現の主人と影

「…うん。わかった」

私は小さく頷いた。

「それと、先ほどの多田という男だが…」

如月はわずかに間を置いてから、静かに続けた。

「多田と、彼と契約している影、そのどちらからも、強い敵意のようなものは感じられなかった」

「…敵意が、ない?」

「ああ。少なくとも、私にはそう感じられた。だが…」

如月の表情が、わずかに険しくなる。

「何を考えているのか分からない以上、無理に関わる必要はない。しばらくは距離を置いたほうがいいだろう」

「うん…」

私だって、できることなら多田くんとは関わりたくない。さっきのことを思い出すだけで、胸の奥がざわつく。

それなのに、

どうしてだろう。

彼のことが、どうしても頭から離れなかった。

多田くんも私と同じだ。
もともと影を持たず、別の影と契約することで、それを持つ者となった。

 私と如月のように。

だからこそ、分からない。
どうして多田くんは、私の影を取ろうとしたのだろう。

ただ欲しかっただけなのか。
それとも、何か別の理由があったのか。

怖い。
もう関わりたくない。

そう思っているはずなのに。

その疑問だけが、どうしても心の奥に残っていた。