龍王の再愛

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 爺様から結界の抜け道を聞き、私は龍族の里を後にした。
 光に満ちた結界の狭間を抜けると、ふたつの大きな岩の間に出た。霊蓬山の湖のほとりにある、双子岩と呼ばれる大きな岩だ。
 湖の様子を伺おうと岩陰から顔を出そうとした時、周囲がパッと白く光り、大砲を打ったような轟音と同時に湖から巨大な水柱が立った。
 雨のように、湖の水が降り注ぐ。視界を遮る水しぶきの中で目をこらすと、十ほどの真っ黒い人影が見えた。
「なにをモタモタとやっている。早く忌々しい龍が張った結界を破れ」
 おどろおどろしい響きの声が、湖の方から聞こえた。大きな声ではないはずなのに、その声は私の耳元まで這い寄ってきたかのようにしっかりと届いた。
「……寿栄」
 心臓が強張る感覚がした。覚悟をして里を出たつもりなのに、自分ひとりで寿栄に立ち向かわなければならないと思うと足がすくんだ。
「でも、やらないと……」
 自分を鼓舞して、私は岩陰からそっと寿栄たちの隙を窺った。彼らを止めるためには攻撃の機を見誤ってはいけない。
「おまえらではらちが明かない。俺がやろう。だが、もう少し霊力が欲しいな」
「寿栄様……いったい、なにを……う、うわあああああ!」
 私は目をみはった。
 寿栄の手がまるで蛇のように伸びて、呪術師のひとりに巻き付いたのだ。捕えた呪術師を自身の元に引き寄せると、寿永はその呪術師の首あたりに顔を寄せた。
 すると呪術師の体が、みるみるうちに干からびていった。
 ひょっとして、血を吸っている……?
 ゾッとするような光景に言葉を失っていると、呪術師はまるで老爺のように皺だらけになって、無造作に捨てられた。
「呪術師といえど霊力はこんなものか、まだ足りんな」
 信じられないけれど、寿栄は呪術師から霊力を吸い取ったらしい。干からびた呪術師は恐怖を表情に貼り付けたまま、地面に捨てられてピクリともしない。おそらく息絶えてしまったんだろう。
「うわああ!!」
 残った呪術師たちが叫びながら逃げようとする。が、またひとり捕まってしまった。
 このままだと呪術師から霊力を奪った寿栄が、今度こそ龍族の結界を破ってしまうかもしれない。
 私は堪らず岩陰から飛び出した。人を殺めて霊力を奪うなんて残忍な行為を見過ごすこともできなかった。
 胸にしまっていた呪符を一枚取り出す。
 呪符は術式を描き込み、事前に霊力を込めておくことで、少ない霊力でも呪術を扱うことができる霊具だ。今回は無理を言って爺様にも一緒に霊力を込めてもらったから、威力は十分なはずだ。
 霊力を込めると大きな炎が湧き上がった。私の得意な火炎の呪術。勢いよく寿栄へ向かっていく。
 けれども炎に気づいた寿栄が腕を一振りすると、炎はたちまち消えてしまった。
「そんな……」
 命を奪うまではいかないまでも、動きを止めることくらいはできると思ったのに。
 でもうろたえている時間はない。
 私はすぐさま残りの二枚の呪符を取り出した。二枚同時に霊力を込めると、先ほどよりも大きな炎が寿永に向かっていく。
 だが。
「こざかしい炎だ」
 またも寿栄に届かず消されてしまう。
「おまえは……煌 朋里、生きていたのか」
 寿栄が鋭い目で私を見据える。逃げなきゃと思うのに、私の体は金縛りにあったかのように動けない。
「おまえはいつも俺の邪魔をする。本当に目障りなやつだ。今度こそ骨も残らぬよう殺してくれる」
 寿栄の腕が私に向かって伸びる。
 私はとっさにギュッと目を固くつぶった。
「朋里〜〜!!」
 もう逃げられないと思ったその時、なにかにドンッと背中を押されて、私は地面に倒れた。
 まさに間一髪。寿栄の腕を避けられた。
 目を開けると、処刑される前に逃したはずの猫又の豆豆が私の横で転んでいた。
「豆豆?! どうしてここに」
「朋里がこの湖に落とされたって聞いてから、ずっと助けられないか見張ってたんだにゃ! まったく、にゃにが私は大丈夫よ、にゃ! 俺様がどれだけ心配したと……」
 豆豆が目を潤ませる。
「ご、ごめんね、豆豆……でも今はそれどころじゃないのよ!」
「そうだったにゃ! 急いで逃げるにゃ!」
「愚か者が。逃すか」
「豆豆!」
 私たちが体勢を立て直す前に寿栄が再び腕を伸ばす。今度こそ避けられない。
 豆豆だけでも守れるようにギュッと抱きしめる。
(蒼真様――!)
 縋るように、心の中で蒼真様の名前を呼んだ時だった。