のこり5日、ロスタイムなし

午前12時、順平のスマートフォンに電話が入った。
寝ていた順平は目を細めながら相手を見るが、登録されていない番号だった。受話器を押して、「もしもし」と答える。

「あ、福内君? もう家の前にいるから」

スピーカーで話しかけられているが、思い当たる人物が浮かばない。サイドテーブルの電気をつけて、目をこする。

「誰だ?」
「僕だよ。保泉だよ。早く準備して」
「あー……嫌なら来なくていいんじゃなかったんか?」
「やっぱり来てほしいなと思ってさ」
「強制かよ」

順平は頭をかいて体を起こす。時計を見ると、まだギリギリ両親が起きてる時間だ。

「親に聞いてくるから、ちょっと待ってろ」

1階に降りて、酒盛りしているであろう両親に声をかけようと思った。しかし、居間にいたのは姉だけだった。

「父さんと母さんは?」
「仕事があるから、もう寝たわよ」
「姉貴はいいのかよ」
「いいのよ。会社、クビになったんだから」

姉は酒をぐいっと飲んで、おかわりを手酌で注ぐ。

「俺、聞いてないんだけど……」
「言ってないもの」
「アイツのせいか?」

注いでいた酒がぐい飲みから溢れたが、構わず飲み干し、また注ぐ。飲み続けるかと思ったが、姉は酒臭い息を吐いた。

「あっちの方が成績優秀だったし、私も適応障害になっちゃって普通に働けなくなったから仕方ないことね。暫く失業保険があるから、それで次を見つけるわ」

まるで他人事のように話す姉に、順平は拳を握る。

「なして言ってくれなかったんだよ!?」
「言ってどうにかなるの?」
「どうにもならないかもしれないけどさ!全部、アイツのせいなんだろ!どうして、姉貴ばっかり背負うんだよ!」

姉はぐい飲みを机の上に置いて、順平を見た。深々と頭を下げる。

「アンタに言わなかったことは、ごめんなさい」
「別に謝ってくれとは言ってない」

「そう」と姉は頭を上げ、申し訳ない顔をしていた。
姉は昔から何事も家族に相談して、隠し事は体重だけで人情もありながらも傍若無人な姉は、面倒くさい所もあるが家族としては大切な一人だった。そんな姉が、傷ついて弱ってしまった。
あの男が姉を捨てて何もお咎めがない所か、姉を追い出して自分の地位を守った。順平は、拳を強く握る。姉は、順平の怒りを察して肩に手を置いた。

「でも、私とあの人のことは、アンタには関係ないから気にしなくていいから」

順平は、肩に置いた姉の手を払った。

「俺は家族じゃないのかよ!」
「そうは言ってない。でも、これは私とあの人の問題で、アンタは何も悪くないし、関係もない。だから、これ以上は私のことなんて気にしなくていいから!」

自分はズケズケと他人の心の領地に入ってくる癖に、自分が入られた途端にハッキリとした拒絶する。順平の頭の中でプチンと切れた音がした。

「出ていく」
「は?」
「俺、出ていく」
「えっ? ちょっと、どういうこと!?」

順平は2階に上がって荷物を適当に詰め込み、姉を振り切って外に出た。「ちょっと、待ちなさいよ。ジュン!」と姉も後から出ると、若葉マークがついた4人乗りの真新しい黒のセダンが家の前に止まっていた。順平は助手席に乗り込んで「出していい」と言ったが、賢一は無視して「おはようございます、福内君のお姉さん」と姉ににこやかに挨拶をした。姉は瞬きをして、賢一に声をかけた。

「貴方は、ジュンの知り合い?」
「はい。同じクラスの保泉賢一です。福内……順平君とは、仲良くさせてもらってます」

賢一は持っていた学生証と免許証を姉に出した。

「どこに行くつもりなの?」
「僕の兄貴たちのところへ」
「お兄さんたちはどこに?」
「神奈川、富山、京都、愛媛、鹿児島です」

流石の姉も若干引いていたが、賢一はニコニコとした笑顔のままだった。

「遠いわね。どうしてそんな所に?」
「いやぁ、うちの兄貴たちが家業を継いでいたんですけど、半年前に理由も言わずに全員出て行っちゃっていましてね。電話やメールでの連絡が全然取れないんですよ。でも、行き先は教えてもらったので、直接理由を聞きに行こうかと思いまして」
「どれぐらい掛かるの?」
「分かりませんが、卒業式の1週間前までには帰ってくる予定です」
「そう。軍資金はあるの?」
「えぇ、家の仕事で稼ぎましたので。あ、車の保険もちゃんと入っているんで、大丈夫ですよ」

