現の主人と影

しばらくすると、足元から猫の鳴き声が聞こえた。

「なぁ〜お」

「あ、クロ!」

なおさんが抱き上げた猫の首には、小さな時計が下がっていた。

どこかで見たような気がする。

「あの…その時計、さっき一階にいた男の人と同じ…?」

「あ、気づいた? あのおじさん、この子なんだよ〜」

「えっ!?」

「まっ、世の中には俺らが知らんことが、ようけあるってことやなぁ」

「え、えっ……?」

そんな簡単に納得できる話なのだろうか。

「あ、ごめんね! びっくりするよね〜」

彼女は猫の頭を優しく撫でた。

「クロコっていうんだけど、人の姿にもなれるの。普段は店番を手伝ってもらってるんだよ」

驚く私をよそに、多田くんは楽しそうに笑っていた。

そのとき、扉が開いた。

「ただいま」

「あ、はづさん! おかえりなさい!」

入ってきたのは、帽子を被った背の高い男性だった。

落ち着いた雰囲気のその人は、私に気づくと、丁寧に頭を下げた。

「お待たせしました。縁相談所の羽月奏多と申します」

「あ、瀬尾りんです……! よろしくお願いします」

「どうぞ、座ってください」

彼は優しく微笑み、向かいの席に腰を下ろした。

「ここは表向きは古本屋ですが、実際には人と影に関する相談を受けています。影を持たない人間も、主人を失った影も、双方を大切にしたいと考えているんです」

その言葉に、私は小さく頷いた。

「それから、彼女は足立なお。多田くんも、ここで働いてもらっています」

「改めまして、よろしくね!」

なおさんが明るく笑う。

「それでは…」

「まっ、世の中には俺らが知らんことが、ようけあるってことやなぁ」

「え、えっ……?」

そんな簡単に納得できる話なのだろうか。

「あ、ごめんね! びっくりするよね〜」

彼女は猫の頭を優しく撫でた。

羽月さんは私へ向き直った。

「今日は、どのようなご相談でしょうか?」

私は膝の上で、そっと手を握った。