蒼真様は宮殿に戻ると、宮中は騒然とした。
亡くなったはずの皇太子が戻ってきたのだ。当然のことだろう。
そしてすぐに、玲瓏国の各州を治める諸侯が緊急招集され、諸侯会議が開かれた。
蒼真様の皇籍復帰は全員一致で可決され、蒼真様は皇帝として即位することになった。
霊獣討伐のために、皇帝命令で無茶な増税や出兵を繰り返していた寿栄に、諸侯たちは腹に据えかねていたらしい。
捕まった寿栄は、皇太子暗殺未遂の罪で宮殿の地下牢に投獄されている。罪なき霊獣の討伐のほかに、なんと前皇帝――蒼真様のお父様の暗殺の疑いもあり、すべての罪が明らかになってから刑が執行されると聞いている。
即位の準備が間に合っていないため、今はまだ皇太子という立場ではあるけれど、蒼真様は寿栄がめちゃくちゃにした政治を立て直すために奔走している。
肥大した税率の健全化、寿栄が荒らした霊獣たちの住処の復興。やることは山積みだ。
私も蒼真様の許嫁として再び宮殿に戻った。鳳凰の神子として、蒼真様をそばで支える役目がある。もちろん私は立場を抜きにしても蒼真様を支えたいと思っている。幼い頃からずっとお慕いしてきた方なのだから。
ただ後宮には戻らず、今は一時的に官女として蒼真様の執務を手伝っている。
というのも、妃は私ひとりでいいと決めた蒼真様によって、後宮が廃止されることになったからだ。
大抵の妃は納得して後宮を去って行ったのだけれど、一部の妃からは反発もあった。……李琳もそのひとりだ。
「李琳はついこの間まで寵妃であったのですぞ! それなのに妃の座を降りろとは……殿下は李琳を侮辱しておられる!」
蒼真様の執務室に入るなりそう怒鳴ったのは、李琳の父。その後ろには扇子で顔の半分を隠した李琳もいる。後宮の解体に関して進言があるというので、蒼真様の執務室にやってきたのだ。
李琳の父親の剣幕にびっくりして私は少し肩を揺らしてしまったけれども、蒼真様は動じることなく構えている。
「帝が変われば妃も変わる。当然のことだ」
冷静な蒼真様の言葉に反論したのは李琳だった。
「ですが朋里は霊力が少ないでしょう? そんな女が産んだ子なんて、とても国を背負えるとは思いませんわ。それに比べて私はたっぷり霊力がありますもの。世間が認める皇太子を産んで見せますわ。それに私、殿下にならたっぷりご奉仕したいと思っていますの」
李琳が大胆にも着物の襟をはだけさせる。
それを見た蒼真様は「見苦しい」と露骨に顔をしかめた。
「妃は朋里ひとりだけだ。俺がそう望んだのだ」
蒼真様のその言葉に、李琳は顔を真っ赤にして襟を直すと、私に扇を突きつけた。
「どうして朋里なの?! 納得いかないわ!!」
「朋里は鳳凰の神子だ。霊力以上に尊い力を有している」
「な、なんですって?! こいつが鳳凰の神子?! 聞いていないわ!!」
李琳とその父が驚愕の表情を浮かべている。
彼らの動揺を物ともせず、蒼真様は「それに」と付け加えて、私の腰を強く引き寄せた。
顔を覗き込まれ、私の視界が蒼真様だけになる。優しい目で見つめられ、私の胸が甘く疼く。
「俺が朋里に心の底から惚れているのだ。朋里がどんな力を有していても関係ない。他の妃になぞ一切目が向かないくらい、朋里を愛しているんだ」
「そ、蒼真様……」
全身の体温がぐんと上がって熱くなった。
生まれてからずっと許婚だった私たち。結婚をするのが当たり前になっていたから、私に対する蒼真様の気持ちを改めて聞いたことがなかった。
私はずっと蒼真様をお慕いしていた。蒼真様も私と同じ気持ちだったなんて。
