どこがリアルなんだよ

「はあ」と小さくため息をついて、早苗ちゃんはわたしに言った。

「聞いたよ。裕子ちゃんと美奈ちゃんのこと。仮にニガテでもさ……口に出すのはちがうんじゃないかな」

真っすぐにわたしを見つめる、その目は真剣だった。
「……ち、ちがうの。言ってないってば」
「じゃあなんで、裕子ちゃん達は2人で同じこと言うの?」
「知らない、わたしも分からないんだよ」

声が震えて、涙がこぼれてしまった。

(早苗ちゃんが言ったんじゃないんだ……)

「こんなこと言ったら、もっとヤバいことになる」と思い、ぐっと飲み込んだ。

「美鈴ちゃんが言わなかったら、誰が言うのよ」
「……」
「だから私、あっちで寝るね。今日は」
「ちょっと……本当に分からないんだってば……」

その時だった。

(あ……!)
(田崎くん……)

早苗ちゃんと田崎くん。2人とずっとやりとりをしていた時。

(もしかしたら、わたし……田崎くんに……?)

スマホのDMを見れば、文章が残ってる。でも……それを今、早苗ちゃんに見せても意味がないような気がした。

それに、確かにわたしは……言ったから。

2人のことがニガテだって。

「ごめん。……言った。わたし」
「ほら。裕子ちゃん達がウソついてるみたいな言い方してさ、美鈴ちゃん」
「そういうわけじゃないんだってば……」
「もう良いよ。とりあえず私、行くね」
「あ……」

静かにドアが、閉じられた。

(……どうしよう)

☆

(どうしよう)
(言ったんだ……田崎くん)
(わたし……どうしたら良いんだろう)

長袖でぬぐってもぬぐっても溢れてくる涙。わたしだけが残っている部屋で、声を殺して静かに泣いた。……廊下に漏れないように。

(まだ……間に合うかな……)

このまま明日になったら、わたしはどうして良いか分からない。

でも、今だってどうして良いか分からない。

勇気を出して、ドアのノブを回す。音を立てないようにゆっくりと、ドアを開いた。……ほんの少しだけ。

「わはは!」

男子が大きな声で笑っていて、奥では女子が小さく笑いながら、男子を見ていた。

部屋の中とは、まるで別の世界だった。

(あ……)

エレベーターの前で、早苗ちゃんと松中さんたち3人が並んで立っていた。

「じゃあ、撮るよー」
「オッケー」
山本さんが持っているスマホに向かって、3人で写真を撮ろうとしているところだった。
「いや、楽しいかも」
「ね、青春だねえ」
「何よ、あんたカレシもいないくせにさ!」

松中さんの言葉に、3人が声をあげて笑っていた。

(何よ……)

悔しさにも似た感情が、胸の奥から喉を通って、上にあがってくる。

(わたしだけ、なんで1人なのよ……)

きっと『リアル』だ。リアルっていうアプリで、今の状況を写真で撮ってアップする。通知が来たところだったんだろうと思った。

「どうする?」
「何が?」
「何かさ、文字入れようよ」

山本さんがスマホで何か操作している。早苗ちゃんと松中さんは、顔を近づけながら笑っていた。

(あ……今、3人だから、謝れば許してもらえるかな……)

足が動かない。スマホを楽しげに見つめている3人。向かっていく勇気は、わたしにはない。

「どうしようかなあー……」
「あ、『リアル!』で良くない?」

悩む山本さんに、早苗ちゃんが明るい声で言った。

「リアル? なんで」
「だってさ、これが私たちのリアルじゃん」

(リアル? どこがリアルなんだよ……)
(わたし、ここにいるのにさ……)

悔しい。
早苗ちゃんの『リアル』に、わたしは入っていない――。
本当に悔しい。そして悲しい。

(わたし……どうしたらいいの?)

バレないように、少しだけ開いたドア。ちょっとだけ閉めた。

(どうしたらいいの?)

もし、立っているわたしに……早苗ちゃんが気づいてくれたら。
「あれ? ドア開いてるよ」って……気づいてくれたら。

きっと謝れるのに。

(ねえ、気づいて……)

もう一度、ほんのちょっとだけドアを大きく開いた。

「本当だね! 私達のリアルか! 良いね」
「でしょ? 夜中まで話しをして……生きてるじゃん」
「大げさ! 大げさだって!」

終わったらしい。

早苗ちゃんたちは、何かしゃべりながら部屋へと戻っていってしまった――



【了】