうやって登ったのだろうか。スカ兄ちゃんは屋根の上から私に呼びかけていた。
屋根の端から差し伸べられる手に走り寄る。この時ばっかりはスカ兄ちゃんがスカに見えなかった。
頼りになる飛鳥兄ちゃんに見えてしまう。
「いくら下半身がなくてもっ……と……。そろそろ起き上がって追っかけてくるよ。ちゃんと手つかめ。ちょっ……重いって。そこらへんに足かけれるとこないの? 上〜が〜れっての」
「誰がくさむすびの威力120だよっ!」
「言ってねーしそんな場合じゃねー! 最大威力ってことは200キロあるじゃねーか」
真っ赤になりながら腕にしがみつく。
「はっやく引っ張ってってば! JK一人持ち上げられないでバレー部キャプテンが務まってたの!?」
元バレー部キャプテンパワーを発揮する飛鳥兄ちゃんの手を掴んで窓枠に足をかけた。
デケデケデケデケデケデケ
いつの間にか体勢を直していたテケテケは、私の足先をかすめて誰かの家の壁に激突して再びひっくり返った。
「チャンス! スカ兄ちゃんなんとかしてっ!」
「俺っ!? …………いや、任せろっ!」
「あっ、待てやわがまま楠眠!」
「近いって! もっと後ろから追ってこないとでしょうが!!」
足を止めて振り返り、指を突きつける。
「うるせぇ! 楠眠を囮にして危険にさらすくらいなら二人まとめて追っかけられた方がマシだ!」
「そうならないために私が注意を引くって言ってんじゃん!!」
「楠眠より俺の方がまだ逃げられんだろうが!! 合理的に考えてんのかそうじゃないのかはっきりしろ!」
「うるさい!! だったら私が捕まる前にテケテケを帰らせればいいでしょ!!」
最後に言い放ち、身体を翻して足早にその場から逃げた。
スカ兄ちゃんのことは絶対生かして帰すって言ってんだから素直に従えばいいのに。
テケテケテケテケテケテケ
「っ!」
その音は一気にテンポを上げた。
やはりというべきか、テケテケさんは律儀に田んぼを避けて通るようなことはしない。
「……やっ……やっぱ……っ……ヘルプっ、明日ちゃっ……」
下手くそなフォームで走りながら、ひとまず最初の曲がり角を目指した。
遠い……遠い……っ。
テケテケが突っ切ってこれないような曲がり角までは、私の足だと十秒ほどかかるんじゃないかという程度だったが、とても遠くに感じた。
「陰狼さん? どうしました? 見つかりましたか? だったら早くテケテケさんを弱らせてください!」
弱らせる? 無理無理無理、死ぬ。
でもどうにかしないとジリ貧で追いつかれちゃう……。
「おい! テケテケの野郎! 持ってくなら俺の足を持っていきやがれ!」
スカ兄ちゃんのその言葉はかなり遅れてきた。
そう、ちょうどスカ兄ちゃんの目の前をテケテケが突っ切っていったときだ。
テケテケテケテケテケテケ
スカ兄ちゃんの言葉は届いていないかのように足音は一直線だった。
「おい無視しやがんなテケテケ! 下半身もない分際でうちの楠眠に手ぇ出すんじゃねぇ!!」
曲がり角を滑るように曲がる。
ぎぎぎぃーーーーーっ
耳をつんざくような音が夜中の村に響く。
とっさに耳を押さえて立ち止まった。
死にたくないという本能のもとにうごきを再開したが、どれだけその角から遠ざかろうとも足音が一向に聞こえてこない。
「陰狼さん? 大丈夫ですか、テケテケの動きが止まっているのに制御が利きません、なにかあったんですか」
その場に立ち尽くす私よりも焦った声がスマホから飛び出して耳を撫でた。
心が穢れている今はなんとも思わないが、小三のときまでは綺麗でここにしかないと思っていた星空に声が消えていくと、もう田舎の深夜には虫以外の声は存在しない。
「スカ兄ちゃん……」
なにかヤバイ予感がした。
とても人間のものとは思えない、ぐおおおおおおおぉ、という長く激しい咆哮が辺りに響き渡るとともに、
デケデケデケデケデケデケ
そんな殺気を1音1音に織り交ぜた不快な音が遠ざかっていく。
スカ兄ちゃんがヘイトを買ったんだ。
私を追っかけるテケテケに言い放ったスカ兄ちゃんの言葉、そのどれかがテケテケにとって逆鱗だったから、あんな怒気に溢れた足? 音を立ててるんだ。
ドゴッバタバタ
鈍い音が耳をかすめて遠く遠く飛んでいく。
確か、スカ兄ちゃんが私の反対方向に進んでいったら、右に曲がるはずだ。
止まっている足音がなにを示しているのか、バタバタという音はなんなのか、それはバカな私にはわからない。
でも、行かなきゃいけない。今スカ兄ちゃんが走っているはずの場所へ。
田舎でよかった、というべきか、一部しか壁と呼べる塀はなく、あぜ道を突っ切っていく。
曲がり角の方を見てみると、角を曲がりきれなかったのか、未だジタバタしている血みどろでさえなかったら可愛くも思えるテケテケがいた。
しかしスカ兄ちゃんが見当たらない。
あんなジタバタしてるテケテケがスカ兄ちゃんを捕まえた後とは考えにくいし、どこかに逃げたはず。
探さないと。一人であんなのに勝てるわけがない。
「楠眠! こっちだ!」
珍しく真面目なスカ兄ちゃんの声が耳より高いところから聞こえた。
どうやって登ったのだろうか。スカ兄ちゃんは屋根の上から私に呼びかけていた。
屋根の端から差し伸べられる手に走り寄る。この時ばっかりはスカ兄ちゃんがスカに見えなかった。
頼りになる飛鳥兄ちゃんに見えてしまう。
「いくら下半身がなくてもっ……と……。そろそろ起き上がって追っかけてくるよ。ちゃんと手つかめ。ちょっ……重いって。そこらへんに足かけれるとこないの? 上〜が〜れっての」
「誰がくさむすびの威力120だよっ!」
「言ってねーしそんな場合じゃねー! 最大威力ってことは200キロあるじゃねーか」
真っ赤になりながら腕にしがみつく。
「はっやく引っ張ってってば! JK一人持ち上げられないでバレー部キャプテンが務まってたの!?」
元バレー部キャプテンパワーを発揮する飛鳥兄ちゃんの手を掴んで窓枠に足をかけた。
デケデケデケデケデケデケ
いつの間にか体勢を直していたテケテケは、私の足先をかすめて誰かの家の壁に激突して再びひっくり返った。
「チャンス! スカ兄ちゃんなんとかしてっ!」
「俺っ!? …………いや、任せろっ!」


