幼馴染でも友達でもない、いけすかない男と可愛いあの子

「雪村 行(ゆきむら いく)だっけ? 俺がお前だったら、諦めるかなぁ」
 
 あいつが俺に初めてかけてきた言葉だ。
 それに殴られて、短く刈り込まれた芝の鮮やかな緑が一瞬で色を失って見えたことを、今でもはっきり覚えている。
 ノンデリの極み、性根の腐ったピノキオ野郎、大人にはいい顔をする二枚舌の風見鶏。そんな言葉がぴったりのクソガキだったんだ、あいつは。
 本当に最悪な出会いだった。同じジュニアサッカーのクラブのエースストライカーで、優等生のあいつ。
 通ってる幼稚園も小学校も違くて、サッカー以外に接点がなかったから知らなかったけど、勉強もできるんだって、イケメンで理想の息子でなんたらって、大人たちが噂してた。
 確かにツラはちょっとよかったかもしれない。
 黄色がかった薄茶色の虹彩の中に、ひまわりの花弁を写し取ったような放射模様が広がる綺麗な瞳の持ち主で、洋画に出てくる美形の子役俳優みたいだった。
 けど、中身は論外だ。大人には愛想笑いと丁寧語を振りまいて、俺に対してはいつも突っかかってきやがって。
 だいたい初対面で「お前レベルだったら、サッカーやってても意味ない」なんてことを、嫌味たらしくオブラートに包んだつもりで言ってくる奴、まともなわけない。
 だいたい初めて会った時は、俺もあいつも幼稚園の年長さんだったんだぞ。可能性の塊だろうが。
 けど一番ムカつくのは、ムカつくあいつが、本当は誰より俺を見て、評価してくれてたことだ。
「雪村さあ、なんで足が速いの、活かさないわけ? 欲しいもんばっか追っかけてないで、自分の武器を見ろよ」
 小学三年になる前の春に言われた、あいつのあの言葉がなかったら、俺はサッカーを続けていただろうか。
 幼馴染と呼ぶには一緒にいた時間が短くて、友達と呼ぶにはお互いのことを知らない。
 なんて呼んだらいいのかさえ、わからない関係だったあいつ。
 小学四年の終わりに中学受験するからってチームを辞めちゃって、それきり会ってない。
 あいつと出会っていなかったら、俺は夢を追いかけられていただろうか——
 そんなことを思うのは、あの言葉を支えにここまで来たからで、今が結構、辛いからなのかもしれない。