「人生は、情報戦だよなっ。よしっ」
〖人を誘惑する方法〗検索
バカ正直な文言だとは思ったが、いじっかしくこねくり回すより、どストレートにいった方がいいと思ったのだ。
「えぇーなに? ……大量にあるんだけど。??五感への刺激?? 視覚・聴覚・嗅覚などの五感を刺激する。非言語、コミュニケーション??」
とりあえず一番最初に出てきたサイトをクリックした。
【初心者必見】あなたもこれで誘惑マスター? 男性をドキッとされる誘惑テクニック5選!!
STEP①目の技術(アイコンタクト)。
じっと見つめた後に、相手が気づいたらふっと微笑んで目をそらすなど、視線で好意を意識させます。
STEP②物理的に距離を縮める。
周囲に聞こえないように顔を近づけて耳元で話すことで、2人だけの特別な空間を作り出します。
STEP③ギャップの演出。
普段は見せないリラックスした表情や、少し隙のある姿(髪をかきあげる、少し恥ずかしそうにするなど)を見せることで、相手の妄想や独占欲を刺激します。
「ちょっとちょっとまって、これって……これ全部したことあるなぁ」
STEP④の声のトーンを落としてゆっくりと話す。も、STEP⑤の香りを味方につける。も、全部全部過去にやったことがある。
要するに、「仕草・態度で誘惑しろ」ということ。やったこと、ある。
「そもそもこれってもしかして、人を恋に落とすための方法かぁ?」
俺の脳内で誘惑=性行為、という最悪なものになっていたがためにこんなことになったが、そうか、別に恋人になる前も誘惑したっていいんだ。
もう脳を取り替えるしかないほどに性行為で侵食された俺の脳内をリフレッシュさせるために、頭をぶん回す。ヘッドバンキングだ。
「……きもちわるい。なんだぁっ……」
〖人をムラムラさせる方法〗検索
思考を絞り出したものがきっといちばんいいもののはずだと、物理的に思考停止を目論み、頭を振りしきったが。
「どストレートじゃん? え? いたっぁ」
あんま変わんなかった。普段から思考を絞り出せているわけではないと思う。ただ単に、俺の思考力が弱すぎるだけだ。
眉間と頭本体を掴んで、なんとかパソコンの目の前に居続けようとする。ロールが付いている椅子のせいでどんどん左右に振れ、余計に気持ちが悪くなった。
クラクラして画面が見えない。グラグラする体を押さえ込みながら適当にサイトを押した。
彼氏をオスにしちゃう♡男性100人に聞いた。思わずムラムラしてしまうのはどんなとき??
「……え゛??」
痰が絡んだ、ガラの悪さを纏った疑問符が飛び出した。まだブレている視界の中に飛び込んできた情報を処理する。
『相手の好意を感じたとき』
日頃から好意を、好きという愛情表現をしている自負がある。毎日毎晩、航みたいにってことではなく、「あっでたっっ!!」みたいな、驚愕のニュアンスを醸し出した感じのやつ。
そんなとき、あいつはムラムラしてたかぁ? していたとしたら、あいつは鉄の理性を持っているということだ。
「学校でキスとかしてくるやつだぞ? そんなもん持ってるわけないだろ」
なしなし。と、脳内で消し去り、検索欄も空っぽにした。今度はきちんと思考を絞り出す。
今が火事場の馬鹿力を出すときですよぉ? ここで出さないとどこで出すんですかぁ?? おれの最大の危機なんですけどぉ??
そう頭蓋骨に収まっている脳に突っつくが、ただ脳脊髄液にぷかぷかと浮き揺れるだけだった。鎮座してくれていないと困るけど、困るんだっ!!
