彼岸花の花嫁〜殺し屋からの花嫁へ〜

「あーもー最悪ー」

緋花は白檀に来ていた。

「緋花。大人に向かってそんな事してるといつか打たれるどころじゃなくなる」

庶民が使う薄い布団を、薬棚の近くに敷く。脳みそが伸び縮みしながら動き回る気がする。あぁため息が連続わざのように見事に披露される。あいつ(九夜)はわざと緋花とのお見合いがあるとしり、昼間ここに来ていたとしたらどうだろうか。もしかしたら緋花は侮っていたのではないのだろうか。軍を作ったと言う妖の上家の力。情報網を。

(まさかね…流石に私たちの殺しの事は知らないよね〜)

今日は一人の庄屋の旦那を殺す仕事を頼まれている。なんでも悪質な高利貸しをしていたそうだ。まぁそう言う奴は恨まれる。この世の中の悪い人間の末路という事だろう。緋花たちの殺しに一つ良いところがあるとすれば悪い人間しかやらないところだ。
布団を敷き終え、殺し屋『紅』の象徴である彼岸花と桜をあしらった妖艶な美しさを持つ着物に袖を通す。まあ本来の着物より露出の多く動きやすい形になっているのだが。

「行ってきます」

店の裏口の戸に手を掛けながら呟くように言う。

「今から人が一人死ぬと思うと不思議だ」

こっちは命懸けの仕事だと言うのにその声の調子で言われると拍子抜けしてしまう。思わず戸を引く手の力が緩まる。

「爺もやってたんでしょ殺し屋…」

月明かりに照らされて緋花の肌が青白くなる。緋花は柔らかく微笑み掛けながら続ける。

「妖を殺すの心配してくれてる?」

緋花にしては単に憶測に過ぎないが声に出してしまう。ふっと爺の目尻が緩まる。

「泣もしない。笑いもしない。人の心を察することすらできない。泣いている人への声の掛け方もわからない。やつになぁ〜心を見透かされるときたか。お前も成長した。あの時の無表情で可愛げのない娘なんてもうどこにもいないのか」

爺のその目はまるで嫁いでいく娘を見る眼差しのようだ。

「ほら妖さんに備えて今日は早く悪いやつをやっちまいな」

雑な見送り方だけど一つ一つに心がこもっている気がし、緋花も父を見るかのような眼差しで爺を見つめ返す。

「いってくるね」

(家族のように思える人なんていない。そう思ってたけど、家族。かな?)

「ふふっ」