姉は少し考えていた。大人なら、こんな無茶な旅は止めるべきだろう。しかし、順平と賢一の顔を見て、「ちょっと待ってて」と家に入った。1分ほどで戻ってくると、ファンシーな体操着入れを差し出した。

「保泉君、これ持ってって」
「これは体操着入れ?」
「お守りよ。そこのダッシュボードの中にいれておいて、二人が困ったときに使って」
「分かりました!」

姉は順平を見るが、順平は無視している。姉は、賢一と目を合わせた。

「うちの両親には私から伝えておくから、二人とも気を付けてね」
「はい! あ、うちの親父かお袋から連絡着たら、兄貴たちのところって言っておいてください」
「言っていいの?」
「はい!捜索願出されると面倒なので。それと、車パチったことは後でちゃんと謝ると伝えておいてください」
「分かったわ。いってらっしゃい」

姉は穏やかに手を振り、賢一も「いってきます」と姉に手を振るが、順平は何も言わなかった。高校時代、最後の旅行はこうして始まった。


*


車のラジオから放送終了のアナウンスが流れた。順平は不機嫌なままだが、賢一はニコニコした笑顔のままだった。ラジオが終わり、ザーと音が流れる。沈黙に耐えきれなくなった順平が「なぁ」と声をかけた。

「俺たち、どこに向かってるんだ?」
「苫小牧。そこから出てるフェリーで、茨城の大洗で降りる」
「なんで茨城なんだよ。神奈川なら、東京に降りたほうが近いだろ」
「東京湾って速度制限あるから、めっちゃ遅いんだって。だから東京降りるより、大洗に降りたほうがいいって、親父の友人が言ってた」

順平がスマートフォンで、乗るであろうフェリーを調べる。ホームページを開いて、運行状況を確認した。

「もしかして、ひまわり号か?」
「そうだよ」
「今日と明日は、天候不良で欠航だぞ」
「ウソォ!?」

賢一は急ブレーキをかけて、近くの路肩に止めて確認する。トップページに天候不良のため、欠航と書かれていた。2人でスマートフォンを使ってルートを検索すると、先に順平が案を出した。

「室蘭から青森までのフェリーがある。こっちは欠航してないが、出発は20時だ」
「他のルートは、函館からになるのか。函館に行こうか?」

札幌から函館までのルートを調べると、到着予定時刻は4時間を超えていた。順平は首を横に振った。

「いや、無理せずに室蘭に向かって、時間までネカフェで寝るぞ」
「別に疲れてないよ」
「今は大丈夫だろうが、これから疲れは溜まっていく。無理しない方がいい」
「一理ある」

順平は、室蘭で仮眠できる所を探し、住所を提示した。賢一は、カーナビにネットカフェの近くにある駐車場の住所を入力した。

「じゃあ、室蘭のネカフェへ、レッツゴー!」

賢一は意気揚々としているが、順平は眠くなってきた。
順平はゲーマーではあるが、小児喘息を患った時から規則正しい生活を送るようにしている。いつもなら深い眠りについている時だが、同級生が運転している中で眠るわけにはいかない。1時間ほど車に揺られながら気合で起き続け、ネットカフェの店内に入った。

「身分証はありますか?」

順平は持っていた会員証を出し、初めて利用する賢一は学生証を出そうとして順平が止めた。

「お前は免許証だけにしろ」
「えっ。それだと学生料金使えないじゃん」
「この時間は、高校生だけは入れないんだよ」
「よく知ってるね」
「昔、姉貴とクソ男と3人で、深夜にダーツをやりに来た時に教えられたんだよ」

