現の主人と影

その後、立花さんを家まで送り届け、私たちは相談所へ戻った。

「いや〜、瀬尾ちゃん。ほんまお手柄やったなぁ」

「ほんとだよ…! すごいよ、瀬尾さん! お疲れ様っ!」

多田くんとなおさんが、嬉しそうに声をかけてくれた。

「いえ、私だけじゃ…」

そう言いかけて、あのときの光景を思い出す。

だって、如月が助けてくれなかったら…。

「君たちのおかげで、無事に取り戻すことができた。本当にありがとう」
 
羽月さんの言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。

「ただ…、今回は残念ながら、君の影についての情報を得ることができなかった。それは申し訳なく思っているよ」

「…いえ」

私は小さく首を横に振った。

「そんなことないです。今回のことで、気づけたことがあるので…」

 羽月さんが静かに耳を傾けてくれる。

「私、ずっと焦っていたんです。早く本当の主さんを見つけないと、その人がいつか彼(如月)のことを忘れてしまうんじゃないかって…。そして、彼も…」

私は足元に伸びる影へ視線を落とした。

「でも…彼は、大丈夫だって言ってくれました」

その言葉を思い出すと、不思議と心が落ち着いた。

「だから、私も信じたいんです。彼の言葉も、二人がもう一度会えるってことも」

そして、もう一度羽月さんを見つめた。

「もちろん、早く見つけたい気持ちは変わりません。でも、答えを急ぐことだけが、正しいわけじゃないんだって…今回のことで、少し分かった気がするんです」

「そうか…」

羽月さんは、それ以上何も言わず、ただ優しく微笑んだ。

「あ〜、疲れた〜!」

そのとき、多田くんが大きく伸びをしながら声を上げた。

「ふふっ、多田くんもお疲れ様! でも、まだまだ依頼が溜まってるから、明日からも頑張ろうね…!」

「なおちゃ〜ん、今は仕事の話せんとってよ〜」

多田くんが情けない声を上げると、相談所に笑い声が広がった。

私もつられて、小さく笑う。
今、この場所を満たしている空気が、とても温かかった。

誰かと一緒に笑い合えること。
自分がここにいてもいいのだと思えること。

以前の私には、どちらも遠いものだった。
 
けれど今は、こうして当たり前のように笑っている。

今、この場所を満たす空気がとても温かくて、ただここにいられることが、どうしようもなく嬉しかった。