琴の音が響くいかにも高級な老舗に来ていた。
普段友達と行くのは学生の多い洒落た西洋風のカフェーなので、普通の人よりなれているとはいえ緊張してしまう。
(なんで?普段三人で食べに行くのは洋食ばかりなのになんでこんな有名な高級料理店に来てるの!?)
他の客は煌びやかな着物をきた貴婦人や、軍服を着た男性。いかにもお金持ちの集まりとしか言いようのない光景に開いた口が塞がらない。緋花も上等な着物とかんざしを着こなしているつもりだが、急に手持ち無沙汰のようなかんじがしてきてしまう。薄紫の着物に薄ピンクの玉の連なったかんざしと言うスタイルだが、今思えばお見合いなどだったら薄ピンクの桜柄の振袖を着ていくべきだったかもしれない。
(派手な柄にしなくてよかった…)
淡い色の着物を着た女将が叔父の前に出てきて頭を下げる。叔父が女将に「狐鬼の家と同席させてもらうものだ」とはっきりと言う。おおかた狐鬼と同席なんて自慢できることだから大声で言ったのだろう…
…狐鬼?
(…狐鬼って、昼間の特殊趣味!?)
左胸がズキズキと痛むように動く。昼間に手伝いにいってる事が、バレてしまうと困るだけでは済まない。今気づいたが狐鬼の新当主そろそろ結婚を考える年頃…
(もし…もしかして…私とお見合い!?…なわけないよね〜)
一人で百面相をしていると叔母のしかめっ面が前に迫る。
「もっとぴしゃっと立ちなさい。変な顔してないで…全く。狐鬼家とのお見合いなのに…」
「ご案内の準備ができました」
(ああやっぱり…)
五十路前の女性が綺麗な所作で頭を下げる。
(あのマニアック私だって気づくかなぁ。もう二度と会いたくないのに…)
モヤモヤとした心を抱えながら女将の案内にしたがって歩いて行く。さすがは有名な老舗で、一つ一つが美意識で施されている。真似できないと小さく気づかれない程度にため息をつく。長く長く続く廊下は、この店の広さを感じさせられ、途中途中に飾られている生花が、緋花のいるべき場所ではないと語ってくる。
殺人をしている方が性に合っている。
「こちらのお部屋でございます」
店先で弾いていた琴の音がかすかに聞こえてくる。初老の女将も声がその音と相まって謎の音楽を作る。心臓が飛び出す。そう覚悟するぐらいの緊張だ。急に目頭が熱くなってきた気がする。頬に温かい温もりを感じさせられる何かが流れる。
(ああ、早く破談になって…)
願ってはいけないとわかっている。結婚しなければいけないのだってわかっているつもりで、願っている。結婚なんてしたくない。愛したくもない、愛されたくもない。相思相愛なんて気持ち悪い。かといって政略結婚で愛し合える確率も高くはない。愛してもない男と結婚、出産するのなら、死んでもいい。そう思える。ああ思っていた。ずっと。
いつか誰とも知らない屑に嫁いで一方的に愛されるか、また虐げられる日常を生き抜いて、私の花が散らされる。
それを考えないようにしていたのだ。もしかしたらこの日常からねけ出せるのではないかと言う淡い期待に変えていたのだ。自分のどうにもならない運命を淡い期待に変えてやっていたのだ。
…ずっと
ああ無性に叫びたい。急に泣き出した緋花を見た叔母は、なにをやっているのかと打つ。叔父の焦った声。戸惑う女将。そして騒がしくなったことで出てきた妖の上家前当主と当主そしてあの妙齢の女性。嫌いだ。私を駒としてしかわからない奴ら。全員死んでしまえばいいのに…
これで破談だ…今までの殺しで貯めたお金を払って叔父夫婦とは縁を切ろう。そして一生殺しか、あの茶屋で働こう。
「お前か…」
九夜が静かに声を出す。
(関わらないで…)
「さあさあ御三方ほら中に入ってください。お見合いの場で打つのは物騒ですよ。」
初老の男性が声をかける。九夜と似ていて、どこか怖くも九夜とは違い優しそうな雰囲気だ。あまり妖とは思いにくい。
「いやぁ。気を使わしてしまいましたかな」
叔父の情けない声で冴えてきた頭がまた熱くなる気がした。そこからは皆何もなかったかのように振る舞い出した。席につきいかにもお見合いのようになっていった。これでは緋花が恥ずかしだけになってしまった。
「緋花ちゃんは何歳?」
(知ってるくせに…コイツらはやっぱりとことん妖という存在だな。破談は失敗したし、破談になるようにカマをかけるか?)
