極めて平穏でありながら、満たされたスクールライフを送る一人の高校二年生。それが僕、上杉 透の日常だった。
スパァン!
「ナイシュー透! 今日も調子いいな!」
「こっちこそサンキュー! 良いパス出してくれたおかげだよ」
味方と息を合わせて連携し、ゴールの隅へシュートを決める。砂と汗にまみれながら、チームメイトと交わすハイタッチ。部活で熱中しているハンドボールが、僕の大きな生き甲斐の一つだった。入部した日からその魅力にハマり、今では部活一筋。毎日毎日、六限目の授業が終わってハンド部のコートへ向かうのが待ち遠しかった。
そして、夢中になっていると部活が終わるのもあっという間である。瞬く間に日が沈み、部活終了の時間。道具の片付けとコート整備を終えて、部室で練習着から制服に着替える。「お疲れ~」と言いながらチームメイトに別れを告げて部室を出ると、校門の横で僕を待ち構える人影が目に入った。
「お疲れ透。今日も砂だらけになったか?」
「カズもお疲れ。いや、それを言うならカズの方が砂だらけになってるだろ」
「ははっ、それもそうだな!」
軽快な会話を交わしながら、横に並んで一緒に下校する。
彼は陸上部の若月 和久。一年生の時に同じクラスで仲良くなり、今でもこうやって一緒に下校している。今日はファミレスで夜ご飯を済ませた後、二人の好きなボウリングをしようと決めていた。
カズは走り幅跳びでインターハイへ出場するほどの実力者だ。高校の全体集会では、華々しく表彰されている背中を何度も見ている。一人で黙々と、汗を光らせながら何度も砂場へ跳躍する姿は、ハンド部のコートから見ても輝いて映っていた。そんなかっこいいクラスメイトと友達になりたくて、思い切って僕から声を掛けたというわけだ。
僕はカズほどの運動神経は無いけど……ハンドボールと走り幅跳び、お互いスポーツに打ち込む者として、すぐに打ち解けた。ハンド部のチームメイトとも仲は良いけど、今ではそれ以上にカズと過ごす時間の方が長くなった。
「なぁ、透」
「んっ?」
ファミレスに到着し、ドリンクバーのジュースで喉を潤していると、カズが珍しく真剣な表情で口を開いた。
「俺達こんなに部活に熱中してるけどさ……大学受験とか、透は考えてる?」
グラスの氷をカラリと鳴らし、僕は一瞬手を止める。
受験。正直……まだどこか他人事のようにしか思えていない話題だった。
「うーん……進学したいとは思ってるけど、勉強はぼちぼちかなぁ。別に定期テストは赤点ってわけじゃないし、部活引退したら本気でやろうかなって感じ」
今は目の前のハンドボールで頭がいっぱいで、まだ見ぬ未来のことまで頭が回っていない。それが、正直な僕の本音だった。
「って言うか、カズは心配いらないだろ! インターハイなんかに出てれば、スポーツ推薦でスカウト来ると思うけど」
「いや、俺もそれが一番の理想なんだけど──。それにだけ期待してると、どこからもスカウトが無かった時に詰むだろ。だから、最低限の勉強だけは今のうちにやっとかなきゃなって最近思い始めて──」
「……カズ、変なところで心配性発揮するんだな」
競技に打ち込む勇ましい姿とのギャップを垣間見た気がして、思わずふふっと笑みが零れる。きっとこれくらい用心深い精神だからこそ、準備や練習を怠ることがないのだろう。そう思うと、本当に志が高い奴だと改めて感心した。
しばらくして、最初に注文していた料理がようやく到着する。僕はハンバーグとライスのセット。カズはペペロンチーノの大盛りとフライドポテトの盛り合わせ。僕も食欲はある方だと思うけど、カズの食欲は僕から見ても毎回桁違いだ。
「なぁ、ポテト僕にもちょっとくれよ」
「もちろん。あっ、でも食べ過ぎるなよ! この後のボウリング中に腹減っちゃうからさ」
「ははっ。大丈夫分かってるよ」
「嘘つけ! 透いっつも『ポテトは別腹だ』とかなんとか言って、俺の分まで食うだろ」
「バレたか──。まぁ、今日のところは全国区の広い心で許せって」
「ったく……今日だけだぞ」
他愛もない雑談に花を咲かせながら、二人で声を上げて笑い合った。
何も悩むことなく笑っていられるこの時間が、一番楽しくて充実している。僕が思う高校生活の正解は、今だと断言しても良い。
このまま日にちだけが止まって、永遠に17歳が続けばいいのに──。そんなことを思いながら、僕はカズとの食事を楽しんだ。