「……同性っていうか、男性同士とかで調べればいいのか?」
〖性行為 誘い方 男性同士〗検索
【オ・ト・ナの性授業】男同士の性行為の誘い方。完全テクニック!! 20〇〇
「『男性同士の場合、最も好まれる誘い方は“ストレートだけど丁寧”です。』ねぇ……。こないだどストレートに聞いて俺が抱く方になっちゃったんだよなぁ」
パソコンの前から逃げ出し、ベッドにダイブした。あの忌々しい目覚まし時計を睨みつけ、時間を見ると調べ物を初めて三時間以上が経っていた。そりゃ腰も痛くなる。
今日は航が最後の大会、全国大会に行っているから家にひとりだ。だからこんなことをあわれもなく、心置きなく調べられるのだが、
「なんも参考にならねぇ~~」
当たり前だが、どちらも抱かれるのを所望している、だなんて話はなかった。つぅが言うように漫画でも小説でも、創作の中でさえ見当たらなかった。どれだけのイレギュラーを抱えているのかを痛感させられただけだった。
「航が頑張ってるときに、俺は何してんだよぉぉ」
汗水垂らしてサッカーに励んでいる時に、俺はバイトで汗水垂らすわけでもなく、ただただバソコンの前に立って呪文のように言葉を入力していくだけ。何だこの対比は。
「航も、こんなこと頑張ってくれてるんかな」
今さら同じようなことをやって実感する言葉の重み。見たことがないからと想像しかしなかったが、到底、想像では達成できないほどの疲労感だった。脳を酷使するというのは、こういうことなのか。
「べつに~~、日頃から酷使していないってわけじゃないけどぉぉ。俺だって曲作ってるしぃぃ」
全く持って別物なのは重々周知だが、俺が持っている手札なんてものはそんなもんしかない。周りにバンドのメンバーがいない脳の酷使がこんなに疲労が溜まるものだなんてとは思わなかった。
「あ゛ぁ~~、相談しようにももうつぅには相談できないし。姉ちゃんにはもっと無理だし。俺って、……もしかしてめっちゃ友達少ない??」
なるべく向き合いたくない事実が着々と背後を取ってくる感覚をして、身震いをする。すると、大会に出発する前に航が洗濯してくれたシーツの手触りをより、感じた。だから、浸った。
冷感シーツから卒業して、新たに生まれ変わったうちのシーツ。ふわふわとまではいかないし、手触りも滑るようとはいかなくなったが、ほんの少ししかいない秋の気配を感じるから案外好きだったりする。
「ひかる、」
ただ、航が洗濯しただけ。それだけなのに、航の気配を感じられる気がしてシーツに溺れていく。無意味に匂いなんか嗅いだりして、でもやっぱり、ただのうちの柔軟剤の匂いで。
「……ひーちゃん、」
航の匂いを欲して手を伸ばした先には、航のジャケットがあって。きっとこれはまだ、洗濯していないはず。
ジャケットの襟元に鼻を擦り付けて思いっきり吸い込んだ。航の粒子が体内に侵入していく。航の粒子を可視化することができたとしたら、俺の身体全体はそれに侵食されていることが丸わかりだと思う。頭のてっぺんからつま先まで、航色で。
航の色がどんな色かはわかんないけど。おれだけしかしらない色であってほしい。
「…………ひか、ちゃん」
身体が航の匂いに反応して手を伸ばしたのか、思考はまだ生きたままだったのか。どっちでもいいか。
だって、身体が反応しているのは事実だから。
俺がムラムラしちゃってんじゃん。あっ、まだ思考は生きていた。
手を伸ばし――
「――――ひかるっっ!!」
ひっこんだ。
今、俺の目の前にいるのが、俺が会いたすぎてつくりだした幻視ではないことは、航がブチ開けたドアの衝撃による風でよくよく、わかった。
はっ!!、としながら航のジャケットを隠す。「これはーこれはー」なんて言い訳のなりぞこないしか出てこないのに航はどんどん近づいてくる。
「あれっ? きょう、の、夜とかじゃなかった?? かえるの。ずいぶんとはやっ――うっ」
どんどんという足音に似合う重さが肩に乗り、身体全体を包み潰してくる。痛みも伴う強さに航の実感が強まった。
手を伸ばして俺も抱き締め返したいのに、腕まで包まれていてそれは叶わない。ピクリと俺が動く度に、それに返すようにピクリと包み潰されかえされた。
「ひかる、どうしたの。ひーちゃん? ひかちゃんっ!」
どんな呼び方、声色を使っても反応のしない航に、「疲れてるんだね」だけの反応はこっちも返せなかった。
息遣いに、匂いに、翻弄を許してしまっているから。
「かいと、」
「~~~~ッ」
応援でだろうか、航の低音に掠れたハスキーの要素が付け足されてより一層、衝撃がクる声になっていた。思わず反応した身体も押さえつけられるもんだから、体内を渦巻き漂い留まる。消化不良でどうにかなってしまいそうだった。
「……~~おふろっ!! おふろはいろっ、ひかる!!」
いろいろなものにやられてしまう前にお風呂に入らせたかった。航もきっと入りたいはずだ。帰ってきて直ぐにお風呂に入りたがる航がここにいる時点で異例中の異例なんだから。
「~~おっも、」
180オーバーの意識の乏しい大男を運ぶのは同じ性別だったとしても大変だ。引きずる形で申し訳ないが、つま先は少し、すり減ってもらおう。
「はいはいはい、バンザイしてください。ばんざぁーい」
まだ救いは聴覚の機能は停止していないことだった。バンザイと言えば、腕が上がった。肘が曲がっていて非常に脱がしにくいが、いろいろ、マシだマシ。
「お客さんごめんなさいねぇ。おズボン脱がしますからっ……ねぇ…………」
「…………はい、る? これ。……にんげん、…………イケる??」
みたことがないわけではない。だって、おふろにはいっしょにはいってるもん。でもまじかにはみたことがないだけだ。ごきりつしているのはみたことがないだけ。
…………けっして、びびってはいない。
「ああ、……うん」
生存本能。疲労を超えたなにかはそれはそれはご立派で。悲しくなるくらいに、ご立派で。そりゃそうなんだけど。考えてみれば、そりゃそうだ。180オーバーの身長ならそれに比例して大きくなる。あたりまえだ。あたりまえなのに。
……こういうことを考えていられなかった自分に呆れて、ため息が出る。……魂くらい出でくれよぉ。
……もし抱いてくれたとしても、入らないかもぉ。
「どうしぉ……」
あからさまなテンションの降下を感じながらも足からズボンと下着を脱ぎとる。
ここで思考をぶん回したとしてもどうにもならないけど、……ならないけどねえ!!
