「やーばーい・・・」
「なんか蒼、最近塾で色々言われているみたいだけど大丈夫?」
「全然だいじょばない」
学校の昼休みで机に突っ伏していると、礼司が心配そうに声をかけてきた。その明るい声が今の俺にとってはあまりにも胸焼けしそうなほど苦しい。
まず最初は聞き込み調査だと思い、予備校の同級生の子たちにどこ出身か聞きまくる製造機と化してから一週間。気がつけば同じ予備校の他校生から変な目で見られることになった。その結末に似合わず、もちろん成果はついてきていない。学校の面々はほとんど中学から一緒のメンツだから出身地も誰一人間違えず言うことができるし、というか他県から来た人がほぼいない。
あやりちゃん曰く、両親に怒ってその許嫁の家族がこのあたりに引っ越してきたことを知ったらしいけれど、なんせこのあたりは人口があまりにも多すぎる。同級生だなんてゴロゴロじゃなくてゴロゴロゴロゴロといるレベルだ。そこから地方出身者なんて探すのも難しそうだ。
[ぴかゆ]こと由佳にも相談した。
「私がそれを拡散してもいいんだけどさ・・・暴露系が関係してるとなると世間から冷たい目を向けられてしまいそうなんだよね、そのあやりちゃんの許嫁さん。私それが怖くてできない」と言われてしまった。
「なんかやってるの?」
「ちょっと人探しをしててさ」
「行方不明!?いなくなった人の特徴は?写真は!?いつ頃いなくなったの!?」
「いや行方不明ではあるんだけど事件性のないものでさー」
ところどころあやりちゃんが頼んできたことや許嫁の人の特徴を抜き取り、かいつまんだ情報だけを伝えると礼司はなるほど、と言った。
「じゃあ、やっぱりSNSの力を使うほかないんじゃないか?」
「例えば?」
「うーん、SNSのコンテンツと言ったらやっぱり猫とか犬とかの動画?」
「それだ!」
「え?」
「今日放課後猫カフェに行こう!」
***
「だめだ全然伸びない・・・」
「犬とか猫の動画って、正直飼い主との掛け合いも大事になってくるだろうから・・・」
「じゃあなんでそれを勧めてきたんだ」
「俺が犬とか猫の動画よく見るからかな」
頼んだ手前、あまり強くは言えない。全く増えない最新動画のアナリティクスの数字をぼーっと見ていると、美月からメッセージが入った。
「ねぇ蒼くん!?幼馴染くんとデートしたの!?」
「なんで分かるんだよ」
「蒼くんのSNSのアカウントで猫カフェの動画何個か上げてたじゃん?
幼馴染くんが映り込んでいる動画がプチバズしてるよ!?俺と会えてないからってずるいよ!」
美月のメッセージを見てからすぐさまその動画を探して見ると、明らかに一つだけ再生回数が時間を置いて増え始めているのに気がついた。おそらく、おすすめ欄に載ったらしく、更新すればするたびに反応が増えていく。
「このイケメン誰!?」
「てかこの制服ってあの中高一貫の進学校じゃない?」
増えつつあるコメント欄を礼司に見せる。その瞬間、礼司の顔がみるみるうちに明るい表情へと変わっていく。以前美月を見て「誰の目にも留まるような人間になれれば自信を持ってあの子にふさわしい男になれるのかな」と寂しそうな目をしていた礼司を思い出す。今から俺が考える策を行えば、俺にとっても礼司にとってもウィンウィン間違い無しの結果につながるかもしれない。
「礼司さ、SNSのアカウント作ってみないか?」
「え?」
「俺にSNSアカウントの運営をさせてくれ!頼む!」
この通り!と手を合わせて頼むと礼司は少し目を輝かせていた。俺には礼司をプロデュースする自信がある。長い間見てきた幼馴染だけでなく、毎日のように恋リア出演者のSNSを追ってバズる撮り方や流行りのものを取り入れるのに自信がある。これが一番この状況を打開できる唯一の方法なのかもしれない。
「進捗はどうですか?」
「いや、始めたばっかりにしては伸びはいいんだけど・・・」
礼司のアカウントを作り始めて2週間。この期間でフォロワーは1000人を超えた。まずまずの結果だろうけれど、このままだといつまでかかるのかわからない。フォロワー数が何百倍もいるあやりちゃんですらその許嫁を探し出せていないのだから俺達はまだまだだ。