「ご存知なのに知らないふりをするのでしょうか?」
言葉遣いにわざと色気と妖艶さ、生意気さを含ませる。
「あんたなんてこと言うの!」
叔母の怒鳴り声が聞こえる。それもそうだ。今までこの家は、婿養子を取ると言う形で緋花を利用してきたのだ。なのに急に妖となると絶対に嫁がせることになる。そして人様の前で怒鳴るほどとなるとこの相手が大事なお見合いになると言うことは、家を存続させなくていいと言うこと。させる余裕がない。妖は他よりも結納金が多いことでも有名…
お金に困っているのかコイツら…
「私はあんたをこんな阿呆に育てた覚えはないわ。一族の恥よ…」
まだ怒鳴っている。逆に叔母が今怒鳴る事の方がまずいことに気づかないのか?
「貴女達は一族を見捨ててお金の方に食らいついたのにですか?わたくしのことがいえますでしょうか」
これは破談どころじゃないかもしれない。折檻?殺される?けれどもこのまま結婚するよりどこかで野垂れ死ぬ方がマシだ。
「ハッハ。これは面白い。まあ今日はお嬢ちゃんが機嫌悪いみたいだし、我々は帰るよ」
そう言い妖の上家の前当主しか喋ることなく狐鬼は帰っていった。意外と単純なものだったかもしれない。破談にすると言うことは。
「あんた何様のつもりなの。運が悪かったら首がはねられるところだったのよ!」
「それは心配されているととってもいいですか?」
「あんた馬鹿なの。しばらくあのヘンテコ爺に世話になりなさい。一ヶ月は帰ってこないで」
普段友達と行くのは学生の多い洒落た西洋風のカフェーなので、普通の人よりなれているとはいえ緊張してしまう。
(なんで?普段三人で食べに行くのは洋食ばかりなのになんでこんな有名な高級料理店に来てるの!?)
他の客は煌びやかな着物をきた貴婦人や、軍服を着た男性。いかにもお金持ちの集まりとしか言いようのない光景に開いた口が塞がらない。緋花も上等な着物とかんざしを着こなしているつもりだが、急に手持ち無沙汰のようなかんじがしてきてしまう。薄紫の着物に薄ピンクの玉の連なったかんざしと言うスタイルだが、今思えばお見合いなどだったら薄ピンクの桜柄の振袖を着ていくべきだったかもしれない。
(派手な柄にしなくてよかった…)
淡い色の着物を着た女将が叔父の前に出てきて頭を下げる。叔父が女将に「狐鬼の家と同席させてもらうものだ」とはっきりと言う。おおかた狐鬼と同席なんて自慢できることだから大声で言ったのだろう…
…狐鬼?
(…狐鬼って、昼間の特殊趣味!?)
