現の主人と影

一方、その頃。

立花と瀬尾を縁相談所へ送り届けた多田は、一人で高橋のもとを訪れていた。

「あの〜、すんません。高橋さんですよね?」

「え? あ…さっきの」

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、ええですか?」

 高橋は大きくため息をついた。
「はーーーっ。これ(影)のことですか?」

「話が早くて助かりますわ〜」

「元々なかった人間から影を取って、何が悪いんですか?」

高橋は悪びれる様子もなく、鼻で笑った。

「最初から持ってなかったんだから、元に戻ったくらいでおおげさすぎでしょ」

「…元に戻ったくらい?」

多田の声から、先ほどまでの軽さが消えた。

「そうですよ。だって、あいつは最初から影を持ってなかったんだから、いらないでしょ。これから先も」

多田は何も答えず、ただ、ゆっくりと高橋との距離を詰めていった。

「…なんで、それをお前が決めるん?」

「は?」

「なんでお前が、あの子に影が必要ないって決めるんか聞いとるんやけど」

多田の声は静かだった。

高橋は苛立ったように眉を寄せた。

「俺らは普通の人間で、持ってる影もごく一般的な影。あいつも同じ、普通の人間なんだよ。それなのに、俺らより力のある影を手に入れて。もともと持ってなかったんだから、あいつには必要ないんだよ」

多田は黙って高橋を見つめた。

「なくなっても何も変わらんのやったら…お前の影も必要ないよな?」

「は…?」

その瞬間、多田が高橋の影の首元へ手を伸ばした。

『やめろっ!! 優里!!!』

「っ…!」

いろの鋭い声に、多田は我に返った。

高橋は顔を強張らせ、一歩後ずさる。

多田はゆっくりと手を下ろした。
「…次はないで」

低い声で告げると、高橋は逃げるように走り去っていった。

その姿を見送り、多田は小さく息を吐いた。

「…あぁ〜、いろちゃん。ありがとな」

困ったように笑った。

「あのままやったら俺、多分…。ははっ」

『はぁ……まったく』

いろは呆れたように呟いた。