歌い手王子の恋愛事情2

「……で、そのまま本屋行って?買い出しして、ミズキんちで鍋して?バイバーイって、帰って行ったと。」

クル兄に確認されるままにこくこくと頷く。
それを見て、はああああ、と地にのめり込むようなため息を吐いてクル兄が項垂れた。
「これ、どういうことだと思う…?」
尋ねた俺を憐れむような目で見てくるクル兄だって、きっと「こっちが聞きてえよ!」と言いたいことだろう。

答えはチカしかわからない。でも本人に聞く勇気が出ないので、俺はこうして事務所で信頼できる兄のようなメンバーに内密に話をきいてもらっているというわけだ。

あの日ーー俺の“理想のデート”をチカが叶えてくれた日から、数日が経っていた。
結局俺の理想のデートは実現したわけだが、何故チカがそれをしてくれたのか、説明は何もなかった。
あの日、俺はずっと、ずーっと、ずーーっと、ドキドキしていて、だって“デート”って、好きな人とするものだよね?友達とか、ましてや仕事仲間と遊ぶ日に、そいつのデートプラン叶えてやろうとか思わなくない?
だからさ、期待しちゃうじゃん!…恋愛の意味で好きになってくれたとかそこまでの贅沢は望んでないけどさ、なんかちょっと最近気になるんだとか、男同士もいけるんじゃないかなとか…そういう…、なんか言ってくれるのかなとか!思うじゃん!!
でも本当に、ほんとーーーに、チカはいつも通りで、すごく楽しそうではあったけど、あいつはいつもそうなので本当に平常運転で、日付が変わる前くらいに、「じゃあ帰るわ」と言って帰っていったのだ。
なんなら、「あ、そうだ、」なんて、最後の最後に振り返るから、やっぱりって、ちょっとドキってするじゃん?そうしたら、
「今度アップする曲、俺のパートそっちに投げてあるから、確認しといて」なんて、めちゃくちゃ事務連絡してスタスタ帰って行った……。

「俺、ほんと自分が恥ずかしい…穴があったら埋まりたい……」
あああああ、と叫んで、座っていた回転チェアをくるくるくるくる回す。
ちょーっとリスナーさんやメンバーからニコイチ扱いしてもらってるからって、ちょっと理想のデートプランかなえてもらったからって、チカの恋愛対象になれたかもなんて考えていた自分が浅ましすぎて、もう消えてしまいたい。そうだ、俺なんか空気になればいいんだ。その辺でぷかぷか浮いてる二酸化炭素くらいが今の俺にはちょうどいいんだ…

「……チカ…あいつあんな顔しといて、絶対童貞だろ…」
悶々と自虐方向へ走る俺を、クル兄はよしよし、と頭を撫でて慰めてくれた。いつもオラついてるけど、こういう時にはほんと優しい。こんなこと、クル兄にしか相談できない。

ぎゅーっと抱きついて、「クル兄大好き。いつも
相談のってくれてありがとう」と頭をぐりぐり押し付けると、お前はほんと可愛いなあ、とぽんぽん撫でられる。

「…ほんとあいつも、関係壊すの怖いとかそんなこと言ってる余裕、ないと思うけどな…」

クル兄の呟きはよく聞こえなかったけれど、俺は少しだけ軽くなった気持ちを抱えて事務所を後にすることができた。