Dating reality shows really do happen.

「ゔっ・・・二人が結ばれてよかった・・・」

一人、自室でパソコン画面の前にて涙を流している俺、仲見蒼。新学期がもう少しで始まる新高校二年生だ。目の前のパソコンの画面には、白を基調としたチャペルのような場所でロマンチックに抱き合う制服姿の男女。男の子の方は、少し長めの金髪に品が良さそうな白いブレザーと黒のズボンを合わせ、高級感が伺える黒いネクタイを合わせた見た目をしている。例えるなら白馬の王子様のような格好をしていた。女の子は髪の毛を染めたことが無さそうなつやんとした長めの黒髪に、紺を基調としたセーラー服でスカートは長めで純粋な女子という印象があった。

「たつあやカップル成立めでたい・・・」

一人しかいないのに、恋愛リアリティーショーをリアタイしてスタンディングオベーションをしている俺は、かなりの恋リア中毒者だ。発端は中学の同級生だった元カノと付き合い始めたとき、「面白い恋リアがあってさー、今日オールして見ちゃった」と言われたのがきっかけだ。たしかそれは、高校1年の夏あたりだった気がする。

「どういうやつ?」
「えー、何ていうんだろう、お金持ちと庶民が出会って恋に落ちるみたいなやつかな」

彼女は同じ中学で、今は公立の学校に通っている。シックな黒地に白色のリボンを合わせた制服を揺らしながら言われたら、何となく彼女の好きなものを知るべきなのではないかと考え、脳内で特徴を捉えて家に帰って検索をしようと決めた。
告白は彼女からだった。正直恋愛感情があるかと聞かれれば頷くことはできないけれど、中等部のときは男女2:2のグループで仲良かった女子の一人だったから、その関係を崩したくなくて告白を承諾したのもある。恋愛って付き合ってから好きになることだってあると聞くし。

家に帰って早速その恋リアを調べた。この番組こそ、伝説のカップル「たつあや」が誕生した番組シリーズの「Young N Rich or Love」だ。3対3の高校生男女が集められる。シーズンによって違うが、男女どちらかがお金持ちでそうでない方は一般家庭から選ばれる。一年を通して3シーズンあり、3学期と言われるこのシーズンは男子側3人がお金持ちで、女子側が一般家庭側だった。

普段は交わることのない、一流のお金持ちもしくは芸能人の子と一般家庭の子との恋愛はまさに恋愛漫画のような展開が魅力で、恋愛リアリティーショーとは言われているがドラマを見ているかのような気分になれるのも醍醐味だ。ここで大きく活躍した子が少女漫画原作の実写映画でスクリーンデビューを飾ったり、地上波の連続ドラマで主人公の家族役をしたりする子が増えてきている。それほどまでにこの恋リアは注目を集めている。この恋リアは話の展開が面白いだけではなく、各々のアピールが一人ひとり違って面白いのだ。

まず、富豪側のアピールは見ててとても華がある。都内でも有数の高級ホテルを貸し切ってディナーとか、好きな子が憧れているバンドを呼んで二人だけのためにライブをするとかとにかく少女漫画とかドラマでしか見ないような豪華なアピールが見られるし、一般家庭側の一生懸命で胸を打つようなアピールもすごく好き。例えば手作りのお弁当とか、部活の試合に呼んで「絶対勝つから」と頭をポンポンしたりとか。見ていたらあまりにも面白くて気づけばすべてのシーズンを追ってしまい、元カノからの連絡を早めに返すことができずに浮気を疑われた。

高校が違う彼女から帰り道に駅に呼び出され、そこで問いただされた。それは多分、高校一年の冬休み前あたりだったと思う。

「蒼、どうしてそんなに連絡遅いの?私のこと嫌になった?それとも他の子好きになった?」

彼女はいつも優しい笑顔を俺に向けていたけれど、そのときは眉を下げて、悲しい気持ちを全面に表していた。俺は、彼女が好きだと言っていたものをこっそりと見て、今やっているシリーズの最新話まで追いついてからこの恋リアが好きだと言うつもりだった。いわば、小さなサプライズのようなもので。しかし、彼女がこんなに傷ついた表情をするのなら正直に言うしかない。俺は、少し恥ずかしそうに視線を地面に向けながら理由があるんだと伝えた。

