「——待て、友人と言ったな?」
神野洸太は、思わず突っ込んでしまった。
久城蒼が話している途中にも関わらず。
でも、気になってしまったのだから仕方がない。
「俺たちは友人ではあるのか?」
大ホールの舞台の上。
俺は片手を上げながら質問した。
その頭には、控えめなタンコブがある。
「……友人だろう」
久城が呆れながら答える。
硬く丸められた台本がその手に握られていた。
ただの紙の束でも振り下ろされると痛いことは知っている。
「三年間の付き合いがあるのに、僕らに友情がなかったと?」
「そうは言っていないが……」
久城の指摘に俺は言い淀んだ。
衝撃の告白からどれくらい経っただろうか。
練習どころではなくなった俺たちは、こうして舞台の上で向かい合って話している。
久城は俺のために懇切丁寧に説明してくれている。
それはありがたい。
だが、納得がいかない。
「……俺のことが好きだと言っていた」
「ああ、そうだよ」
俺が少し照れながら呟けば、久城は即答する。
恥ずかしがる素振りも見せない久城に疑いは強まる。
「——本当に俺が好きなのか?」
またもやうっかり口を滑らせた。
口は災いの元だというのに。
案の定、スパコーンと見事な音がホールに響いた。
「い、いたぁい……」
「これで済んだことをありがたく思うんだね」
二個目のタンコブが出来た頭を抱える俺を久城は偉そうに見下ろしていた。
……やはり俺に好意を向けている態度とは思えない。
俺は不満気かつ恨めしそうに見上げる。
すると久城が両手を広げてくるりと回る。
「とりあえずお前が僕と同じ天才だということは理解したかな」
「久城がそう思っているということは分かった」
「主観的事実みたいに言うな、往生際が悪いね」
苦言を呈する久城を前に俺は顔を顰める。
そう言われても、急に自分が〝天才〟だと告げられて、すぐに受け入れられる奴はいないと思う。
しかも、この久城蒼と並び立つ存在だと?
全くもって信じられない。
しかし、また余計なことを言えばタンコブが増える。
怖い顔をした天才を前に唇を真一文字に結んだ。
すると久城は赤ん坊に話しかけるような優しい声で諭す。
「いいかい、神野。お前も脚本家なら分かるだろう。人の感情や関係の変化には、刺激が必要だと」
「……そんな刺激があったのか?」
「あるさ。分からないのかい?」
久城に問われた俺は真剣に考えてみる。
俺のことを友人だと思っている久城が俺への好意を認めることになったきっかけ、つまりは刺激か——。
とりあえず今までの部活動や学校生活を振り返ってみる。
わかりやすいのはイベントだ。
脚本においても登場人物が共通のイベントを経て、関係や感情を変化させることはよくある。
俺には行事や公演などがそれに当たるだろうか。
確かに俺たちは同じ演劇部員として、多くの舞台を作り上げてきた。
久城がこれまで語った通り、それらを経験したことで俺たちの友情は深まったと言ってもいい。
だが、それ以上のものがあっただろうか?
……正直、思いつかない。
「う、うーん……ヒントをくれ」
「図々しいね」
恥を偲んでヒントを求めたというのに、久城は鼻で笑った。
……本当に俺のことが好きなんだよな?
もう一度聞き返したくなった。
しかし、また台本で殴られると困るので黙っておく。
「……ヒントね。そうだな、人だよ」
「人?」
久城が渋々ながらも与えてくれたヒントに俺は眉を顰める。
どうやら、誰かが俺たちの関係性——正確には久城の気持ちに刺激を与えたようだ。
もう一度、思い出してみる。
人、人、人……といえば——。
「南田か?」
「必須だが、違う」
俺も南田は不可欠だと思っていたが、違うらしい。
正直もう分からない。
とりあえず思いつく限り答える。
「……あの気に食わん先輩か?」
「違う。あれは俺を毛嫌いしていて、お前が異様に敵意を向けているだけだ」
「そこまで敵意を向けたつもりはないが……あ!わかった!」
「なんだ」
「逆井だな?」
「…………」
「いたぁ!?」
無言で三発目を喰らった。
どうやら見当違いな不正解だったようだ。
……これは俺にとっては難問すぎる。
「本当にお前は僕の気持ちがわからないんだね。脚本家なのに」
「脚本は関係ないが、お前の友人として面目ない……」
「はぁ……」
久城はクソでかい溜息を吐いた。
今までに何度も久城の溜息は聞いたことがあったが、今回のは特にデカい。
「鈍感め」
そう吐き捨てると久城は改めて俺に向き直った。
久城の美しい顔が、その瞳が、俺に近付く。
「もういい。黙って僕の話を聞け。僕がいかにしてお前のようなどうしようもない馬鹿を愛してしまったのかという話をな」
「それって俺に聞かせるものなのか?」
「お前はこうして聞かせなきゃわかんないだろうが!」
「……それもそうだ」
神野洸太が納得すると久城蒼がまた語り始めた。
一度降りたはずの幕はふたたびゆっくりと上がる。
そしてバラバラになった物語が舞台の上で繋がっていく。
