彼岸花の使い

ダンっ

「緋花、さっさと学校行っといで!」

机を叩き機嫌が悪そうな顔をする中年女性。その前では、一人の妖艶な少女が頭を下げている。

「申し訳ありません。」

そう言って、広い部屋を後のする。
女学校五年、曼珠沙華 緋花(まんじゅしゃげ ひばな)はため息をつく。

(はぁ、今日も朝から懲り懲りよー)

緋花は、両親が亡くなっていて叔父夫婦に引き取ってもらっている。だが気に入られている自信は一つもない。二人には利用されているだけだと知っているし、緋花も利用している。

(でも流石に今日のアレはないでしょー)

今日も怒られてきたばかりだった。家庭科の調理実技試験を満点取れなく、叩かれた。
ーー自分はいい方だ。何回目だろうか自分自身で励ますのは。
習い事はさせてもらっているし、女学校にも通わせてもらっている。

(まあ向こうは子供を産みたくないけど、家的に後継が必要だから婿養子をもらうために私を育ててるんだろうけど…)

この家は代々帝に仕えているいわゆる名門だ。ゆえに実の娘ではないが書面上の娘として恥じないようしなくてはならない。満点を取らなくては打たれる毎日だ。普通のか弱き女子なら精神が不安定になるだろうが、緋花はそうではない。『窮地に立てば立つほどやりがいがあるそう言う主義なのだ』と思い込んでいる。だから緋花は頼ることができない。頼る人もいない。頼ると言う行為を知らない。自分の意思を中に押さえ込んでしまうことの危険さを。

相当上等ものの着物に袖を通す。「みすぼらしく思われないように」と叔母が選んだ着物だ。学校にお客様が来る時以外はあまり袴は着ることはない。

(石楠花の柄ね〜。私花は全部好きだけど、一番好きなのはーー)

ーー彼岸花だ。強く凛とした赤色に血が飛びっちったかのような花の形。そしてどこかから感じる儚さ。

外に出ると、高級車。
車は高価だ。叔父夫婦の家にも一台あるがアレほどの高級車ではない。

(どんだけお偉いさんが来てんだか…)

そう思いながら歩き出す。緋花が通う女学校は市電に乗り十分程度でつける場所だ…

(キレイ…)

車から人が出てくるが、並々ならぬ妖艶さだ。そして綺麗。ただその一言しか出てこない。
食虫植物とネモフィラの香りの爽やかな風が吹き抜ける。ただあの人がまとっている空気は妖のような黒くも美しい空気感。

(なんでだろうどこか懐かしい…)

男の人なんて興味がなかったのに何故か惹きつけられる。目が釘付けになる。これは大の男嫌いでも見惚れてしまうのではないのだろうか。

(ダメ遅れちゃう!)

なるべく見ないようにと歩き出す。