「じ、実は恋リアにハマってて・・・」

内心少しうれしく思ってくれるかな、と思って顔を伺うように目線を上げると、彼女はみるみるうちに冷たい表情になった。

「は?連絡遅くなる理由が恋リア?男で?きもすぎるんですけど」

彼女は振り返らずに過ぎ去っていった。自分が恋リアの話しをしてきたのに俺が見たらこのザマかとそこで彼女への気持ちはすぐに冷めた。というのは理由付けで、俺は本当はあの子のことを好きになる努力が足りていない自分が一番良くないと乾いた笑いが出た。

そんな俺のことはいいんだ。もう数カ月も前の話なのもあるけれど、たつあやが成立したんだから。二人は最初の第一印象からお互いに惹かれ合っていたし、番組放送中にあやりちゃんの誕生日が来たときなんかホテルの大きなパーティー会場を貸し切り、巨大なプロジェクションマッピングでたつきくんが祝っていた。二人がぐっと見合う瞬間にパーンっと大きいクラッカーのような音がして色とりどりの風船が空に飛んでいく情景は忘れられない。
たつきくんは一個前シーズンからの推し、というかがんばっていい恋人をつくってほしいと思っていた子だから報われて嬉しい。これで俺の気持ちも晴れやかになる。そう気持ちを切り替えていたら、通知をオンにしているあの恋リアからの通知が来た。

[ファンミーティングのお知らせ]


「(うぅ・・・こういうの緊張するよ・・・)」

今までまともに推し活をしたこともなければ、ライブに行ったこともない俺。とりあえずこのファンミーティングに行きたいから今までのお小遣い貯金を切り崩してVIP席を購入し、前日に照会した席は前から2番目という、調べた所「神席」にあたる場所で見られることが確定して嬉しい気持ちがある反面、ソワソワと周りを見てしまう。この場はとても息苦しいものだった。周りを見渡せば女子、お姉さん、女子と続き、男は自分だけではないのかと考えてしまう。確かに恋リアのこういうイベントには女子のほうが多い気がするけれど、それでも同性がいないのがどうにも俺にとって安息がない。
元カノに言われた言葉を思い出してしまう。やはりこういったものには男はハマるべきではないのか・・・と思いぼーっとしていると肩に誰かと当たる感触がした。

「あ、すみませんよそ見してて・・・」
「こちらこそすみません」

クールにそう言って立ち去った人は俺よりも大分身長が高く、低く綺麗な声をしていた。じゃあ、と手をヒラヒラを振った彼のてのひら中央部には三角形のようにほくろが配列されていた。
なんだ、会場に男性もいたんだとホッとし、会場限定のスタンプラリーの列へと並び始めた。このスタンプラリーを全部集めるとカップルの限定ムービーが見られるとのことだった。たつあやももちろんあるため、さっと列に並ぶ。そういえば、昨日二人のSNSに更新されていた一緒に晩ごはんを食べたという投稿、美しかった。夜景の見える綺麗なレストランで、二人とも似た深い青色のドレスコードに身を包んでいたのがなんともドラマのようだった。眼福すぎて何枚も保存したくらいだ。そしてその投稿のたつきくんのカメラマン側に手を差し伸べる写真があまりにも王子様すぎて男の俺の胸が跳ねるくらいだから、おそらくカメラマンのあやりちゃんはどれだけときめいたのだろうか。それを考えながら列に並んでいると、存外自分の番が来るのが早かった。


ムービーに並んでいたり、限定グッズに並んでいたりすると時間がどうしても早く過ぎてしまい、気がつけば開場時間が始まっていて、急いで近い入口からQRコードをかざして入場する。
俺が入場してから少し経つとファンミーティングが始まった。どうやらYNRLというたつあやカップルが誕生した番組と他にも大人のラブストーリーを届ける番組や、アイドルサバイバル番組と合同でイベントを組んでいるらしかった。自分がよく知らない人だとしても、ステージに立つ人は数ヶ月前まで一般人だったとしてもキラキラと輝いている。むしろ、なんでこの輝きを他の人は気づかなかったんだと言わんばかりに。