「そろそろ次のテストが迫ってきてるからさ、俺も蒼もそろそろテストに集中したほうがいいんじゃないか?」
「そうだな・・・」
結果的に前回のテストは奮闘して順位が7位に終わった。その結果を見て母さんは俺に今回も期待しているらしく、できれば成績はあまり落としたくはない。俺が渋々頷くと、「またテスト終わったあとにやればいいだろ」、と明るく俺の肩を叩いた。
「それじゃだめなんだよー!!」
SNSっていうのは続けて投稿することに意味があるのに期間が空いてしまっては意味がない!!と本人に伝えたかったけれどもやはり学生の本分は学業だから仕方がない。もどかしくて辛い。
「わ、蒼くんどうかしたの」
「ごめんつい」
夜遅くの予備校が終わった後、偶然近くを通りかかった美月が車で俺の家まで乗せてくれるとのことだった。おそらく、今日のは嘘できっと俺が終わるのを待ってくれていたんだと思う。なぜなら、仕事のときにつけるあの香水の匂いがしないから。今回は俺が美月の方に身を寄せ、頭を彼の肩にもたれてみた。
「お、珍しい」
「前みたいに頻繁に会えてないから、やっぱり俺お前と会えて嬉しいんだなってわかった」
「素直な蒼くん、心臓に悪いかも。俺も一つ言いたいんだけどさ」
美月がそういった瞬間、車がトンネルに入る。その瞬間目に美月の手があてがわれて、ふわっと唇に何か柔らかいものがあたった。目元から手を離されると、そこはもうトンネルを抜けていた。
「えっと、今なんか話してた?」
「あ、ごめん、言おうとしたんだけどつい手が出ちゃった」
「言葉と行動が合ってないんだよなほんと」
「あ、えっとね、言おうとしてた言葉はね、さすがにSNSで幼馴染くんを撮りすぎていると妬けるっていうか」
「それを先に言えよ」
今度は俺が言いたい言葉の代わりに彼の手をぎゅっと握って大丈夫だよと伝えた。美月みたいに上手く指を絡ませることができなくてところどころ大きい美月の手に2本の指が絡まってかっこつけることはできなかったけれど。そんな俺を見て美月は満足そうに笑った。
***
そこからテスト期間に入り、SNSの活動は一旦停止した。勉強の合間に見ていると頻繁に反応されていたインプレッションがどんどんと減速していくのが目に見えてわかった。やはり俺にはあやりちゃんの許婚を見つけることも、幼馴染の願いを叶えることもできないのか。それでも勉強に集中しないといけない。そんなジレンマに悩まされ、テストが終わっても爽快感を得ることができないテスト最終日、帰路につこうとしていたところに美月のとは違うけれど見覚えのある車が停まっているのに気がついた。
「蒼くん!」
「あやりちゃん?」
「早く乗って!」
隣をバンバンと叩いて俺を早く乗るように促す彼女は、目が血走っていた。
「たつきくんから昨日あなたが頑張っているからちょっとは譲歩してあげてってスマホをみせながら言われたのね」
「うん」
美月は俺の見えないところであやりちゃんに交渉をしてくれていたらしい。それすらも嬉しくて少し口角が上がりそうになるのを「ちょっとニヤけるのやめて、今私の話を聞いて」とピシャリと静止されて口角がはじめの位置に戻った。
「で、このアカウントを見せられたの。これあなたが運営してるのよね?この人だれ!?」
「なんで?」
「いいから答えて!」
あやりちゃんは礼司のこと何か知っているのだろうか、それともスカウトをしに来たのかな。
「こいつ、俺の幼馴染なんだけど。なんで?」
「ねぇ、この人今どこにいるの?」
「ちょ、俺の質問は「いいから!」
「ごみ捨て当番だったはずだから今掃除終わってゴミ捨て場にいるのかな?」
「案内して!」
あやりちゃんはすぐ車から降りると、「早く!」と俺の降車も促した。頭の中がはてなマークでいっぱいだけれど、あやりちゃんを追いかけるように校舎へと走る。あやりちゃんは走りながらさっき押して押した俺の質問に答えた。
「この人が私が探していた人なの!」
