土曜日もそのまま天海のマンションに泊まって、俺は日曜の夕方に家に帰った。後ろ髪をひかれる思いだったけど、学校の準備があるし、仕方ない。
「あ、お兄! なんで帰ってこなかったの? どこに行ってたの? お兄のくせに、彼女できたとか?」
帰宅してリビングに荷物を下ろしていると、四つ年下の妹・美月がドタドタ音を立てて二階から降りて来た。
「え、ていうかさ、お兄そんな服持ってたっけ。なんか、高そう。お兄の服って、いつももっとダサいじゃん」
そうなのだ。さすがにパンツはコンビニで買ったが、昨日も今日も、天海の服を借りている。シンプルなスポーツブランドのTシャツだけど、俺が着るとオーバーサイズもいいとこだ。
「うるせえなあ、お前は。友達の家に泊まってて、服も借りたんだよ」
「あらイク、おかえり」
美月と話していたら、ドラッグストアのパートから母さんが帰ってきた。
「ただいま。あのさ、母さん。料理、教えて欲しいんだけど……豚の角煮、作れるようになりたくて」
「角煮? いいけど、なんで?」
「泊めてくれた友達、一人暮らしでさ。なんか、ロクなもん食べてないみたいだから、お礼に食事、作りたいなって……できれば、火曜までに作れるようになりたいんだけど……」
「えー。怪しい! やっぱり彼女じゃないの?」
母さんと話していたら、美月が茶々を入れてくる。
「ちげえし! 男だし! そいつ、すげえ勉強できるから夏休みの間に勉強見てもらう約束してて、水曜からまた泊まりに行くんだけど、そのお礼もしたくって」
嘘である。でも、もしも時間があったら、勉強を教えてほしいう気持ちは、ないこともない。
「ふうん、つまんないの。でもお兄の学校って、あんま偏差値高くないよね」
こいつ……。美月の憎まれ口ラッシュに顔が引き攣る。つい二、三年前までは本当に可愛い妹だったのに、なんでこんなに憎たらしいのか。
まあでも、小学校高学年の女子なんて、こんなもんか。健全な成長だと思って、さらっと流すべきだろう。
「うるせえ。学校の奴じゃねえよ。えっと、母さんが覚えてるかわかんないけど、小学校の頃にサッカーチームが同じだった天海雄飛って奴……そいつの家、病院からも近いから、夏休み入ったらしばらく泊めてもらう約束してて」
「えっ、天海君? 覚えてる、覚えてる。たしか中学受験で星霜に行ったのよね。優秀よねえ……あそこ、高校の偏差値が七十を超えてるんでしょう? サッカーも上手だったし、文武両道ですっごく目立つ子だったから、やめちゃってからも同じ小学校のお母さんたちから噂を聞くことが多かったのよ。へええ、天海君ねえ、がっつり勉強教えてもらってきなさいよ!」
天海の名前を出すと、母さんが大袈裟なほど驚く。あいつの噂って、母さんも知ってたんだ。
すげえな、と思う反面、よく知らない大人の間でも完璧って噂なんかされて、天海って息苦しくないのかな……と少し心配になる。
「でも、一人暮らしって珍しいわねえ。そういえば天海君のご両親って、練習でも試合でも見かけたことがなかったかも……お迎えの車は来てたと思うんだけど……泊めていただくほどお世話になるなら、ご両親にご挨拶しておきたかったなあ」
「え? 天海の親、試合も観に来てなかったの?」
「うん。天海君てエースだったじゃない。だからお母さんも、自分の子がこんなに活躍してるのに観に来られないなんて、ご両親はお忙しいんだろうなって思ってたの。あと、もったいないなって。お母さんなんて、イクが元気に走ってるの見るだけでも、すごく嬉しいもの」
母さんの親バカ発言に苦笑いしつつ、俺が天海の家に対して持った違和感は正しかったのかもしれない、と思う。
だって、ベンチ入りできなかったチームメイトの親だって、試合は観に来てたぞ。俺だって、親は来てくれるのが当然だと思っていた。
毎回スタメンだった天海の親が来なかったなんて、そんなことってあるのか?