学生一人、一般一人。別々の部屋にしようとしたが、近くでイベントがあった影響で1部屋しか空いてなかった。眠りたかった順平は、それでもいいと同意し、男二人でネットカフェの部屋に入った。賢一が、「ねぇ」とレンタル毛布と枕を借りている順平に声をかけた。

「クソ男って誰なの?」
「姉貴の元彼氏。7年付き合って、結婚式の予約までしたのに、別の女と結婚した」
「それはクソだね」

部屋に入り、順平はすぐに横になった。隣に寝転んだ賢一は、順平の顔を見るが、当の順平は寝顔を見られたくないと、毛布を深くかぶった。

「姉貴は精神病んで、会社をクビになったと、家を出る前に聞いた」
「じゃあ、君が怒っていた理由はその男の人の関連?」
「そうだ。でも、俺に黙ってたことが一番腹が立った」

半分眠りかけの順平は、賢一の質問に素直に答えた。

「受験生だとしても、姉は家族だ。大切な人の一大事に、他人の振りなんて出来るわけないだろ」
「……君は優しいんだね」
「別に、優しく……なんてない。気に、なったから……」

それから順平は寝息を立てて眠る。賢一は、順平の寝息を聞いて自身も毛布をかぶって眠りについた。


*


昼過ぎまで眠り続けた二人は、ネットカフェを出て、チェーン店のバーガーショップでランチを食べながら、20時までどう過ごすかを考えていた。順平はしなしなになったポテトを摘まみながらスマートフォンで観光を調べており、賢一は4つめのバーガーを頬張っていた。

「せっかく室蘭まで来たし、なんか観光するか?」
「何かあるの?」
「近くに鳴り砂っていうのがあるらしい。あと海岸と岩」
「海岸と岩を見て、何が楽しいの?」
「さぁな」

順平はスクロールして次の記事を読もうとした時、父親から聞いた話を思い出した。

「絵鞆臨海公園、行ってみるか」
「どこにあるの?」
「白鳥大橋の近くだ。そんなに遠くないから、行ってみるか」
「行こう、行こう!」

席を立って、目的地を入力して、車で20分ほどで到着した。
絵鞆臨海公園は、夕方から夜に掛けてライトアップされた白鳥大橋が美しいことで有名な観光地だ。また昼間でも、青空と青い海の間に純白の白鳥大橋が掛かっている風景は、一見の価値がある。

しかし、2人が来た日は生憎の雪だった。白い雪が降る中では、白鳥大橋の白さも形無しである。順平は、白い息を吐きながら「なんか地味だな」と呟いた。しかし賢一は、笑っていた。

「でも、凄い橋だね」
「まぁな」

順平は、もう一つの目的地に歩いて向かう。少し歩いて着いたのは、八の字型の金属のオブジェの間に鐘がついている。順平は鐘についている鎖を躊躇なく握った。

「よし、保泉。旅の祈願を願うぞ」
「願い事を叶えるタイプの鐘?」
「幸福を叶えてくれるタイプの鐘だ」

順平は近くの石碑を指さしたので、賢一が『幸福の鐘』と読み上げる。賢一が怪訝な顔をしていた。

「鳴らすだけで、本当に幸福になるの?」
「分からん。でも、うちの父親はこの鐘を鳴らした帰りに、階段から転げ落ちそうになった母親を受け止めて出会ったらしい」
「それは力がありそうだね」
「出会いがあるかどうかは知らんが、旅が無事に終わることは祈っておこう」
「……そうだね」

お互いに鐘を鳴らし、ついでに写真も撮影した。そのあとの時間は、近くの水族館を見に行った。展示は少ないが、アザラシとトドのショーは見ごたえがあった。案内のお姉さんが「アザラシとトドって、どう違うかご存じの方いますか?」と声をかけると、賢一が真っ先に手を上げた。

「耳たぶの有無!」
「正解でーす!」

賢一は「よし」とガッツポーズをする。

「よく知ってるな」
「兄貴が持ってた海洋図鑑に書いてあった」
「ほー」

それからアザラシとトドは、つぶらな瞳と愛嬌のあるポーズを振りまきながらショーを進めていった。最後に餌やり体験ツアーの参加を希望するかどうかを水族館の従業員に聞かれ、賢一は順平のほうを見た。