「……かいと、」
「はいはい、」
上から降ってくる声で思考を止めてくれたことに感謝しながら立ち上がった。止めるストッパーがなかったら永遠と続けてしまっていたかもしれない。
「だきたい」
「…………へ?」
俺が求めていたはずの四文字なのに、申し訳なさが溢れて止まらないのは、おれのせいだ。
疲労を超えて出てくる人間としての本能。それを目の当たりにして出てくるのは罪悪感だった。この本能を発揮することは俺が生きているうちはない。そう考えてしまっている、おれのせい。
でも、そんなことわかったうえでふたりだけで生きていこうと決めた。わかれるきなんて、いっさいない。
「ぶしゅっ」
「あっ! ごめん!!」
色んな感情を整理していたら気がついたら時間が経ってしまったらしい。真っ裸で脱衣所で棒立ちさせられた航がくしゃみを落とす。
さてさて、The細マッチョを視界に入れないといけない拷問の開始だ。どう頑張って肉も脂肪もつかないこの体を恨めしく思ってたってどうにもならないからなんも考えない。かんがえない。
さすがにガリガリまではいかないが、カリッという感じの自分の体。それを見下ろしながら航をシャワー室に入れた。
「さてと、」
シャワーの温度が適温になったのを自分の腕で試す。加減を間違えて自分にもかかってしまった。もう服はびしょびしょだ。
「えーい。服持ってきてないよ。あっ! 航のも。わすれてたぁ」
張り付いた服を引っ張りながら思考を巡らす。
今ならまだ、被害は最小限でいけるか? でも、もう濡れてるしどうしようもないか?
口から出たような気もするし、ちがう気もする。どっちにしろ、航の意識を起こしたのには変わりなかった。
「……ひかる?」
前のめりになって、立位前屈みたいな格好をしていた俺の背中に、航が乗ってきた。腕とか、頭とか、そんな一部じゃなくて、ひかるが、乗ってきた。
……大変宜しくない体勢になってしまっているから立て直したいのだが、てこでも動かない。腰も痛いし、首も痛いし、……あたってるし。
欲情を直にぶつけられていることに喜びを感じている時点で、俺の役割は決まっているも同じだった。
「あぁ、もうこんまま洗っちゃお」
この体勢のまま、自分も濡れるのも、もういいや。どうせ今さら変わんない。シャンプーして、コンディショナーして。……体洗う? どうやって??