「それにしても、すっっごく綺麗な子だったわよねえ……天海君。ねえ、今もやっぱりイケメンなの?」
「え、なになに! おイケの友達がいるの? 写真見せてよ」
イケメンという言葉に反応して、今まで興味なさげに爪を弄っていた美月が、目を輝かせて話に入ってくる。
「写真なんかねえよ。んまあ、こう成長するよなあって見た目だったよ。正統進化って感じ?」
「そっかあ、やっぱりイケメンなんだあ。で、あんたはその天海君に勉強を教えてもらうと。じゃあ、材料買ってくるから、夜ご飯、豚の角煮にしましょっか。お母さんも間接的にイケメンに餌付けができるということで、気合が入るわねえ」
母さんは料理を教えることを快諾して、さっそく買い物に行ってくれた。
天海の写真がないと知った美月も、つまんないと文句を言いながら二階の自分の部屋に帰っていった。
「あ、お兄! なんで帰ってこなかったの? どこに行ってたの? お兄のくせに、彼女できたとか?」
帰宅してリビングに荷物を下ろしていると、四つ年下の妹・美月がドタドタ音を立てて二階から降りて来た。
「え、ていうかさ、お兄そんな服持ってたっけ。なんか、高そう。お兄の服って、いつももっとダサいじゃん」
そうなのだ。さすがにパンツはコンビニで買ったが、昨日も今日も、天海の服を借りている。シンプルなスポーツブランドのTシャツだけど、俺が着るとオーバーサイズもいいとこだ。
「うるせえなあ、お前は。友達の家に泊まってて、服も借りたんだよ」
「あらイク、おかえり」
美月と話していたら、ドラッグストアのパートから母さんが帰ってきた。
「ただいま。あのさ、母さん。料理、教えて欲しいんだけど……豚の角煮、作れるようになりたくて」
「角煮? いいけど、なんで?」
「泊めてくれた友達、一人暮らしでさ。なんか、ロクなもん食べてないみたいだから、お礼に食事、作りたいなって……できれば、火曜までに作れるようになりたいんだけど……」
「えー。怪しい! やっぱり彼女じゃないの?」
母さんと話していたら、美月が茶々を入れてくる。
「ちげえし! 男だし! そいつ、すげえ勉強できるから夏休みの間に勉強見てもらう約束してて、水曜からまた泊まりに行くんだけど、そのお礼もしたくって」
嘘である。でも、もしも時間があったら、勉強を教えてほしいう気持ちは、ないこともない。
「ふうん、つまんないの。でもお兄の学校って、あんま偏差値高くないよね」
こいつ……。美月の憎まれ口ラッシュに顔が引き攣る。つい二、三年前までは本当に可愛い妹だったのに、なんでこんなに憎たらしいのか。
まあでも、小学校高学年の女子なんて、こんなもんか。健全な成長だと思って、さらっと流すべきだろう。
「うるせえ。学校の奴じゃねえよ。えっと、母さんが覚えてるかわかんないけど、小学校の頃にサッカーチームが同じだった天海雄飛って奴……そいつの家、病院からも近いから、夏休み入ったらしばらく泊めてもらう約束してて」
「えっ、天海君? 覚えてる、覚えてる。たしか中学受験で星霜に行ったのよね。優秀よねえ……あそこ、高校の偏差値が七十を超えてるんでしょう? サッカーも上手だったし、文武両道ですっごく目立つ子だったから、やめちゃってからも同じ小学校のお母さんたちから噂を聞くことが多かったのよ。へええ、天海君ねえ、がっつり勉強教えてもらってきなさいよ!」
天海の名前を出すと、母さんが大袈裟なほど驚く。あいつの噂って、母さんも知ってたんだ。
すげえな、と思う反面、よく知らない大人の間でも完璧って噂なんかされて、天海って息苦しくないのかな……と少し心配になる。
「でも、一人暮らしって珍しいわねえ。そういえば天海君のご両親って、練習でも試合でも見かけたことがなかったかも……お迎えの車は来てたと思うんだけど……泊めていただくほどお世話になるなら、ご両親にご挨拶しておきたかったなあ」
「え? 天海の親、試合も観に来てなかったの?」
「うん。天海君てエースだったじゃない。だからお母さんも、自分の子がこんなに活躍してるのに観に来られないなんて、ご両親はお忙しいんだろうなって思ってたの。あと、もったいないなって。お母さんなんて、イクが元気に走ってるの見るだけでも、すごく嬉しいもの」
母さんの親バカ発言に苦笑いしつつ、俺が天海の家に対して持った違和感は正しかったのかもしれない、と思う。
だって、ベンチ入りできなかったチームメイトの親だって、試合は観に来てたぞ。俺だって、親は来てくれるのが当然だと思っていた。
毎回スタメンだった天海の親が来なかったなんて、そんなことってあるのか?
「それにしても、すっっごく綺麗な子だったわよねえ……天海君。ねえ、今もやっぱりイケメンなの?」
「え、なになに! おイケの友達がいるの? 写真見せてよ」
イケメンという言葉に反応して、今まで興味なさげに爪を弄っていた美月が、目を輝かせて話に入ってくる。
「写真なんかねえよ。んまあ、こう成長するよなあって見た目だったよ。正統進化って感じ?」
「そっかあ、やっぱりイケメンなんだあ。で、あんたはその天海君に勉強を教えてもらうと。じゃあ、材料買ってくるから、夜ご飯、豚の角煮にしましょっか。お母さんも間接的にイケメンに餌付けができるということで、気合が入るわねえ」
母さんは料理を教えることを快諾して、さっそく買い物に行ってくれた。
天海の写真がないと知った美月も、つまんないと文句を言いながら二階の自分の部屋に帰っていった。