胸が幸福感で満たされて、言葉がうまく出ずにいると、「ちょっとちょっと!」と金切り声が飛んできて、夢見心地の気分がたちまち吹き飛ばされた。
「なんなのよ、それ! 私の方がずっと美しいのに、霊力だって多いのに、どうしてその女が次期皇后なの?! ありえないわ!」
「そうだ! こんな粗末な娘より、我が娘の方がよっぽど華やかで妃にふさわしいというのがなぜわからないんだ!」
すると蒼真様の表情が一変し、立ち上がって凍てついた目で李琳親子を見据えた。怒りで霊力がほとばしる蒼真様の気迫に彼らが怯んだようにたじろぐ。
「我が妻を愚弄するとはいい度胸だ。よほど命が惜しいと見受けられる」
「ひっ」
「それにおまえたちは妃の立場を勘違いしているようだな。妃に求められるのは華やかさや美貌ではない。民を慈しみ、国を愛する心だ。間違っても税金を横領し、贅の限りを尽くすような人間にその地位はふさわしくない」
「お、横領? な、な、なんのことやら」
李琳の父の目がたちまち泳ぎ出す。蒼真様は容赦なく彼らを睨み上げた。
「おまえたちの悪事の調べはすでについている。横領以外の不正もだが、朋里に対する虐待についてもな」
「虐待だなんてそんな! 私はただ使えない人間に躾をしただけで……」
「黙れ! 俺は朋里を傷つけた者を許すつもりはない。牢の中で己の行いを悔いるんだな。この者たちを連れて行け」
蒼真様がそう告げると、部屋の外で待機していた近衛兵が李琳親子を捕らえた。
「離しなさい! 私を誰だと思っているの?!」
「やめろ! 離せっ! 離せぇぇぇ!」
羽交い締めにされ、なんとか逃れようと暴れる李琳親子だったが、衛兵は一切動じることなく彼らを執務室から追い出したのだった。
亡くなったはずの皇太子が戻ってきたのだ。当然のことだろう。
そしてすぐに、玲瓏国の各州を治める諸侯が緊急招集され、諸侯会議が開かれた。
蒼真様の皇籍復帰は全員一致で可決され、蒼真様は皇帝として即位することになった。
霊獣討伐のために、皇帝命令で無茶な増税や出兵を繰り返していた寿栄に、諸侯たちは腹に据えかねていたらしい。
捕まった寿栄は、皇太子暗殺未遂の罪で宮殿の地下牢に投獄されている。罪なき霊獣の討伐のほかに、なんと前皇帝――蒼真様のお父様の暗殺の疑いもあり、すべての罪が明らかになってから刑が執行されると聞いている。
即位の準備が間に合っていないため、今はまだ皇太子という立場ではあるけれど、蒼真様は寿栄がめちゃくちゃにした政治を立て直すために奔走している。
肥大した税率の健全化、寿栄が荒らした霊獣たちの住処の復興。やることは山積みだ。
私も蒼真様の許嫁として再び宮殿に戻った。鳳凰の神子として、蒼真様をそばで支える役目がある。もちろん私は立場を抜きにしても蒼真様を支えたいと思っている。幼い頃からずっとお慕いしてきた方なのだから。
ただ後宮には戻らず、今は一時的に官女として蒼真様の執務を手伝っている。
というのも、妃は私ひとりでいいと決めた蒼真様によって、後宮が廃止されることになったからだ。
大抵の妃は納得して後宮を去って行ったのだけれど、一部の妃からは反発もあった。……李琳もそのひとりだ。
「李琳はついこの間まで寵妃であったのですぞ! それなのに妃の座を降りろとは……殿下は李琳を侮辱しておられる!」
蒼真様の執務室に入るなりそう怒鳴ったのは、李琳の父。その後ろには扇子で顔の半分を隠した李琳もいる。後宮の解体に関して進言があるというので、蒼真様の執務室にやってきたのだ。
