現の主人と影

廊下を進み、案内されたのは、小さな教室だった。

扉を開けると、机と椅子がいくつか並んでいた。

「ここで補講を受けてもらう」

そう言いながら、先生は教室の中へと入っていく。

私もその後に続き、空いている席のそばで足を止めた。

「本当は瀬尾を入れて3人なんだが…。一人は用事があって今日は来られないらしい。もう一人は来ると思うから、少し待っていてくれるか」

「わかりました」

返事をすると先生は教卓へ向かい、手元の書類を確認し始めた。

私は促されるまま席に着き、静かな教室を見渡す。
初めて訪れる場所に、まだどこか落ち着かない。

窓の外に目を向けていると、廊下から足音が聞こえてきた。けれど、それは教室の前で止まることなく、遠ざかっていく。

しばらくして、再び足音が近づいてきた。

今度は、教室の前で止まり、ガラリと扉が開いた。

「すんませ〜ん、遅れました〜」

そう言いながら、一人の男子生徒が教室に入ってきた。

その瞬間、ふと視線が重なり、思わず息を呑んだ。

彼もまた、私を見つめたまま動かなかった。

ほんの一瞬のことだったはずなのに、妙に長く感じられる。

彼の瞳には、驚きとも戸惑いともつかない、何かを確かめるような色が浮かんでいた。

まるで、私に何かを感じ取っているかのようだった。

どうしてだろう。

初めて会うはずなのに、その視線から目を逸らすことができなかった。

「お、多田。早く席に着け。それじゃあ、始めるぞ」

先生の声に、彼はようやく私から視線を外した。

「はーい」

気の抜けた返事をしながら、彼は空いている席へと向かう。

先ほどまでの視線が嘘のように、何事もなかったかのような様子だった。

……なんだったんだろう。

初めて会ったはずなのに、まるで何かを確かめるような、あの視線。

気にはなったものの、それ以上考える間もなく、先生の声が教室に響いた。

こうして、初めての補講が始まった。