最短ルートでゴミ捨て場へと案内する。正直芸能関係の人を学校に案内する妄想は一度くらいはしたことがあるけれど、その最初がゴミ捨て場だなんて、誰が想像するだろうか。俺達がゴミ捨て場に着くと、そこには一人でゴミ箱にゴミ袋を入れている幼馴染が見えた。
「蒼?どうかした?なんでそんなに走ってるんだ?」
「ハァ、お前に、会わせたい、人がいるんだけど、」
後ろを振り向くと、彼女が足がもつれそうになりながらも俺たちの方へと走ってきてくれているのがわかる。足がしんどいのか下を見続けていた彼女が俺達の声に気づくと前を向いて、そこで少しずつ息を整えながら近づいてくる。
「れいちん?れいちんだよね?」
「え、その呼び方は・・・あーちゃん?」
あやりちゃんはその声を聞いた瞬間、礼司の方へと駆け出した。しかし礼司は、「俺今ゴミ触ったばかりだから!汚いから!」と制止しようとするけれどあやりちゃんはお構いなし。そのまま礼司へと飛びついた。
「ずっとずっと、会いたかったんだから。どうして私を置いて行ったりするの」
「本当にごめん」
あやりちゃんはその言葉を聞いて、大粒の涙を流した。俺が前に見た怒りを含んだ表情ではなく、本当に満たされたときに流すような喜びの涙を。ずっと好きだった人と会えて結ばれて、この二人はきっと俺が大好きな恋愛リアリティーショーと同じくらい苦しんでそれでも愛に満ちた二人の恋愛ドラマがあるのだろう。それは俺には一部始終しか知ることができない。それは二人だけのステージなのだから。
「約束通り、今日の9時破局報告をすることにするね」
その後ゴミ捨て場から(礼司は一旦手を洗いに行って荷物を取りに行ったけれど)三人とも車に戻る。今度は俺が助手席に座ってこのカップルを特等席から眺める。あやりちゃんはすっきりした顔で美月に連絡をとった。本人は今授業中で連絡がつながらなかったけれど美月のマネージャーさんに電話をして破局報告の約束を取り付けていた。
「嬉しいような淋しいような」
「あなた私たちカップルのこと応援してたもんね」
「え!?あーちゃんカップルだったの!?え!?それを蒼がしっ?知って?え?」
「・・・あー、礼司への説明は任せた!じゃあ俺はここで」
「ちょっと!?あのー蒼くん!?」
助手席のドアを勢いよく開けてそそくさと学校の最寄り駅まで走る。目的は俺のメロドラマのステージに一緒に立っていてほしいあの推しさまの学校だ。たまには俺から待ちに行くのもいいのかもしれない。
たつあやの破局報告はそれはそれは荒れた。さすがに別れた理由をお互いの知名度アップのためからきたビジネスカップルだったからと正直には書かなかったけれど、たつあやの正統派王子様とお姫様カップルの破局の悲しみはしばらく続いて、二人の個人活動のインタビューでも別れて後悔はないかと必ず聞かれるほどだった。しかし、二人とも後悔はしていないときっぱり言ったこともあり、ファンは少しずつ立ち直り始めているという。
あれから礼司はSNSの運営が功を奏し、あやりちゃんと同じ恋愛リアリティーショーに参加して無事に正式にカップルとして認められた。たつあやカップルの亡霊たちは今やれーあやカップルに夢中だという。
「蒼くん、何見てるの?」
美月の広すぎてもはや落ち着かない部屋のソファでテレビを見ていると、シャワーを浴びた後の美月が出てきた。濡れた金髪の髪の毛が美しいし、先程まで香っていた仕事用の香水の匂いが消えて安心感が出る。
「んー?今度から始まる新しい恋リアの予告」
「本当に恋リア好きだよね!俺最近連ドラとかに出始めるようになったのにそっちあんまり観てくれないじゃん!」
「んー?ちゃんと観てるけど」
「一回だけじゃん!」
「恋リアのときみたいに何回も観てくれないと!」
そう言いつつも、今日の美月はなんだか嬉しそうな顔をしている。常に口角が上がり、眉毛もずっと垂れ下がって、まるで飼い主に褒められた犬みたいだ。
「美月、今日なんか嬉しいことでもあった?」
「え?わかる!?実は家の人から連絡があってさ、母さんが俺のドラマ観てくれてるんだって!
