現の主人と影

先ほどまでの張り詰めた空気など気にも留めていないように、多田くんはいつもの調子で笑っていた。

「人に話聞くんやったら、まず自分から話すんが筋やんな」
 
そう言って、背後へ視線を向ける。
「俺もな、瀬尾ちゃんと一緒で、もともとは影を持ってなかったんよ」

「多田くんも…?」

「そ。ほんで、ある人らに相談しとったとき、いろちゃんと出会ったんや」

いろちゃんは、SO機関から逃げてきた影だったという。

SO機関。表向きは影を持たない人間と、主人を持たない影を救済する組織。けれど、その裏では両者を対象とした研究が行われていると、以前、如月から聞いていた。

「俺には影必要で、いろちゃんには身を隠すための主人が必要やった。せやから、契約したんよ」

「そうだったんだ…」

「なるほど。君たちを繋ぐ契約の印は、糸なのだな」

「そうそう。まだ契約してそんな経ってへんから、よう見たら、いろちゃんの姿も分かると思うで」

「姿……?」
 言われるまま、彼の背後に目を凝らす。

すると、ただの影だったはずのものに、ぼんやりと人の姿が浮かび上がった。

短く切り揃えられた髪に、凛とした顔立ち。そこには、ひとりの女性が立っていた。

「…見えた」

「ふっ、せやろ? ほんなら、手ぇ見てみ」

彼女の手元へ視線を移すと、薄く霞んだ数字が見えた。

「その数字な、SO機関に入れられた影には、必ず付けられるんよ」

「必ず…?」

どうして、そんなものを付ける必要があるのだろう。
疑問を抱いたそのとき、如月が静かに口を開いた。