「次はあの高校生のシンデレラ・ストーリーの恋愛リアリティーショーから成立カップルのステージです!」

司会の人がそういった瞬間、周りの人はカップルの名前が書かれたうちわをいっせいに掲げた。俺も昨日夜なべして作ってきたたつあやうちわを掲げようとして、どうやって持てばいいのか周りの人のうちわを見る。
はるきくんとやよいちゃんの番組初期に成立して数年続いているカップルである「はるよい」カップルのうちわが周りに多い。他にも昨シーズンに成立したりゅうたろうくんとゆきみちゃんの「ゆきろう」カップルとか、もちろん俺の推しカプであるたつあやカップルのうちわを掲げている人もいる。だけど、周りをもっと見ればカップルだけじゃなくて個人のうちわを持っている人も多い。はるきくんややよいちゃん、りゅうたろうくん、ゆきみちゃん、あやりちゃんの個人うちわは見られるけれどたつきくんだけ見当たらなかった。夜なべして作った自身作のうちわは「たつあや」うちわだけど、実は前シーズンからの推しであるたつきくんの個人うちわもこっそり作ったからそれも掲げてみると決めた。あまり自信はないけれど、たつあやと一緒に掲げようと一緒に持つと、後ろの席の人からトントンと肩を叩かれた。

「すみません、あんまり見えないのでうちわをもう少し低く、一個で持ってもらってもいいですか?」

ふわふわとした雰囲気の彼女はあやりちゃんのうちわを掲げていて、俺よりも大分身長が小さかった。こういうものってやっぱり小さい人に譲るのが正解なんだろうと、たつあやうちわを下げ、たつきくんのうちわ単体で持つことを決めた。周りの人がたつあやうちわを持っているんだし、俺一人だけでもたつきくんに愛を伝える人間がいてもいいよな?と思いながら。

「登場していただきましょう!どーぞ!」

白いスモークがたかれ、3組のカップルが入ってきた。俺から見て左側からはるよい、ゆきろう、たつあやが入ってくると周りから黄色い歓声が響く。周りが女子だからとても恥ずかしいが、それでもたつあやにおめでとうと言いたいし、たつきくんに応援していると気持ちを伝えたくてここに来たのだ。たつきくんが笑ってくれるならそれでいい。その気持で胸の前にたつきうちわを掲げていると、俺のうちわに気づいたのか俺に向かって手を振ってくれるたつきくん。

俺に振ってくれているのかもしれないとむくむく気持ちが湧いてきて、深夜テンションでたつきくんのうちわの裏に作った「バーンってして」といううちわを掲げ直すと、たつきくんはすぐ見てくれて、俺に向かって打ってくれた。そのときの表情が少しいたずらっ子みたいで胸がドキッとした。いつもは王子様みたいな余裕そうな表情ばかり見せてくれていたからこういう表情初めて見た。俺の脳の処理が追いつかないうちに、たつきくんは隣にいて全く違うところを見ていたあやりちゃんの肩をたたき、俺のうちわを指さした。そして少し笑うと、口パクでせーの、と言った。その瞬間二人に同時にバーンとされた俺。無事に尊さを体が受け止めきれず震える。そんな俺の後ろの席の女子たちの会話が聞こえる。

「え、あの子こんなにメロかったっけ」
「前の人がたつき推しだから自分のファンにファンサしてるのよ」
「ただのスカした王子かと思ったらめっちゃしごできじゃん」

そうなんだよ、俺の推しは王子だし、スカしてるは余計だけどしごできなんだよと言いたい気持ちを押さえているとたつきくんはそれ以降もずっと俺の所を見てくれていた。周りに同カップル推しはいても単推しはいなかったからか、それとも同性のファンが珍しかったのか。たつきくんに構われすぎてずっと心拍数が高いまま家に着いた。

家についた瞬間に、塾の先生から連絡が来ているのに気がついた。体調不良で今日休むことになっているから罪悪感が少し押し寄せてきて。最近ずっと塾のやる気は出ないけれど、今日以外は休まず行っているし、さすがに一日くらいいいだろう、と思った。