「え!やったじゃん!」
「俺がこうやって頑張れているのは蒼くんのおかげだし、恋リアのおかげでもあるし・・・色々感謝してもしきれないや」
「その感謝は俺にメロドラマのようなときめきをもって返せよな」
「御意」
そう言って美月は俺の頬に手を添えると優しくキスをした。
「なんか蒼、最近塾で色々言われているみたいだけど大丈夫?」
「全然だいじょばない」
学校の昼休みで机に突っ伏していると、礼司が心配そうに声をかけてきた。その明るい声が今の俺にとってはあまりにも胸焼けしそうなほど苦しい。
まず最初は聞き込み調査だと思い、予備校の同級生の子たちにどこ出身か聞きまくる製造機と化してから一週間。気がつけば同じ予備校の他校生から変な目で見られることになった。その結末に似合わず、もちろん成果はついてきていない。学校の面々はほとんど中学から一緒のメンツだから出身地も誰一人間違えず言うことができるし、というか他県から来た人がほぼいない。
あやりちゃん曰く、両親に怒ってその許嫁の家族がこのあたりに引っ越してきたことを知ったらしいけれど、なんせこのあたりは人口があまりにも多すぎる。同級生だなんてゴロゴロじゃなくてゴロゴロゴロゴロといるレベルだ。そこから地方出身者なんて探すのも難しそうだ。
[ぴかゆ]こと由佳にも相談した。
「私がそれを拡散してもいいんだけどさ・・・暴露系が関係してるとなると世間から冷たい目を向けられてしまいそうなんだよね、そのあやりちゃんの許嫁さん。私それが怖くてできない」と言われてしまった。
「なんかやってるの?」
「ちょっと人探しをしててさ」
「行方不明!?いなくなった人の特徴は?写真は!?いつ頃いなくなったの!?」
「いや行方不明ではあるんだけど事件性のないものでさー」
ところどころあやりちゃんが頼んできたことや許嫁の人の特徴を抜き取り、かいつまんだ情報だけを伝えると礼司はなるほど、と言った。
「じゃあ、やっぱりSNSの力を使うほかないんじゃないか?」
「例えば?」
「うーん、SNSのコンテンツと言ったらやっぱり猫とか犬とかの動画?」
「それだ!」
「え?」
「今日放課後猫カフェに行こう!」
***
「だめだ全然伸びない・・・」
「犬とか猫の動画って、正直飼い主との掛け合いも大事になってくるだろうから・・・」
「じゃあなんでそれを勧めてきたんだ」
「俺が犬とか猫の動画よく見るからかな」
頼んだ手前、あまり強くは言えない。全く増えない最新動画のアナリティクスの数字をぼーっと見ていると、美月からメッセージが入った。
「ねぇ蒼くん!?幼馴染くんとデートしたの!?」
「なんで分かるんだよ」
「蒼くんのSNSのアカウントで猫カフェの動画何個か上げてたじゃん?
幼馴染くんが映り込んでいる動画がプチバズしてるよ!?俺と会えてないからってずるいよ!」
美月のメッセージを見てからすぐさまその動画を探して見ると、明らかに一つだけ再生回数が時間を置いて増え始めているのに気がついた。おそらく、おすすめ欄に載ったらしく、更新すればするたびに反応が増えていく。
「このイケメン誰!?」
「てかこの制服ってあの中高一貫の進学校じゃない?」
増えつつあるコメント欄を礼司に見せる。その瞬間、礼司の顔がみるみるうちに明るい表情へと変わっていく。以前美月を見て「誰の目にも留まるような人間になれれば自信を持ってあの子にふさわしい男になれるのかな」と寂しそうな目をしていた礼司を思い出す。今から俺が考える策を行えば、俺にとっても礼司にとってもウィンウィン間違い無しの結果につながるかもしれない。
「礼司さ、SNSのアカウント作ってみないか?」
「え?」
「俺にSNSアカウントの運営をさせてくれ!頼む!」
この通り!と手を合わせて頼むと礼司は少し目を輝かせていた。俺には礼司をプロデュースする自信がある。長い間見てきた幼馴染だけでなく、毎日のように恋リア出演者のSNSを追ってバズる撮り方や流行りのものを取り入れるのに自信がある。これが一番この状況を打開できる唯一の方法なのかもしれない。
「進捗はどうですか?」
「いや、始めたばっかりにしては伸びはいいんだけど・・・」