左胸がズキズキと痛むように動く。昼間に手伝いにいってる事が、バレてしまうと困るだけでは済まない。今気づいたが狐鬼の新当主そろそろ結婚を考える年頃…
(もし…もしかして…私とお見合い!?…なわけないよね〜)
一人で百面相をしていると叔母のしかめっ面が前に迫る。
「もっとぴしゃっと立ちなさい。変な顔してないで…全く。狐鬼家とのお見合いなのに…」
「ご案内の準備ができました」
(ああやっぱり…)
五十路前の女性が綺麗な所作で頭を下げる。
(あのマニアック私だって気づくかなぁ。もう二度と会いたくないのに…)
モヤモヤとした心を抱えながら女将の案内にしたがって歩いて行く。さすがは有名な老舗で、一つ一つが美意識で施されている。真似できないと小さく気づかれない程度にため息をつく。長く長く続く廊下は、この店の広さを感じさせられ、途中途中に飾られている生花が、緋花のいるべき場所ではないと語ってくる。
殺人をしている方が性に合っている。
「こちらのお部屋でございます」
店先で弾いていた琴の音がかすかに聞こえてくる。初老の女将も声がその音と相まって謎の音楽を作る。心臓が飛び出す。そう覚悟するぐらいの緊張だ。急に目頭が熱くなってきた気がする。頬に温かい温もりを感じさせられる何かが流れる。
(ああ、早く破談になって…)
願ってはいけないとわかっている。結婚しなければいけないのだってわかっているつもりで、願っている。結婚なんてしたくない。愛したくもない、愛されたくもない。相思相愛なんて気持ち悪い。かといって政略結婚で愛し合える確率も高くはない。愛してもない男と結婚、出産するのなら、死んでもいい。そう思える。ああ思っていた。ずっと。
いつか誰とも知らない屑に嫁いで一方的に愛されるか、また虐げられる日常を生き抜いて、私の花が散らされる。
それを考えないようにしていたのだ。もしかしたらこの日常からねけ出せるのではないかと言う淡い期待に変えていたのだ。自分のどうにもならない運命を淡い期待に変えてやっていたのだ。
…ずっと
ああ無性に叫びたい。急に泣き出した緋花を見た叔母は、なにをやっているのかと打つ。叔父の焦った声。戸惑う女将。そして騒がしくなったことで出てきた妖の上家前当主と当主そしてあの妙齢の女性。嫌いだ。私を駒としてしかわからない奴ら。全員死んでしまえばいいのに…
これで破談だ…今までの殺しで貯めたお金を払って叔父夫婦とは縁を切ろう。そして一生殺しか、あの茶屋で働こう。
「お前か…」
九夜が静かに声を出す。
(関わらないで…)
「さあさあ御三方ほら中に入ってください。お見合いの場で打つのは物騒ですよ。」
初老の男性が声をかける。九夜と似ていて、どこか怖くも九夜とは違い優しそうな雰囲気だ。あまり妖とは思いにくい。
「いやぁ。気を使わしてしまいましたかな」
叔父の情けない声で冴えてきた頭がまた熱くなる気がした。そこからは皆何もなかったかのように振る舞い出した。席につきいかにもお見合いのようになっていった。これでは緋花が恥ずかしだけになってしまった。
「緋花ちゃんは何歳?」
(知ってるくせに…コイツらはやっぱりとことん妖という存在だな。破談は失敗したし、破談になるようにカマをかけるか?)
「ご存知なのに知らないふりをするのでしょうか?」
言葉遣いにわざと色気と妖艶さ、生意気さを含ませる。
「あんたなんてこと言うの!」
叔母の怒鳴り声が聞こえる。それもそうだ。今までこの家は、婿養子を取ると言う形で緋花を利用してきたのだ。なのに急に妖となると絶対に嫁がせることになる。そして人様の前で怒鳴るほどとなるとこの相手が大事なお見合いになると言うことは、家を存続させなくていいと言うこと。させる余裕がない。妖は他よりも結納金が多いことでも有名…
お金に困っているのかコイツら…
「私はあんたをこんな阿呆に育てた覚えはないわ。一族の恥よ…」
まだ怒鳴っている。逆に叔母が今怒鳴る事の方がまずいことに気づかないのか?
「貴女達は一族を見捨ててお金の方に食らいついたのにですか?わたくしのことがいえますでしょうか」
これは破談どころじゃないかもしれない。折檻?殺される?けれどもこのまま結婚するよりどこかで野垂れ死ぬ方がマシだ。
「ハッハ。これは面白い。まあ今日はお嬢ちゃんが機嫌悪いみたいだし、我々は帰るよ」
そう言い妖の上家の前当主しか喋ることなく狐鬼は帰っていった。意外と単純なものだったかもしれない。破談にすると言うことは。
「あんた何様のつもりなの。運が悪かったら首がはねられるところだったのよ!」
「それは心配されているととってもいいですか?」
「あんた馬鹿なの。しばらくあのヘンテコ爺に世話になりなさい。一ヶ月は帰ってこないで」