それがとんでもないことにつながると知らずに。


「蒼、あなたこの前塾サボったでしょう?」
「えあ、いやなんで」

あのファンミーティングからニ週間ほど経ったある日、海外出張を終えた母が俺の部屋にノックもなしに入ってきた。いきなりすぎて恋リアをパソコンで見ているのを隠せず、母のため息と恋リアのはしゃいだ男女の声が俺の部屋を満たしていく。サボった日は・・・あのファンミーティングの日だ。でも体調不良だと言ったはずなのにどうしてサボったとバレているんだ。

「同じ塾で同じ学校に通う子があなたがイベントにいるのを見かけたらしいじゃないの」
「う・・・」

改めて、同年代の女子たちの恋リアにおける熱の入れ具合には頭が上がらない。うちの予備校は受ける科目を自分で選べ、その科目ごとに行く時間や曜日が異なる。通う高校が中高一貫で教育に力を入れているところだからこそ、周りの人間もそれほどサボりがゆるせないのだろう。ため息をつきたいのを我慢して、ちいさくごめんなさいとあたまを下げた。

「あの塾に入れたのはあなたの力でもあるんだけど、あそこの月謝とんでもなく高いのわかってるよね?」
「は、はい・・・」
「大体、一年後期末のテストの順位、一桁じゃなかったでしょう。次また成績が下がったら留学させるって約束忘れてないわよね?」
「もちろんです・・・」

蛇に睨まれた蛙のように母の顔をまっすぐ見ることができない。

地方国立で大学教授をしている父はともかく、外資系の企業で働く母はこの目まぐるしく変わる世界情勢を目の当たりにしている職柄だからか、幼い頃から俺の教育に熱心だった。俺の進学費用のために小さいときから投資をし、しっかりと稼げる職に就いてほしいからと小さい時から成績重視の塾に入れてもらい、地元でも有名な中高一貫の学校に入学させてもらった。

それなのに俺ときたら、去年は何回か塾の宿題をやりきれずに、授業が終わったあとに自習室でやってから提出して帰ったこともあるくらいには堕落していた。帰ってからも恋リア三昧だったし、成績が落ちるのも無理はなかった。

「じゃあ今誠意を見せるためにも、携帯を出しなさい」
「え」
「今日からあなたの携帯はこれよ」

俺の手に出したのは、数分前まで操作をしていた愛用のスマートフォン。そして母の手元にあるのは真新しい白いスマートフォン。傷がつかないように同じ色のシンプルなハードカバーもされている。

「はい交換ね」

母は俺の手からまだ熱のあるスマホをとると、空いた手に白いスマホを置いた。新品なのがわかるくらいには液晶に指紋が全く無かった。というか、これ、最新機種じゃないか。

「これって最新機種のスマホじゃない?この前発売されたばっかりの」
「そう。この前のフィリピンでの商談がうまくいってね、臨時インセンティブが入ったばかりだから蒼に新しい携帯買ってあげたくてさ」

母はゆったりと口角を上げながらそう言った。ついこの間発表されたばかりのその機種はきっと同級生誰も持っていない機種で、見慣れないデザインに心が踊る。というか、さっきまで母さん怒っていたよな?と疑問が出るくらいには嬉しさが込み上げていた。

「母さんありが「でもそれ、メッセージアプリと電話とメール以外使えないようにフィルタリングしてあるから」

母の顔をよく見たら、口角は上がっているけれど目は全く笑っていなかった。背中に冷や汗が一滴ツーっと落ちていく。

「ついでにこのパソコンも持っていくわね。言っとくけど、家には保管しないから探しても無駄だからね。私これから会社で議事録作らなきゃだから会社にこれ持っていくし。
あなたが勉強するしないはあなたが決めればいいけど、したくないなら塾にやめる旨の電話をしなきゃいけないわね」

その目は塾をやめることを許していない。この問いかけはYES or NOではなく、YES or YESである。普段は優しく、おちゃらけることが大好きな母をここまで怒らせたのははじめてで、恐怖が四方八方から押し寄せる。まさに逃げ場がない。

「が、頑張ります・・・」

その言葉は今まで俺が発してきた言葉の中で一番か細くなさけないものだった。