「エサやりする?」
「お前がしたいならする」
「うーん。まだお金に余裕があるけど、どうなるか分からないからなぁ。でも、あげてみたい気もするんだよなぁ」

悩んでいる賢一に、順平が案を出した。

「どうせ北海道に戻ってくるんだろ。また青森から室蘭のフェリーで帰ってきた時に、金銭的に余裕があればすればいい」
「それもそうだね」

従業員に断り、2人は土産コーナーも見ずに外に出た。夕食はスーパーの安いパンにしようかと思ったが、賢一はフラフラとラーメン屋から香るカレーに吸い寄せられ、室蘭名物のカレーラーメンを食べる羽目になった。順平が賢一の肩を小突く。

「節約するんじゃなかったのか?」
「名物は食べたいじゃん」

えへへと賢一は笑い、順平は呆れながらもカレーラーメンを食べ進めた。ラーメンベースにカレー粉が合わさったものだが、喧嘩せずに調和がとれた美味しいラーメンだった。食べ終わった後、順平はスマートフォンで長めの文章を打って、送信した。賢一がのぞき込む。

「なにしてるん?」
「親にこれからフェリーに乗るって連絡入れた。電話にしようかと思ったけど、色々と言われそうだったからショートメッセージにした」
「へー」

まるで他人事のように賢一は流したが、順平は流されなかった。

「お前は連絡しないのか?」
「連絡入れたら車パクった件で怒られそう。この車、去年買った新車で『今度、叔母さんたちに自慢する』って何度も言ってたからね」

賢一が乗ってきた車は、ボロボロの軽トラと違って新しいなと思っていたが、まさか新車だとは思わなかった。

「そんな車を持ってきたのかよ」
「他になかったんだよ!軽トラだと車内で横になれないし、母さんの軽自動車だと2人乗りの超ミニの車だから旅行には向かない!レンタルも考えたんだけど、田舎だから顔覚えられているから、隠れて借りられないじゃん!」

必死に叫ぶ賢一を見て、順平はいじわるそうに笑った。

「お前、帰ったら大目玉だな」
「ついでに拳骨3つ。あーあ、帰りたくないよ。全く」

会計を終えて外に出ると、雪がやんでいた。雲が晴れて、真っ赤に染まった夕焼けが世界を包む。北海道を離れるもの悲しさを感じながら、港へ向かった。


*


話し合っているうちに港に到着した。20時の室蘭から青森行きのフェリーは、等級によって部屋が個室かどうか決められる。とにかく安く済ませようと、雑魚寝が出来る安い等級を選んだ。学生料金が適応されるらしく、更に安く済んだ。フェリーには車ごと乗り込み、指定された部屋に向かった。閑散期も相まってか、客は順平たちと2人だけだった。船が大きく揺れ、出向したとアナウンスが流れた。順平が横になりながら館内案内のチラシを読んでいると、賢一も横から覗き込んでいた。

「実は、僕フェリー初体験なんだよね」
「いや、俺も初だわ」

賢一は、「嘘!?」と目を丸くしていた。

「中学の修学旅行は、青森だったんじゃないの?」
「中学の時は、病気で入院して行ってない。高校は飛行機で千葉の夢の国だったし、受験も飛行機で東京だ」
「そうなんだ。病気のほうは大丈夫なの?」
「肺気胸だから、今は大丈夫だよ。あっ、風呂あるみたいだから入ろうぜ」
「あぁ、うん……」

2人は、2階の展望浴場に向かった。服を脱いで中に入る。他に客がいないので、貸し切り状態だった。順平は髪と体を洗い、浴槽に入って窓の外の風景を楽しもうとした。しかし夜の海は何も見えず、ガラス越しの夜の暗さを見るだけだった。遅れて賢一も風呂に入る。