礼司のアカウントを作り始めて2週間。この期間でフォロワーは1000人を超えた。まずまずの結果だろうけれど、このままだといつまでかかるのかわからない。フォロワー数が何百倍もいるあやりちゃんですらその許嫁を探し出せていないのだから俺達はまだまだだ。
「そろそろ次のテストが迫ってきてるからさ、俺も蒼もそろそろテストに集中したほうがいいんじゃないか?」
「そうだな・・・」
結果的に前回のテストは奮闘して順位が7位に終わった。その結果を見て母さんは俺に今回も期待しているらしく、できれば成績はあまり落としたくはない。俺が渋々頷くと、「またテスト終わったあとにやればいいだろ」、と明るく俺の肩を叩いた。
「それじゃだめなんだよー!!」
SNSっていうのは続けて投稿することに意味があるのに期間が空いてしまっては意味がない!!と本人に伝えたかったけれどもやはり学生の本分は学業だから仕方がない。もどかしくて辛い。
「わ、蒼くんどうかしたの」
「ごめんつい」
夜遅くの予備校が終わった後、偶然近くを通りかかった美月が車で俺の家まで乗せてくれるとのことだった。おそらく、今日のは嘘できっと俺が終わるのを待ってくれていたんだと思う。なぜなら、仕事のときにつけるあの香水の匂いがしないから。今回は俺が美月の方に身を寄せ、頭を彼の肩にもたれてみた。
「お、珍しい」
「前みたいに頻繁に会えてないから、やっぱり俺お前と会えて嬉しいんだなってわかった」
「素直な蒼くん、心臓に悪いかも。俺も一つ言いたいんだけどさ」
美月がそういった瞬間、車がトンネルに入る。その瞬間目に美月の手があてがわれて、ふわっと唇に何か柔らかいものがあたった。目元から手を離されると、そこはもうトンネルを抜けていた。
「えっと、今なんか話してた?」
「あ、ごめん、言おうとしたんだけどつい手が出ちゃった」
「言葉と行動が合ってないんだよなほんと」
「あ、えっとね、言おうとしてた言葉はね、さすがにSNSで幼馴染くんを撮りすぎていると妬けるっていうか」
「それを先に言えよ」
今度は俺が言いたい言葉の代わりに彼の手をぎゅっと握って大丈夫だよと伝えた。美月みたいに上手く指を絡ませることができなくてところどころ大きい美月の手に2本の指が絡まってかっこつけることはできなかったけれど。そんな俺を見て美月は満足そうに笑った。
***
そこからテスト期間に入り、SNSの活動は一旦停止した。勉強の合間に見ていると頻繁に反応されていたインプレッションがどんどんと減速していくのが目に見えてわかった。やはり俺にはあやりちゃんの許婚を見つけることも、幼馴染の願いを叶えることもできないのか。それでも勉強に集中しないといけない。そんなジレンマに悩まされ、テストが終わっても爽快感を得ることができないテスト最終日、帰路につこうとしていたところに美月のとは違うけれど見覚えのある車が停まっているのに気がついた。
「蒼くん!」
「あやりちゃん?」
「早く乗って!」
隣をバンバンと叩いて俺を早く乗るように促す彼女は、目が血走っていた。
「たつきくんから昨日あなたが頑張っているからちょっとは譲歩してあげてってスマホをみせながら言われたのね」
「うん」
美月は俺の見えないところであやりちゃんに交渉をしてくれていたらしい。それすらも嬉しくて少し口角が上がりそうになるのを「ちょっとニヤけるのやめて、今私の話を聞いて」とピシャリと静止されて口角がはじめの位置に戻った。
「で、このアカウントを見せられたの。これあなたが運営してるのよね?この人だれ!?」
「なんで?」
「いいから答えて!」
あやりちゃんは礼司のこと何か知っているのだろうか、それともスカウトをしに来たのかな。
「こいつ、俺の幼馴染なんだけど。なんで?」
「ねぇ、この人今どこにいるの?」
「ちょ、俺の質問は「いいから!」
「ごみ捨て当番だったはずだから今掃除終わってゴミ捨て場にいるのかな?」
「案内して!」
あやりちゃんはすぐ車から降りると、「早く!」と俺の降車も促した。頭の中がはてなマークでいっぱいだけれど、あやりちゃんを追いかけるように校舎へと走る。あやりちゃんは走りながらさっき押して押した俺の質問に答えた。
「この人が私が探していた人なの!」