背に腹はかえられぬ。起きてんのか寝てんのかもわかんないけど、起きろっ。
そう思いながら俺は背中の重みをそのまま利用して、航の身体をズルズルとシャワー室の壁に押し付けた。
「たてっっ!!」
衝撃が、感覚が背中を伝う。
「たった!!」
某アルプスの少女が立ったバリの声を出してしまった。お風呂だから余計に響く。今さらが先程から多いが、口を塞いだ。
さっきは起きろなんて思ってたのに、今は言い訳を考えるのがめんどくさくなって意識なくしてろって思っている。
まぁ、とりあえずどんな仕組みかはわかんないけど、立った。
……他にも元気にたってるのもあるけど。
「――洗わないわけにも、いかないよなぁ」
直立不動な航の体を洗い終わった。ある部分を除いては。
……洗うのは刺激にはならない? もっと元気は、ちょっと……
ゴシゴシ洗う派の俺はどうすればいいのか、わからなかった。もちろん、人の性器など洗ったことなんてない。これからもないと思ってた。でも、洗うとしたら航だよなァ。
結局、泡立て器でボディーソープを泡立てて、本当に撫でるように、赤ちゃんを洗うより優しく洗った。
「もう、やんない。絶対シャワー浴びてやる」
ひと仕事を終わらせたところではない疲労感を、特に腰に感じながら汗を拭う。この風呂場があったかいとかそんなんじゃ説明しきれない汗の量を滴り落しながら、自分と航の部屋着を持っていこうと足を、踏みならした。
「――――ぃたっ、ぇっ?」
俺から出た声がなんなのだったはわからない。だって言葉を発する前に航に呑み込まれたから。
「?!……ひ、かっ……ッ……!?」
叩きつけられるように重ねられた唇はいたかった。いたくないはずの古傷がいたむ気がした。歯を押し込ませる勢いに、息なんてできるはずがない。
勝手に跳ねる身体を抱き潰されて、勝手に唇に隙間を開けてしまう。その隙を逃されるはずなんてなく、口内中のすべてを荒らされ奪われた。声も息も唾液も、航によって反応させられたすべてを奪い去られていく。
壁ドンなんて生暖かいものじゃ表しきれない拘束に、心臓を複数人で足蹴りされていた。
瞼を閉じても航がいて、どっちにしろ「おれだけを見ろっ」を実感させられる。航が、いる。
あついあつい。ぜんぶがぜんぶが。ひかるがおれが、あつい。
ぜんぶが航に染められて頭が狂いそう。
舌がすり減ってしまう。出せない声の種類なんて、言わなくてもわかる。航にしか出せないものだから。
「ぷはっ、はあはあ」
冗談じゃなくて、ほんとうに持久走を走ったあとみたいな息の切れ方だった。視界が歪んでいるのか空間が歪んでいるのかわからなかった。俺たちふたりの熱気で空間が歪んでしまったのかも。
玉となってふたりの間を行き来する唾液を見つめることしかできない俺に、航は容赦ない。
「ちょっ、ちょちょちょ!!」
理性が溶けきっけ欲望と愛憎が濁った綺麗とは言いきれない瞳で見つめられる。そのそばに俺の第二の目さえなければ素直に見とれることができて、溺れることができたのに。
「あっ、ふくのう、えから?」
味なんてしないはずなのにコロコロと舌先で遊び、味わうもんだから「食べ物で遊ばないのっ」って、言ってしまいたくなる。まったくもって味わっているものは食べ物でもなんでもないし、可愛くないんだけど。航がかわいいから。
「う、わぁ、あかちゃんみてぇ」
吸い付かれ、甘噛みされ、つねられる。そのすべてを快楽だとはまだ言えなかった。でも、いえないからこそこんなことを考える余裕があるんだと思うと、まだ、よかったと思う。
「ひかっ!!??」
やっぱり俺がこっち側じゃないか!! 航はやはり穴を求めている。
ズボンを下ろそう腰周りに巻き付き始めた大きな手を押さえ込みながらそう思う。
いい。このまま雪崩れ込んでしまいたい。覚悟なんてものはないけど、航ならだいじょぶだから。
心の準備は万端だ。
だから、…………体の準備だけさせてっっ!!!!
残念ながら「はいシたい。はいシましょう」なんて機能は持っておらず、体の準備というものが俺たちには必要だ。そして、残念ながら俺はその用意を行ってはいない。っていうか、はじめてだ。知識は実は航より持っていると思うが、実行には移したことがない。
そんな最悪な状況で、どうにか航のこの高鳴りを維持しながらの準備する。という、恋人になってからの最大級のミッションが、俺に課せられた。
「いたっ」
「えっ?」
「え?」
「――――…………こ、こっろしてくださぁぁああいぃぃぃぃ」
「――――……へっ?」
……正気に戻っちまったぁ?!
千鳥足で、実際に滑りながらお風呂場から抜け出した航を呆然と見ながら思った。
おいおれっ! 我慢しろよぉぉ!! ちょっと強く噛まれたってそのくらいぃ。
航の力加減が甘噛みから辛噛みくらいになっていた。でもっ、服の上からだったし、反射的に出たけで、べつにそんなにいたかったわけじゃない。
航もいないのに心の中での言い訳が止まらなかった。
ワンチャンまだいけるか?
三歩くらい遅れながら早足で戻ったその先には、
土下座をしたが航が、いた。
「あっダメだ」
要らん軌跡が見える足跡を踏みしめながら思う。
「疲れて正気じゃなかったとはいえ、かいとにあんなっ……あんなことッ……、もう二度とっ、……二度と触らないからっっっっ!!!! す゛みませ゛ぇぇぇ゛えんっっ!!!!」
「――――はああぁぁぁぁ゛あ゛?!?!」