——暗転。
神野洸太は、思わず突っ込んでしまった。
久城蒼が話している途中にも関わらず。
でも、気になってしまったのだから仕方がない。
「俺たちは友人ではあるのか?」
大ホールの舞台の上。
俺は片手を上げながら質問した。
その頭には、控えめなタンコブがある。
「……友人だろう」
久城が呆れながら答える。
硬く丸められた台本がその手に握られていた。
ただの紙の束でも振り下ろされると痛いことは知っている。
「三年間の付き合いがあるのに、僕らに友情がなかったと?」
「そうは言っていないが……」
久城の指摘に俺は言い淀んだ。
衝撃の告白からどれくらい経っただろうか。
練習どころではなくなった俺たちは、こうして舞台の上で向かい合って話している。
久城は俺のために懇切丁寧に説明してくれている。
それはありがたい。
だが、納得がいかない。
「……俺のことが好きだと言っていた」
「ああ、そうだよ」
俺が少し照れながら呟けば、久城は即答する。
恥ずかしがる素振りも見せない久城に疑いは強まる。
「——本当に俺が好きなのか?」
またもやうっかり口を滑らせた。
口は災いの元だというのに。
案の定、スパコーンと見事な音がホールに響いた。
「い、いたぁい……」
「これで済んだことをありがたく思うんだね」
二個目のタンコブが出来た頭を抱える俺を久城は偉そうに見下ろしていた。
……やはり俺に好意を向けている態度とは思えない。
俺は不満気かつ恨めしそうに見上げる。
すると久城が両手を広げてくるりと回る。
「とりあえずお前が僕と同じ天才だということは理解したかな」
「久城がそう思っているということは分かった」
「主観的事実みたいに言うな、往生際が悪いね」
苦言を呈する久城を前に俺は顔を顰める。
そう言われても、急に自分が〝天才〟だと告げられて、すぐに受け入れられる奴はいないと思う。
しかも、この久城蒼と並び立つ存在だと?
全くもって信じられない。
しかし、また余計なことを言えばタンコブが増える。
怖い顔をした天才を前に唇を真一文字に結んだ。
すると久城は赤ん坊に話しかけるような優しい声で諭す。
「いいかい、神野。お前も脚本家なら分かるだろう。人の感情や関係の変化には、刺激が必要だと」
「……そんな刺激があったのか?」
「あるさ。分からないのかい?」
久城に問われた俺は真剣に考えてみる。
俺のことを友人だと思っている久城が俺への好意を認めることになったきっかけ、つまりは刺激か——。
とりあえず今までの部活動や学校生活を振り返ってみる。
わかりやすいのはイベントだ。
脚本においても登場人物が共通のイベントを経て、関係や感情を変化させることはよくある。
俺には行事や公演などがそれに当たるだろうか。
確かに俺たちは同じ演劇部員として、多くの舞台を作り上げてきた。
久城がこれまで語った通り、それらを経験したことで俺たちの友情は深まったと言ってもいい。
だが、それ以上のものがあっただろうか?
……正直、思いつかない。
「う、うーん……ヒントをくれ」
「図々しいね」
恥を偲んでヒントを求めたというのに、久城は鼻で笑った。
……本当に俺のことが好きなんだよな?
もう一度聞き返したくなった。
しかし、また台本で殴られると困るので黙っておく。
「……ヒントね。そうだな、人だよ」
「人?」
久城が渋々ながらも与えてくれたヒントに俺は眉を顰める。
どうやら、誰かが俺たちの関係性——正確には久城の気持ちに刺激を与えたようだ。
もう一度、思い出してみる。
人、人、人……といえば——。
「南田か?」
「必須だが、違う」
俺も南田は不可欠だと思っていたが、違うらしい。
正直もう分からない。
とりあえず思いつく限り答える。
「……あの気に食わん先輩か?」
「違う。あれは俺を毛嫌いしていて、お前が異様に敵意を向けているだけだ」
「そこまで敵意を向けたつもりはないが……あ!わかった!」
「なんだ」
「逆井だな?」
「…………」
「いたぁ!?」
無言で三発目を喰らった。
どうやら見当違いな不正解だったようだ。
……これは俺にとっては難問すぎる。
「本当にお前は僕の気持ちがわからないんだね。脚本家なのに」
「脚本は関係ないが、お前の友人として面目ない……」
「はぁ……」
久城はクソでかい溜息を吐いた。
今までに何度も久城の溜息は聞いたことがあったが、今回のは特にデカい。
「鈍感め」
そう吐き捨てると久城は改めて俺に向き直った。
久城の美しい顔が、その瞳が、俺に近付く。
「もういい。黙って僕の話を聞け。僕がいかにしてお前のようなどうしようもない馬鹿を愛してしまったのかという話をな」
「それって俺に聞かせるものなのか?」
「お前はこうして聞かせなきゃわかんないだろうが!」
「……それもそうだ」
神野洸太が納得すると久城蒼がまた語り始めた。
一度降りたはずの幕はふたたびゆっくりと上がる。
そしてバラバラになった物語が舞台の上で繋がっていく。
——暗転。
