それから俺たちは、俺ひとりだったら絶対に入りそうにない雑貨屋をいくつか見てまわった。
「妹は猫が好きだから、猫をモチーフにしたものがいいかな、って思ってるんだけど」
猫のぬいぐるみを手に取りながら、宮原が言った。
真っ黒い猫のぬいぐるみ。可愛くっていいんじゃないかと思ったが、宮原は気に入らなかったらしく元の場所へもどした。
「猫が好きなんだ。家で猫を飼ってるのか?」
「いや、妹もうちの母も猫アレルギーだから飼えないんだ」
アレルギーなのに好きなのか。身体と心は別って奴か。
そういえば、宮原の両親は一度も見かけた覚えがない。
剣道教室に通っていたころ、家族が見学しにきたり、送り迎えをするのはめずらしくなかった。
俺のところも、練習風景を両親や姉貴が何度か見にきている。家が近いから送り迎えはしてもらってないけど。
宮原の家族で見覚えがあるのは祖父だけだ。宮原にあまり似ていない、厳格そうな顔つきのご老人だった。
ああ、そうか……妹が病弱だから、母親は家から離れられないんだ。父親は仕事があるだろうし。
宮原へ視線を向ける。
宮原はふたつのマグカップを手に取って見比べている。
淋しくなかったのかな。
いまはともかく、小学生のころ親が下の兄妹にかかりきりだったら――俺だったらすごく淋しい。
「日向、こっちとこっちだったら、どっちがいい?」
ひとつはカップが猫の形になっていて、もうひとつは寄り添う二匹の猫が描かれている。
「……んー、こっちのが使いやすそうかな」
猫の形になっている奴は、可愛いことは可愛いけど、耳の部分が出っ張っていて飲みにくそうだ。
「じゃあ、こっちにするよ。ラッピングしてもらうから、ちょっと待ってて」
宮原はマグカップを片手にレジへ向かった。
宮原がレジの人に話しかけるのをながめてから、視線を雑貨へ移す。壁際の棚やテーブルには、アクセサリーやポーチなんかの雑貨がいろいろならんでいる。
せっかくだから、俺もなにかプレゼントしようかな。会ったこともない相手だけど、ちょっとしたものなら重くないだろうし。
猫の形をしたヘアクリップが目に留まった。あまり大きくない小さめのクリップだ。黒猫、白猫、キジトラの三種類がある。
俺は白猫のヘアクリップを手に取ると、レジに向かった。
「日向もなにか買うんだ」
「あ、うん」
宮原は少し不思議そうな顔をしたけど、それ以上は訊いてこなかった。
雑貨屋を出ると、ふたたび夏の陽射しに晒される。
「これからどうする? 日向はやりたいこととかいってみたい場所、ある?」
「えっと、そうだな――」
いつも友達と遊ぶときはなにをしていたっけ、と考える。
映画を見たり、ファストフードを食べながらだらだらしゃべったり、安いバッティングセンターで遊んだり。あとは家でゲームをやったり、そんなところだ。
「映画でも観にいく? それか、バッティングセンター」
「観たい映画があるの?」
俺は今年の夏映画でもっとも話題になっている、スペースファンタジーなアクション映画の名前を挙げた。
「それ、俺も観たかった奴」
ほんとうに観たかったのか、それとも俺に気をつかったのかわからなかったが、悩んでいても時間がもったいない。
俺と宮原は映画を観るために渋谷へ向かうことにした。
自由が丘はまるでヨーロッパみたいな街並みをしている。街並みもオシャレなら、歩いている人たちもみんなオシャレだ。
俺はたぶん浮いているが、宮原は背景にしっくり馴染んでいる。顔つきや物腰に落ちつきが感じられるからかもしれない。
「あ、そうだ。宮原、これ」
さっき買ったヘアクリップを宮原へ差し出す。ラッピングしてもらったので、小さな紙袋にはリボンのシールがついている。
「これって、さっき買ってた奴?」
「宮原の妹さんに。俺からの誕プレ」
宮原はぴたりと足を止めた。無表情で小さな紙袋を受け取り、じっと見つめる。
……あ、あれ? なんかまずった?
会ったこともない相手だけど、宮原の妹だし、ちょっとしたものならいいだろうと思ったんだけど。
「あ、あの、宮原――」
「妹はいいな」
宮原はぼそりと言った。
「えっ?」
「日向とは面識もないのに、日向からプレゼントをもらえて」
俺は宮原をじっと見つめた。宮原の視線は下へ向いていて、俺を見ようとしない。
いつもどおりの無表情に見えるが、ほんのちょっとだけ拗ねているように見える。
……って、宮原が拗ねる!?
勝負に勝っても負けても、感情を顔に出さない宮原が?
――これは一大事だ。

