初めての空


空の写真が好きだ。

吸い込まれるように広がる空。
何もかもを自由に解放してくれる優しい存在だ。

" クールで何を考えてるかよくわからない優等生 "
って、よく言われる。
レッテル貼られて、正直めんどくさい。

だから、片瀬利旺(かたせりおう)ってキャラが吸い込まれ、溶けて無くなっていく感覚が好きなんだ。

空は折々に顔を変えて、いくら見ても飽きない。

朝焼けの空、薄い月が一つ浮かんだ空。
夕暮れのグラデーション。
背景も加わる。

それをカメラで切り取るんだ。
漢字(かんじ)



「なぁなぁ、お前名前なんてーの?」

でかい声だな。

まぁ、確かにホームルームの自己紹介は出身中学くらいしか言ってないからな。

「俺、勇崎(ゆうざき)!勇崎翔太(ゆうざきしょうた)!みんな勇崎か翔太って呼ぶから好きな方で呼んで?新しいニックネームも歓迎!募集中!」

「おーい!ゆう〜!」

「はーい♡早速新作!俺のこと呼んだ?」

「ちげーよ!祐太郎のこと呼んだの!」

「なんだよ、勇崎のゆうじゃないのかよ。
さびしいわ、今度はご指名くださいね♡」

目の前の机にどっかり腰掛けて喋り続ける。

「で、名前は?
俺、クラスメイトを友達コンプリートしたいんよ!」

お前はポケモン図鑑作ってんのか!と心の中で突っ込む。

「…片瀬利旺」

「かたせ…ごめん?もっかい」

「り・お・う。利益の利。日偏(ひへん)に王様のおうって書いて、それでリオウって読む。」

「ヒヘン…?に王様?」

「食欲旺盛の旺で、旺!」

「利益の利に食欲旺盛のオウ!
なんか、難しいけど、響きもいいしカッコいいな!じゃ、リオウって呼ぶな!今日からトモダチな。分かんないことあったら俺に聞けよ!」

こいつ、絶対漢字変換できてねぇな。

「じゃあ、体育の授業、いつから?体操着いつまでに揃えればいいのかな。」

「オッケー!おーい!誰かさ!体操着もう買った?」

「あー、授業いつからだっけ?」
「誰か、クラスルーム見て確認しろよ。」
「パスワード忘れた。覚えてる奴いる?」

ちょっと待て!
なんでも聞けって言うのはただ聞くだけになってるわ、何も解決してねぇ。

まぁ、面白いし、実際知りたいから聞いとこうかな。

「うちの学校、本気のカメラって持ち込んでいいかは知ってる?」

「本気のカメラ?!」
こいつ、犬コロが尻尾を振っているみたいになってる。

「おーい写真部!
本気のカメラって自分のやつ持ってきていいの?」

「写真部いねーよ!って言うか仮入部まだだよ!」
「いいんじゃね?」
「とりあえず隠せば?スマホみたいなもんだろ。」

うん、やっぱりわかんないんだね♡

頼りない…そして陽キャすぎる…


そんでこいつ



笑顔が、眩しすぎる。




こんなやつ、初めて会った。
クラス全員と一瞬で仲良くなるやつ。

目で追わずにいられない。

「おーい!翔太〜!昼休みにサッカーやろうぜ!」

「おぅ、何人集まんの?」 

隣の組の奴ららしい,
自分のクラスだけじゃないんかい、心の中でずっこける。





翌日、本気のカメラを持ち込んだ。
新しい空を撮りたかった。
校舎と空、グラウンドと空。
高校に入って初めての空だ。

サッカーしていた勇崎が近づいてくる。
勝手にレンズの前に入り込んでくる。
俺の視界は勇崎でいっぱいになった。

カメラを下ろすと勇崎がピースしている。

撮られる気しかないらしい。
弾けるような笑顔。

顔も制服も土埃まみれ。
どう見ても砂遊びしてた幼稚園児だ。

後ろにはサッカーゴールとグラウンド、イチョウの木が校庭をぐるっと囲む。 

そして広がる空。



ああ



空と人。

初めて撮るならこいつがいいかもな。

俺はシャッターを切ったんだ。