ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

ヒロインこと白百合さんを前にして、オレはどう出るべきか迷っていた。
これは『友人キャラ』になるための大切な一歩だ。
初動を間違えれば、主人公にざまぁされる『噛ませ犬キャラ』ルートが開いてしまうかもしれない。
ヒロインとの仲を取り持つのも、友人キャラの役目。
そのためには、ヒロインからもある程度の信頼を得る必要がある。近づきすぎず、拒絶もされない距離を目指せ。
慎重に出方を考えるんだ。

大きく深呼吸し、目の前の美少女へ話しかけた。

「白百合さん、初めまして。オレは有真瑛。よろしくね」

まずは無難に自己紹介。
余計なことは言わず、相手の反応から最適な接し方を探る。
初心な感じなら優しく。気高い感じなら礼儀正しく。
さあ、白百合さんはどう来る?

「まあ! あなたが有真くんですのね。酒神くんから聞いていました。白百合聖です。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

白百合さんは胸の前で手を打ち、瞳を輝かせた。昴、白百合さんにオレのことを話したんだ。一体、何を話していたのだろう。疑問は残るが、想像していたより話しやすそうな雰囲気だ。
これなら、必要以上に身構えなくてもいいだろう。

「気軽に瑛って呼んで」
「では、お言葉に甘えて、てる君とお呼びしますわ。私のことも、お好きに!」
「じゃあ、ひじ……白百合さんで!」

危ない。いつもの癖で、呼び捨てにするところだった。
ヒロインをいきなり呼び捨てなんて、馴れ馴れしいにもほどがある。適度な距離感、超大事!

「はい! よろしくお願いしますね」

彼女は満面の笑みを浮かべた。誰もが癒やされる、紛れもない天使の笑顔だ。今のところ、オレの印象は可もなく不可もなくといったところだろう。少し軽いヤツ、くらいかもしれない。

(何これ、マジで友人キャラっぽくね?)

自分の可能性に期待しつつ、それを顔に出さないよう会話を続ける。

「困ったことがあったら、オレも頼って」
「ありがとうございます!」

白百合さんは変わらず、笑顔を向けてくれている。
総評。第一回『友人キャラ』ミッションは、ひとまず成功と言っていいだろう。
いい距離感で、二人を応援できそうだ。しかし、後ろで様子を見守るクラスメイトたちの評価は違った。

「やばい……絵になりすぎる」
「あの少女漫画みたいな空間に、誰が入れるっていうのよ!」

ざわつき始める教室。優しく微笑む亮介。
「お幸せに~」と口だけを動かし、満面の笑みを浮かべる翔馬。
ファーストペンギンとしてオレを送り出したくせに、誰もこちらへ来ようとしない。
セカンドペンギンはどこへ行った。
その時、後ろの扉が開き、長身の黒髪男子が入ってきた。

「瑛」
「あ、昴!」
「酒神くん」

オレと白百合さんの声が重なる。

「いた! 入れるヤツ、いた!」
「心臓に毛が生えすぎてるだろ」
「氷河期を越せるくらい剛毛」
「アイツ、実はすげぇヤツなのでは!?」

クラスメイトの声など気にせず、昴は近づいてくる。

「白百合さんと何を話してたの?」
「自己紹介して、これからよろしくねって」
「そう」

返事はそれだけだった。

もしかして、白百合さんが他の男と話していたから嫉妬している?昴って案外、独占欲が強いのか?
オレは何の気もないぞ。むしろ二人を応援してるぞ。
そんな念を送っていると、隣から可愛らしい笑い声が聞こえた。

「ふふふ」

白百合さんが口元を押さえ、淑やかに笑っている。
何が面白かったのかは分からない。
その笑顔を見たクラスメイトたちは、声にならない悲鳴を上げていた。

「実はクラスのみんなが、白百合さんと話したいって言ってて。ね、みんな」

振り返ると、クラスメイトたちは一斉に頷く。

「まあ、嬉しいですわ」

白百合さんは頬へ手を添え、ニコリと微笑んだ。

「酒神くんは、てる君に御用がおありのようですし、私は皆さんにご挨拶してきますわね」

席を立ち、固まっていたクラスメイトたちのもとへ自ら歩み寄っていく。

「てる君、ありがとうございます!」

輪の中心から顔を覗かせ、オレへ手を振ってくれた。
眩しい笑顔。これがヒロインの破壊力か。手を振り返すと、隣に残った昴がオレの名を呼んだ。

「瑛」

窓際に残されたオレたちは、教卓の前に集まる群衆を眺めながら話すことにした。

「白百合さん、めっちゃいい子そうじゃん」
「……まあ、そう、だね」

歯切れの悪い返事が気になり、問いかける。

「昴的にはどうなの?」
「……え?」
「白百合さんのこと、どう思ってんのかなって」
「別に。ちょっと、色々重なる部分があるだけ」

ちょっとなのか、色々なのか、どっちだよ。昴が戸惑うほど、何かがある関係なのだろうか。ますます気になってきた。

「ほほう~! もっと詳しく聞かせろ!」

昴の肩へ腕を回し、根掘り葉掘り聞こうとする。

「なんで」
「昴に春が来そうなんだぞ。こんな熱い展開、見逃せるわけないだろ?」
「……そんなんじゃ、ない」

昴は目を逸らし、ボソリと呟いた。茶化してしまったことを反省し、真面目な声で告げる。

「オレ、いつでも相談に乗るからさ」
「いらないよ」

肩を軽く叩くと、吐き捨てるように返された。第一回『友人キャラ』昇格チャンス、失敗。しかし、オレはめげない。

「オレ、経験も知識もある方だと思うから。いつでも待ってるよ」

そう言って、親指を立てる。彼女がいたことはないが、告白された経験はある。何より、ハーレムラブコメはオレの大得意分野だ。

「は?」

昴はドスの利いた声を出した。ため息を吐いたあと、オレのブレザーの袖を掴む。

「……俺は一途なんで、間に合ってる」
「ふぅん」

白百合さんに?そう尋ねてタジタジにさせようとする悪魔の心を押し潰し、短い声だけを漏らした。

(昴はモテるし、ハーレム適性も高いと思うけど)

オレはニヤリと笑い、昴の目をじっと見つめた。