最短ルートでゴミ捨て場へと案内する。正直芸能関係の人を学校に案内する妄想は一度くらいはしたことがあるけれど、その最初がゴミ捨て場だなんて、誰が想像するだろうか。俺達がゴミ捨て場に着くと、そこには一人でゴミ箱にゴミ袋を入れている幼馴染が見えた。
「蒼?どうかした?なんでそんなに走ってるんだ?」
「ハァ、お前に、会わせたい、人がいるんだけど、」
後ろを振り向くと、彼女が足がもつれそうになりながらも俺たちの方へと走ってきてくれているのがわかる。足がしんどいのか下を見続けていた彼女が俺達の声に気づくと前を向いて、そこで少しずつ息を整えながら近づいてくる。
「れいちん?れいちんだよね?」
「え、その呼び方は・・・あーちゃん?」
あやりちゃんはその声を聞いた瞬間、礼司の方へと駆け出した。しかし礼司は、「俺今ゴミ触ったばかりだから!汚いから!」と制止しようとするけれどあやりちゃんはお構いなし。そのまま礼司へと飛びついた。
「ずっとずっと、会いたかったんだから。どうして私を置いて行ったりするの」
「本当にごめん」
あやりちゃんはその言葉を聞いて、大粒の涙を流した。俺が前に見た怒りを含んだ表情ではなく、本当に満たされたときに流すような喜びの涙を。ずっと好きだった人と会えて結ばれて、この二人はきっと俺が大好きな恋愛リアリティーショーと同じくらい苦しんでそれでも愛に満ちた二人の恋愛ドラマがあるのだろう。それは俺には一部始終しか知ることができない。それは二人だけのステージなのだから。
「約束通り、今日の9時破局報告をすることにするね」
その後ゴミ捨て場から(礼司は一旦手を洗いに行って荷物を取りに行ったけれど)三人とも車に戻る。今度は俺が助手席に座ってこのカップルを特等席から眺める。あやりちゃんはすっきりした顔で美月に連絡をとった。本人は今授業中で連絡がつながらなかったけれど美月のマネージャーさんに電話をして破局報告の約束を取り付けていた。
「嬉しいような淋しいような」
「あなた私たちカップルのこと応援してたもんね」
「え!?あーちゃんカップルだったの!?え!?それを蒼がしっ?知って?え?」
「・・・あー、礼司への説明は任せた!じゃあ俺はここで」
「ちょっと!?あのー蒼くん!?」
助手席のドアを勢いよく開けてそそくさと学校の最寄り駅まで走る。目的は俺のメロドラマのステージに一緒に立っていてほしいあの推しさまの学校だ。たまには俺から待ちに行くのもいいのかもしれない。
たつあやの破局報告はそれはそれは荒れた。さすがに別れた理由をお互いの知名度アップのためからきたビジネスカップルだったからと正直には書かなかったけれど、たつあやの正統派王子様とお姫様カップルの破局の悲しみはしばらく続いて、二人の個人活動のインタビューでも別れて後悔はないかと必ず聞かれるほどだった。しかし、二人とも後悔はしていないときっぱり言ったこともあり、ファンは少しずつ立ち直り始めているという。
あれから礼司はSNSの運営が功を奏し、あやりちゃんと同じ恋愛リアリティーショーに参加して無事に正式にカップルとして認められた。たつあやカップルの亡霊たちは今やれーあやカップルに夢中だという。
「蒼くん、何見てるの?」
美月の広すぎてもはや落ち着かない部屋のソファでテレビを見ていると、シャワーを浴びた後の美月が出てきた。濡れた金髪の髪の毛が美しいし、先程まで香っていた仕事用の香水の匂いが消えて安心感が出る。
「んー?今度から始まる新しい恋リアの予告」
「本当に恋リア好きだよね!俺最近連ドラとかに出始めるようになったのにそっちあんまり観てくれないじゃん!」
「んー?ちゃんと観てるけど」
「一回だけじゃん!」
「恋リアのときみたいに何回も観てくれないと!」
そう言いつつも、今日の美月はなんだか嬉しそうな顔をしている。常に口角が上がり、眉毛もずっと垂れ下がって、まるで飼い主に褒められた犬みたいだ。
「美月、今日なんか嬉しいことでもあった?」
「え?わかる!?実は家の人から連絡があってさ、母さんが俺のドラマ観てくれてるんだって!
「え!やったじゃん!」
「俺がこうやって頑張れているのは蒼くんのおかげだし、恋リアのおかげでもあるし・・・色々感謝してもしきれないや」
「その感謝は俺にメロドラマのようなときめきをもって返せよな」
「御意」
そう言って美月は俺の頬に手を添えると優しくキスをした。
