ミスっただけだから


こんなに人のこと心配する奴っているんだな。
こっちが驚くわ。



ガシャ!!
派手な音がしてハードルが倒れ、転んだ。

淡々とでハードルを立て直し、土埃を払う。

他の部員が心配して集まってきた。
「片瀬(かたせ)、大丈夫か?!派手に転んだな、怪我は?!」

「血はちょっとだけだし、大して痛くない。足首の着地が悪かっただけだから、少し冷やせば大丈夫だ。でも、ちょっと休むな。」

部員たちは安心して散っていく。

俺は歯を食いしばって立ち上がる。
体重をかけると鋭い痛みが走る。
眉間にシワが寄る。息が荒くなるのを堪える。
患部に濡らしたスポーツタオルかけて地べたに座り込んだ。

そこに同じクラスの勇崎(ゆうざき)が走ってきた。
サッカーの練習試合が、同じグラウンドで行われるのだ。
俺に向かって全力疾走してくる。

「大丈夫かよ、お前?!」

「あぁ?ミスっただけだから…。
お前…そろそろ試合だろ?」

「今、アップしてただけだから時間ある。
気にすんな。」

「てか、おい!利旺(りおう)、ひねったんだろ?!
見りゃ分かる!
捻挫、舐めんなよ!一生足引きずんぞ?!
捻挫隠すとかお前、バカだろ?!」

離れてたのによく分かったな。
正直結構痛い。

勇崎は勝手に俺に肩を貸す。
細いのに、力強い。
俺を保健室に無理矢理連れて行った。

ひどい捻挫だと判断され、応急手当てされた。

「どうだったよ?」

勇崎は保健室の入り口で律儀に待っていた。

「かかった負荷が強そうだし、とにかく整形外科に行って来いって。」

「ほらな、お前バカ決定だろ?
親来る?来ないなら俺送ってやるよ!」

「来ないけど、いい。自分で帰れる。」

「なんだよ遠慮とかかわいくないやつだな!
俺になんでも任せろって!」

肩にまた捕まらせようとする。
俺は拒否する。

「くっそー!気をつけろよ!
俺こういう時もヒーローだけど、部活でもヒーローだから試合戻っちゃうからな!」

嵐のように去っていく勇崎。
俺はそろりそろりと歩いて着替えに行く。

なんだあいつ、口が悪くて、ド親切。
…おかげで助かったけど。

着替え終わって部室のドアを開ける。

勇崎が走り回る姿をしばらく目で追っていた。
センターフォワードか、あいつらしいな。


初めて会った時のことを思い出した。
初めて空と一緒に撮った奴だ。

笑顔が眩しくて…
目が離せなくて…


トクン
胸が鳴る


ズキン
足首が痛む

勇崎の力強い肩の感触が浮かぶ。
礼も言わなかった。
明日謝ろう。

試合は白熱しているらしい。部員のきっちり揃った声援合戦が聞こえてくる。

部長と顧問に報告して家路についた。

親の運転で整形外科に行った。
靭帯部分損傷があり、全治二週間の捻挫とのことだ。
松葉杖も渡された。
邪魔なので使うつもりはない。大げさだろ。

夜になっても今日の出来事が気になってしょうがなかった。

春に初めて空を背景に人を撮った。
その時の勇崎の写真、データどこに入れたっけ?
時系列で探してみる。あった。

画面越しじゃなんだか物足りなくなって、手にとって見てみたくなった。
プリンターで紙焼きする。

ベッドに寝転んで写真を眺める。
屈託のない笑顔。
一点の曇りもないってこんな時に使うのかな…

俺はそのまま寝落ちしていた。

翌日、教室で勇崎を見つける。
俺は足元に気をつけつつ、近づいていった。

クラスメイトとワイワイだべっている。
いつもギリギリに来るのに珍しいな。

「勇崎。昨日は助かった。
ありがとう。送ってくれようとしたのにごめ…」

「おう、利旺!!」

ごめんを言わせないスピード感だ。

「昨日の試合結果聞きたい?!
なーんとストライカーが2点も取って、2-1でウチの勝ち〜!!」

「みんな〜?ストライカーは!誰だ〜〜?!」
勇崎が椅子に乗って呼びかける。
コールアンドレスポンス始めやがった。

「勇崎〜!!!」
周りのクラスメイトが楽しそうに拳を挙げる。


やっぱり笑顔が眩しい。
眩しすぎて目を逸らしたいくらいだ。

「利旺、簡易ギプスしてんの?松葉杖使わなくていいのか?大事にしろよ!次こそ送ってやるからな!」

チャイムが鳴って、肩をポンと叩きながら自分の席へと向かっていく。
また怪我する前提で喋ってることに気づいてない。こいつ…アホなのかな…。
ほんと、こんなやつ見たことない。



こいつ、空みたいだ。


雨上がりに輝く晴れた空。
なんなら、虹まで出てそうだ。


勇崎翔太
こいつを、撮りたい。