「…………」
「…………」

長い沈黙。うっすらと館内音楽が聞こえるが、船の走行音に紛れている。車内の時と同じだが、風呂の熱さもある。今回は賢一が痺れを切らして、「あのさ」と声をかけた。

「これ言っていいか悩むんだけどさ」
「なんだよ、言えよ」
「じゃあ言うけど、君って結構細いよね」

賢一の言う通り、順平は線が細い。
白い肌にあばらが浮き出ており、身長は平均より少し下ではあるが、その体の細さが背の低さを感じさせない。学生服を着ている時は平均的な体格に見えるのだが、服を脱ぐと衣を2枚ぐらい脱いだかと思うほどだ。手首が細いことは賢一も知っていたが、まさかここまで細いとは思わなかった。順平は、ドヤ顔で答えた。

「細いんじゃない。人より筋肉がちょっと少ないが正しい」
「無理があるよ」

呆れていた賢一に、何か言ってやろうと順平は体をじっと観察する。
賢一の身長は180センチを超えていて、農家をやっているお陰か筋肉がそれなりに付いている。顔も悪くはないが、順平たちのクラスには少女漫画から出てきたような整った顔の男たち3名に比べたら、平々凡々。アイデンティティーの栗毛色の髪と緑色の瞳も全く役に立たないと女子たちから言われていた。

「確かにお前ほど恵まれた体型じゃないな」
「僕、恵まれてるかな?」
「恵まれてるだろ。180超えてるのも凄いが、握力80㎏の方がやばい」

賢一は、「えへへ」と笑うが、順平は過去の出来事を思い出して笑えなかった。

「お前が教室で、リンゴを腕力だけで潰してリンゴ果汁100%ジュース作った時は、流石に引いた」
「あぁ、あれね。森山先生にやってみてって言われたから、やってみただけなんだよね」
「担任に言われてやったのかよ」
「うん。3組の田淵先生の実家、リンゴ農家で毎年贈ってくるんだって。でも量が多すぎて、ジュースにしようとしたんだけど、絞り機もミキサーも学校にないからって、森山先生が僕に渡してきた」
「生徒にやらせるなよ」
「それは同感」

賢一は両手で水鉄砲を作り、ブシューと天井に吹きかける。大きな手としっかりと筋肉が付いた腕を見た順平は、腕をつかんだ。

「何食ったら、その筋肉が付くんだ?」
「野菜と肉と魚と卵とその他もろもろを、腹いっぱい食べる」
「全く参考にならんが、ありがとう」

順平がへこんでいると、賢一が順平の腕を掴む。掴んだ瞬間に片手でひん曲げられそうだと思ったのか、やんわりと握った。

「ほ、細くても元気ならいいじゃん」
「確かに元気だけど、この体重だと肺気胸になりやすいんだとさ」
「体重何キロ?」

順平はすぐに答えようとした。しかし、姉貴や両親たちに体重を答えた時に『細すぎ!』『もっと食べろ!』『私にその痩せ方を教えろ!』と色々と言われたことを思い出す。

「よ、45㎏」

2キロ増やしてみた。これでどうだと順平は賢一を見た。賢一は生温かい目をして、順平の腕をさすった。

「美味しいラーメンスープが取れそうだね」
「誰が鶏ガラだ」

順平が風呂から上がろうと、立ち上がった時だった。

「おわっ!?」

船が大きく揺れて、油断していた順平は浴槽の中に頭から飛び込んだ。賢一が急いで引き上げると、ゲホゲホと順平はむせていた。

「ゲホッ、お湯飲んだ」
「立てる?」
「なんとか。ゲホゲホ!」

咳が止まらない。察した賢一に肩を貸してもらい、出口に向かう。視線が下を向いていた順平は、あることに気が付いた。男同士ならトイレで見たことあるものなのだが、それは明らかに自分の一部とは違った大きさと太さをしていたのだ。理解できない順平の頭の中に宇宙空間が広がる。気が付けば着替え終わって、水を飲んで、賢一から借りたUFOに吸われている牛が描かれたブランケットを掛けて、雑魚寝していた。

「福内君、どうしたの?」

賢一に声をかけられ、宇宙空間にいた思考回路が戻ってきた。同時に自分の情けない体の一部を服の上から少し触ってため息をついた。

「なぁ、成長期って何歳までだ?」
「18歳ぐらいで終わりだって、親父から聞いた」
「そうか……そうか……」

順平は顔を覆って、嘆いた。
保泉賢一。何もかもがデカい男だった。