李琳の父親の剣幕にびっくりして私は少し肩を揺らしてしまったけれども、蒼真様は動じることなく構えている。
「帝が変われば妃も変わる。当然のことだ」
冷静な蒼真様の言葉に反論したのは李琳だった。
「ですが朋里は霊力が少ないでしょう? そんな女が産んだ子なんて、とても国を背負えるとは思いませんわ。それに比べて私はたっぷり霊力がありますもの。世間が認める皇太子を産んで見せますわ。それに私、殿下にならたっぷりご奉仕したいと思っていますの」
李琳が大胆にも着物の襟をはだけさせる。
それを見た蒼真様は「見苦しい」と露骨に顔をしかめた。
「妃は朋里ひとりだけだ。俺がそう望んだのだ」
蒼真様のその言葉に、李琳は顔を真っ赤にして襟を直すと、私に扇を突きつけた。
「どうして朋里なの?! 納得いかないわ!!」
「朋里は鳳凰の神子だ。霊力以上に尊い力を有している」
「な、なんですって?! こいつが鳳凰の神子?! 聞いていないわ!!」
李琳とその父が驚愕の表情を浮かべている。
彼らの動揺を物ともせず、蒼真様は「それに」と付け加えて、私の腰を強く引き寄せた。
顔を覗き込まれ、私の視界が蒼真様だけになる。優しい目で見つめられ、私の胸が甘く疼く。
「俺が朋里に心の底から惚れているのだ。朋里がどんな力を有していても関係ない。他の妃になぞ一切目が向かないくらい、朋里を愛しているんだ」
「そ、蒼真様……」
全身の体温がぐんと上がって熱くなった。
生まれてからずっと許婚だった私たち。結婚をするのが当たり前になっていたから、私に対する蒼真様の気持ちを改めて聞いたことがなかった。
私はずっと蒼真様をお慕いしていた。蒼真様も私と同じ気持ちだったなんて。
胸が幸福感で満たされて、言葉がうまく出ずにいると、「ちょっとちょっと!」と金切り声が飛んできて、夢見心地の気分がたちまち吹き飛ばされた。
「なんなのよ、それ! 私の方がずっと美しいのに、霊力だって多いのに、どうしてその女が次期皇后なの?! ありえないわ!」
「そうだ! こんな粗末な娘より、我が娘の方がよっぽど華やかで妃にふさわしいというのがなぜわからないんだ!」
すると蒼真様の表情が一変し、立ち上がって凍てついた目で李琳親子を見据えた。怒りで霊力がほとばしる蒼真様の気迫に彼らが怯んだようにたじろぐ。
「我が妻を愚弄するとはいい度胸だ。よほど命が惜しいと見受けられる」
「ひっ」
「それにおまえたちは妃の立場を勘違いしているようだな。妃に求められるのは華やかさや美貌ではない。民を慈しみ、国を愛する心だ。間違っても税金を横領し、贅の限りを尽くすような人間にその地位はふさわしくない」
「お、横領? な、な、なんのことやら」
李琳の父の目がたちまち泳ぎ出す。蒼真様は容赦なく彼らを睨み上げた。
「おまえたちの悪事の調べはすでについている。横領以外の不正もだが、朋里に対する虐待についてもな」
「虐待だなんてそんな! 私はただ使えない人間に躾をしただけで……」
「黙れ! 俺は朋里を傷つけた者を許すつもりはない。牢の中で己の行いを悔いるんだな。この者たちを連れて行け」
蒼真様がそう告げると、部屋の外で待機していた近衛兵が李琳親子を捕らえた。
「離しなさい! 私を誰だと思っているの?!」
「やめろ! 離せっ! 離せぇぇぇ!」
羽交い締めにされ、なんとか逃れようと暴れる李琳親子だったが、衛兵は一切動じることなく彼らを執務室から追い出したのだった。
