ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

漫画しかり、ライトノベルしかり、ゲームしかり。
一人の男を複数の美少女が取り合うハーレムラブコメ。
それは創作界の大巨頭で、伝統ともいえる王道ジャンル。
オレはそれが大好きだ。
誰もが憧れる存在、ハーレムラブコメの主人公。

自分がなりたいなんて、そんな贅沢なことは言わない。
ただ、近くでそれを見ることが出来れば。
例えば……友人キャラだったなら、なんて幸せなんだろう。
主人公の良き理解者であり、背中を押す存在。

***

主人公は教室の窓側、一番後ろの席から気だるげに外を見つめる。
決して目立つタイプではない。真面目な雰囲気を持たせる黒髪。やや長めの前髪から切れ長の目が覗く。
ごく普通の平凡な男子高校生。
ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴ると、主人公はスクールバッグに机の中の物を詰めていく。
チラチラと対角線上にある席の様子を伺いながら。
廊下側一番前の席には人だかりができていた。
しばらく時間が経って、その席に群がっていた人間は各々散っていく。主人公の目は、やっとその輪の中心を捉えることが出来た。
主人公はおもむろに立ち上がって、一歩ずつ、眩しい金髪に近づいていく。
ゴールを前に立ち止まって、せかせかと大きなスポーツバッグに荷物を詰め込む友人に声をかけた。
「瑛(てる)、一緒に帰ろ?」
支度に集中していたのか、友人の肩はビクリと跳ねる。
「あ、わりぃ、オレ、今日部活なんよな〜」
友人は咄嗟に視線を主人公の方に向けると、申し訳なさそうに断った。
「そっか」
主人公の声は明らかに落ち込んでいる様子で、友人はそれを瞬時に察していた。
「オレが落ち着くまで待っててくれたんだろ?それなのに、ごめんな。明日はオフだから一緒に帰ろ!じゃぁな!」
友人はそんなフォローの後、主人公の肩をポンポンと叩き、颯爽と去っていく。
「まあ、忙しいよな。青春が服を着て歩いてるみたいな、ザ・光属性だし」
友人が去って一人になった教室で、主人公はぼそりと呟いた。
眩しい光を辿って行くように、主人公も友人の背中を追いかけるように歩く。そのペースはゆっくりで、走り去っていた友人との距離はどんどん離れるばかり。

主人公がグラウンドの横を通る頃には、友人はとっくにそこに着いていて、大きなカバンをベンチの上に置いて、ここでもたくさんの部員に囲まれていた。

「……陽キャ、すご」

そんな彼を横目に帰路に就く。

主人公の視線に気付いたのか、友人はフェンス越しに大きく手を振りながら声をかける。

「あ、昴(すばる)!また明日な!」

そんな太陽のような笑顔に、主人公は少し恥じらいながら小さく手を振り返す。
主人公は『がんばれ』と声を出さずに口の動きだけで彼に伝え、彼に背中を向けた。
その時だった。

「きゃぁぁぁぁっ!」

そんな悲鳴が聞こえ、主人公は咄嗟にその声の方へ視線を向ける。
主人公の頭上で起こっている状況は信じられないものだった。
空から金髪の美少女が落っこちて来ているのだから。

「……いや、これ……さすがにまずいヤツ、だよな」

主人公は怪我をすることを覚悟で落下地点に飛び込む。
衝撃を予感して主人公は思わず目を閉じた。

「っ!」

数秒後、予想していた通り、広げた両腕に何かが収まるのが感じ取れた。
恐る恐る目を開けて、腕の中にいる美少女に一声をかける。

「あの、大丈夫?」
「……はい!お陰様で。助けていただき、ありがとうございます」

鈴を転がしたような美しい声。
高い鼻にパッチリとした二重、大きな目。
サラサラとした美しい金髪に、青い瞳。
主人公はそんな彼女を、お姫様抱っこする形で受け止めていた。
その状況に少女は顔を赤らめて、美しい額を両手で覆った。
主人公もそれを察したのか、パッと手を離して彼女と一定の距離を置く。

***

……そのシーンがあまりにも様になりすぎている。
フェンス越しにその光景を見ていた主人公の友人・有真 瑛(ありま てる)はその時に悟った。

「空から美少女が降ってくる展開とか、ハーレムラブコメのテンプレ展開すぎんだろ」

と。